表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

面倒シリーズ

面倒だから仕事を増やさないでくれ!

作者: Hairu

お待たせしました!


私の名前はイノヴァンス•フォン•マレリセルという。

この国、メイラル王国の第53代目国王だ。

できれば目の前にあるこの書類の山からの現実逃避をするために昔話に付き合ってくれると嬉しい。






約30年前、当時5歳の私は周りの期待に応えようと必死に頑張っていた。

しかし勉学の先生や剣術の師匠から天才と評価されるぐらい勉強や剣は得意だったのだがどうしても魔術だけは苦手で、思うようにいかなかった。


魔術の師匠は魔力が多いから人一倍魔術の操作が大変なのだと言っていたので、それならもっと今以上に頑張らなければ! と思い練習をしていたのだが、どうしても周りの私を見る視線が気になって集中できず、王宮を抜け出した。



向かったのは王宮にある私の部屋からよく見える場所で、小さな森の中にある1本の大木を中心に円形に開いてるところだ。



別に外に出るのがこれが初めてというわけでは無いが、1人で外を歩くのは初めてで少し興奮していた。

鼻唄も歌っていたかもしれない。

その時の私は王族には必ず影がつくことなど頭からすっかり忘れ去られていたのだ。




この場所が気に入った私は何度も王宮を抜け出して魔術の練習をしていた。

その方が魔術が上手くなるような気がするし、休憩も出来てラッキーなどと考えていたのだ。


今、ラッキーなど言ったら王妃のアリステアに爆笑され、宰相と息子ーー第1王子のサイルスには冷めた目で見られるだろう。

私のプライドのために絶対に言うことはできない。





ある朝。

王宮の侍女があんなに頑張ってるのに魔術を使えなくてお気の毒にと話をしていた。

名前を出されていなくても自分の事だとわかってしまった。

別の侍女が5歳ですよ? 出来なくてもまだ大丈夫な年齢です。

と言っていたが最初の侍女の言葉が殆どの周りの者の考えだろう。



思わずその場に居られず逃げだしてしまった。

途中で姉上に声をかけられたような気もするがよく覚えていない。



暫く呆然とさまよっていたら何故かいつもの森の場所に辿りついたらしい。

習慣とは恐ろしいものだ。



大木の下に腰を下ろす。

さっきの話を思い出して目にまた涙が滲んできた。



私だって頑張っている!

別に魔術が全くできない訳ではないのだ。最下級の魔術は使える。


だから断じて私は気の毒な人間などではない!

ただ、最下級以外の魔術を使おうとしても魔力が暴走しそうになって使えないだけなのだ…。




泣きながらいつものように魔術の練習をしていると、森の西の方から小柄でキレイな少女がこちらに向かって小走りで来た。



少女は魔術を見るのが初めてのようで目をキラキラさせながら私にいろいろ質問してきた。

その熱意は凄いもので、思わず涙も引っ込んでしまった。


正直魔術の練習をしたかったのだが、まぁいいかと思い相手をしていると思いほか会話が弾み、いつの間にか日が沈んでいた。




少女はハッとなり、かなり長い間話し込んでいたことを私に謝った。

私も楽しかったので別にいい、と答えると顔があからさまにホッとしていた。


自分より年下と思われる少女が必死に背伸びしているようで微笑ましい気持ちで見ていたら、プイっと顔を逸らされてしまったが、よく見てみると耳が紅くなっていたので照れているとわかり、そっと頭を撫でた。

私には姉がいるが妹はいないので新鮮だ。


日が沈んできたので名残惜しいがお互い家に帰るためにわかれた。



その事を最近お互い好きあっていた相手と婚約できて機嫌がよかった5歳年上の姉に話したら、ため息をつかれたあと貴方もお母様に似てとても鈍感ね、と言われた。


普段の姉上だったら面倒臭いと言って聞いてもくれなかっただろう。

しかし母上が鈍感なのはわかるが、今の話を聞いて何処に私が鈍感なのかがわからない。

それをそのまま姉上に伝えるとまたため息をついたあと、自分で考えなさいと追い出された。




その後、またあの少女に会う時にもっと凄い魔術を見せられるように、今までと比べ物にならないぐらい練習した。


中級の魔術までできるようになって、師匠には、何かやってはいけない事したんですか?

なんて胡散な目をしながら疑われた。

やってはいけない事とはなんだ?

私は王太子で、一応次の王なのだが、失礼すぎないか?

まぁ、私の上達の速さを考えれば疑いたくなるのもわかるが。

もちろん何も答えず、笑うだけでとどめた。

後から聞けば、震えてしまうほどのいい笑顔だったらしい。




しかし、あれから何度あの場所に言っても彼女に会うことはなく、私も次第に王族としての政務が忙しくなり行かなくなっていた。



政務が入りだしたのは8歳からなのだが、午前は父上の政務の見学と、実践。午後は勉強、剣術、魔術。と毎日ボロボロになっていた。

今思えばあの時期が人生で一番辛く、大変だった。

もう絶対にやりたくない。




それから4年後の12歳で社交デビューを果たしたのだが、特に言うことは無い。

しいていえば、私の顔は整っているほうだったらしい。

父上や宰相、師匠たちも顔が整っていたので今までよくわからなかったのだが。

まぁ、私の王太子という地位のこともあるのだろう。


後は、よく女性に話しかけられたせいであまり他の同年代の男とは喋れなかった。

それでも気が合いそうなやつを2人ほど見つけたのでよかったと思う。






私はその間もあの森であった妹の様な少女のことを忘れていなかった。

だから3年経った15歳の誕生日パーティで見つけた時一目で気づいた。

あの時の少女だ! と。

今思えばもうこの時には既に彼女に恋に落ちていたのかもしれない。






私は挨拶に来た少女に笑いかけた。

彼女は驚いて一瞬固まってたが、なんとか気を取り戻したらしい。

覚えていたのが私だけでなくてよかった。


「お初お目にかかります。クイルベル侯爵家長女アリステア・クイルベルと申します」


貴族子女の完璧な作法だ。

父上と母上も興味深そうに見ている。

母上は事前に挨拶があったのではないのだろうか?

いや、その視線には私も含まれているので私の他のものとは違う態度に気づいたのだろう。

少し笑い方が違う程度だったと思ったのだが流石だな。




それにしても彼女があのクイルベル家の長女だとは驚きだ。

クイルベル家といえば代々古くから続く研究者の家系で様々な実績を上げているだけでなく、最近は優秀な魔術師を何人も出している王家にも信頼の厚い名門家だ。


さらに最近はまだ社交デビューしていない長女ーーーいや、今回の私の誕生日パーティでデビューしたのか。

が魔術と戦ってる様子、そしてその可愛いというより綺麗な容姿から“舞蝶”と呼ばれているらしい。



私も見てみたい。そして一緒に戦いたい。

これから仲良くなれば見れるだろうか?

でもこの狼狽えようだと仲良くなるのも大変なような気がする。


もしかしたら、いや絶対に魔術は抜かされているだろう。

私が練習した意味は.....。

頑張って上級まではできるようになったんだが‥‥。


うん。王家の王太子が魔術ができないのは評判が悪いからな意味はある。

あぁ、意味はあるんだ!






その後早く彼女の元に行きたかったが何とか我慢して会場内の全員の挨拶を終わらせた。

さらに面倒......大変だったのはいつもは適当に相手してあしらっていた女性達だ。

断っても断っても私にまとわりついてくる。

できるだけ女性には優しくをモットーにしている私でも流石に苛立った。

女性には優しくなのは姉上が後で面倒だし、さらに周りに好印象だ。

打算的で幻滅した? 貴族なんて所詮そんなもんだろう。



特に面倒だったのは王弟、つまり叔父上の娘である公爵家令嬢のミクリス嬢だ。

え? 本音ダダ漏れだって? 別にいいじゃないか本当に面倒なんだから。



確かに私たちの意志とは関係なく婚約の話が進められているのは知っている。

正確には私達王族の意志とは関係なく、だ。

父上も叔父上も珍しく恋愛結婚だったので、政略結婚はあまりにも恋愛のレの字も出てこなかった場合にしかさせる気がない。

この国は今は平和だからな。

それは周りの貴族達も知っている。

何人もの貴族が私達に縁談を持って行って失敗してるからな。


しかしここでまた面倒なのはミクリス嬢が私に好意を抱いてることにある。

これなら恋愛結婚と言えるし、公爵家なら私と身分的にも問題がない。

でも、この婚約には致命的な欠点が2つある。


1つは私が全くもってミクリス嬢に興味が無いこと。2つ目は彼女がば‥‥‥‥少し思い込みが激しい事だ。礼儀作法は公爵令嬢として完璧だが王妃になるのは難しいだろう。


彼女は一部を除いて私たち王族や上位貴族から結婚相手として除外されているのに気づいていない。

もちろん馬鹿だからという理由だけでは無いぞ。

何人も見目麗しい高位貴族の嫡男に媚を売っていたら自然と除外されるだろう?


叔父上も相手が見つからなければ外に出せばいいと考えているので教えるつもりはないらしい。

まだ決まっていない未来の彼女の夫やその周りに同情する。


一応貴族の女性としての教養は完璧なので、公爵との繋がりが欲しいからと彼女のことを欲する貴族は多い。





何とか女性達を撒いたのでアリステア嬢を探していると壁に凭れているのを見つけた。

彼女はあのクレイベル家だし、それだけではなく彼女自身もとても魅力的だ。

壁の花なのは今だけだろう。

急がないと話す機会が無くなってしまう。

何人か彼女に話しかけようとしている者もいるしな。


初めての女性でも飲める、私オススメのお酒が入ったグラスを2つ持って彼女の元へ向かう。



「アリステア嬢、初めての社交パーティは如何か?」


私が話しかけ、グラスを渡すと周りからの視線がいっせいに彼女へ向けられる。

本当に面倒臭い。少しは私を気にしないでパーティを楽しんでくれないものか。

ほら、王族なら姉上が婚約者殿とラブラブじゃないか、後は私の親友の1人である従兄弟の宰相子息が暇そうにしているぞ? さっきまで令嬢に囲まれていたがな。

しかし彼女は視線よりも私が声を掛けてきたことに驚いたようだ。


「王太子殿下! お気遣いありがとうございます。想像していたものより少し違いましたが大変面白い所ですね」


クスクスと笑いながら面白いという言葉に含みを持たせて言う。


「イノヴァンスでいい。確かに、とても有意義な時間を過ごせる。

それと前のような口調でもいいのだがな?」


ニヤリという音が聞こえそうな笑みを浮かべてからかうと、普通の謝罪をしている筈なのに地に頭がつくのではないか、と錯覚させるような予想以上に面白い謝罪がかえってきた。


「その度は大変ご無礼をおかけしました。

ありがとうございます、がしかし殿下をお名前でお呼びするなど恐れ多いことです」


「まあいい。そういえばアリステア嬢は“舞蝶”と呼ばれているとか。魔術は以前とは逆転してしまったな。もし闘ったら負けてしまうかもしれん」


「その二つ名は少し恥ずかしいですね。

しなやかな剣使いと重たい一撃が怒涛の勢いで迫りくる。その様子は龍のようと言われる“金龍”に勝てるとは到底思われませんわ」


魔術の事を否定しないところを見ると相当自信があるらしい。

さっきまでの私の心配は無用だったな。

確かに彼女の行動は謙虚だ、そしてそれは別に偽りではないだろう。でも、折れない芯がある。魔術もその一つだろう。


改めて考えると少し悔しくなってきた。

少しだぞ? 本当だからな?


「いつか手合わせ願いたいな。そういえば‥‥」


「殿下お久しぶりですな。実は今回我が娘も連れて参りまったのです」


「あぁ、イラベル侯爵。それではアリステア嬢また今度」


「はい、殿下。失礼します」


チッ、面倒臭いやつが来たな。せっかくアリステア嬢と話していたのに。

知ってるか? 無理矢理ススメてもいい印象はないだぞ?

私はそういう事をされると機嫌が悪くなるからな。


それに私はお淑やかな女性も好きだが、姉上みたいな元気な令嬢の方が好きだしな。

うるさい。シスコンだってことぐらい自覚しているわ!









その後は一年後に入ってきたアリステア嬢と一緒に学園で暴れたり。

途中で彼女への気持ちが恋だとわかり猛アタックをしていたら、男爵家の令嬢が有力貴族(私達に関わっていたもの以外)を侍らして問題になったり。

最後の卒業パーティーで彼女にプロポーズしてまた騒動があったが受け入れてもらえた。




今までのことを改めて振り返っても本当に彼女といると飽きることはない。

彼女の下にはトラブルが自ら進んで出てくるからな。

その事を言ったら彼女からは、私ではありませんよ、貴方です! と返ってきたがアリステアに会うまでたいしたことは起こらなかったのだが。





そしてまた面倒事が彼女の近くで起こった。

まぁ、今回は彼女と言うより私達の息子なのだが。


あれは、彼女が作った《アミリィ・スレイ》でお茶会がある日だった。

アミリィ・スレイは私でも簡単には入れない、とても幻想的で綺麗な場所だ。

でも、それより彼女のあそこにかける熱意の方が凄い。

そして入るための手順が面倒臭すぎる。



まぁ、それは置いといて。

政務中にいきなりアリステアから念話があり、調べて欲しい事があると連絡があった。

それも彼女が個人的に持ってる“闇”ではなく王家の諜報部隊である“影”を使って欲しいと来た。

それは彼女が王妃として知りたい事があるということだ。

そんな事滅多に無い。

もしかしたら大事になるものかもしれない。

急遽仕事を中断して話を聞く。

秘書にぶつくさ文句を言われたが無視だ。

最近秘書から私への遠慮が無くなってきた気がする‥‥。


内容は彼女の庭に次男とその取り巻きたちが1人の少女を連れてやって来て、いきなり今回のお茶会の客である彼等の婚約者達を罵っていったらしい、アリステアを無視して。

無視されていたので1人でいろいろと考えてみたらその少女から挨拶を受けていないと気付き調べてみたいとの事だ。


王妃への事前挨拶が無いのに出歩いているのはおかしい。それと学園にも。

確かに後ろめたい事があると思われても仕方がない。

直ぐに男爵家を“影”に調べさせよう。ついでにその少女の事も。


それにしてもアリステアが無視されていたのか?

あのアリステアが?

ふっ、奴らはある意味で逸材かもしれないな。

彼女を無視するなんて。

絶対に私では怖くて出来ない。

尻にひかれているのはご愛嬌だ。



僅か3分足らずで報告書が来た。

うちの“影”は本当に優秀だ。



で、出た内容に思わず笑う。

いくら何でもこの不正&ヤバイ情報が集まりすぎだ。

もっとしっかり隠蔽をしときなさい、と説教したくなる。

最初の方はまだちょっとずつ提出する税の値段を少なくしただけなのに、隣国と密通した後はいきなり国庫から金を騙し取っているし。


何で今までこんなわかりやすい貴族の情報が私に来てなかったのかを聞いてみるといつでも対処出来る、所謂雑魚だからとの事だ。


その事も勿論全てアリステアに教えた。

そして私は耐えきれず声を上げて爆笑し、彼女は何とか声を上げるのは我慢したみたいだが念話で相当笑っていた。




あ、ちなみに男爵家令嬢の方は全部自作自演だっらしい。







まぁこれがざっと説明げんじつとうひした私の今までだ。


ふと、ドアが閉まった音がする。

秘書が全員いなくなった。つまり、私一人。

窓も鍵がかかっていない。

もしかしたら最後に出ていった秘書は新人だったのかもしれない。もし鍵があってもこじ開けるがな。


此処は2階だ。危険ではない。

飛び降りても。

そしたら当然するのは‥‥‥‥‥‥


脱走だ!!!


それでは皆、私はここで失礼する!






その後10分後に秘書たちに見つかりました。

やっぱり彼等の私への対応が雑になっているよな?

すみません、最後の方で力尽きました…。


読んでくださってありがとうございました!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  やっぱり王様は王妃様と似た者夫婦のようですね(笑)。 (戴冠前の時点で次期)国王じゃなかったら『王族による外交は大切』と称して世界中を渡り歩いていたのでは?  第1王子の腹黒気味な賢さは、…
[良い点] 面白かったです。王様が少し哀れでクスッとしました。 [気になる点] ポイントをポチっとの一文は消したほうがよいのでは? 確かそういった行為はNGだった気が…勘違いだったら申し訳ないです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ