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暫くソファに身を埋めたままでいると、眠気が僕を誘うようになった。兄は少し前に部屋を出ていった。今は昼だろうか、夜だろうか。いつもはおおよその見当ならば即座につく筈なのに、何故か今日に至ってはわからない。目が覚めてから何時間が経ったのだろう。
浅く微睡んでいた最中、兄は僕に何か言ったようだが、よく聞こえなかった。やがて玄関の戸が静かに閉じられたことで、きっと外出する旨を告げたのだと納得する。
静まり返った部屋の中で、僕は一人だ。しかし、兄は僕の存在する世界から消えた訳ではない。僕のいるこの場所を中心とした幾つかの同心円状の中で、彼が消滅することは有り得ないのだと考える。
余り、目覚めはよくないだろうなと思った。疲労がないのに眠りたくなるのは、決して良い兆候ではない。張りつめた空気は、そのまま僕の胸の内だ。深い混沌に呑まれてゆくのを拒めなかった。