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常に僕はその景色ともいえない空間下にいるという事実を、他人に理解して貰おうと働きかけたのは、これで何度目になるかわからない。同様に彼の、また彼らの言う「見える」という状況について考えたことも数えきれない。
例えば海の色を尋ねれば、得てして青だという答えが返ってくるし、照明を付けた理由を訊けば、暗くて文字が読めないからだと説明される。僕は自ら取り込んだ知識でさえも、完全に手の内にすることは出来ないのだと知った。
時折兄は、僕に色彩だとか明暗だとかを教えようと躍起になった。そんなとき、決まって彼は僕にあらゆるものを手に取らせ、口にさせたり、音楽を聞かせた。視覚を除いた五感が享受するものから、しきりに僕に感想を述べろと催促した。