R-side 02
/R-Side.
「こら起きろ月夜野」
「ふわいっ!?」
後頭部に鈍い痛み。多分出席簿で軽く小突かれたのだと思う。暖かな春の日差しにさらされた俺は、まどろみの中に沈んでしまったらしい。
「れ? 母さん?」
「こ、ここでは『先生』と呼びなさい」
「あ、はい、先生」
クラスから笑い声が上がる。よりにもよって母さんの授業で寝てしまうとは、大失敗である。……家に帰って何を言われるか……考えるだけで背中が寒かった。冷や汗的な意味でである。それから暫くの間、授業中だというのにクラスの連中にからかわれてた。母さんからは公私の区別位付けろなんて言われたが、母さん少し頬を赤くしていた所を見ると、多分少々恥ずかしかったのだろう。これはいけない。恐らく今晩のおかずが一品減らされてしまうだろう。それは深刻な問題だった。深刻な問題だった。
「全く、宿題をちゃんとやって来てくれたと思えば、居眠りとは……灰兎は私が嫌いなのか?」
「や、大好きだし。愛してるし」
「ば、馬鹿者!!」
「出た、月夜野のマザコン発言」
「マザコンではありません」
「灰兎、恥ずかしい事を言うんじゃない!」
「月夜野先生可愛い!」
「こら、お前らもからかうな!」
クラスの連中にからかわれる対象をさり気なく母さんに挿げ替えて、俺は黒板の文字をさっとノートに写してしまう。
まぁ、先程お茶を濁したがこう言う事だ。母さんの職場は俺の通う私立由芽崎学院高等部。ここでは国語の教諭として働いている。実は去年の春から採用された新米さんだ。免許は持っていたが、働き出したのは最近である。それもこれも、俺を大学に行かせる為だと言うのだから、本当に申し訳ない。俺の学力がそこそこ良くて、国公立を狙えればそんな事は必要なかったのかも知れないが、俺の残念なお頭では、私立も考えなくてはならず、結果貯蓄の増強の為母さんはこの学校で働く事になったのだ。ちなみにこの学校の理事長は母さんの友人の親御さんで、俺の学費や母さんの採用等その人にお世話になりっぱなしなのである。理事長は大学部もうちでいいじゃないか? と言ってくれるが、流石に学費は納めないと……と思い、俺もアルバイト等を始めた次第である。
チャイムが鳴り、母さんは助かったとばかりに挨拶を済ませて教室を後にし、結果からかい足りなかった友人達はそのまま自然と俺の周りに集まって来るのだった。
「お前、アレわざとか?」
「アレ?」
「間違えて『母さん』って呼んだり、『大好きだ』とか言ったりさ?」
「ああ、いや、素だよ?」
「はいはい、ご馳走様でした」
代わる代わるそんな風に話しかけられる俺は、そんな質問達を適当にあしらいながら、先程まで見ていた筈の夢の事を思い出そうとしていた。
あれ? 見てたっけ? 見てたよな、夢? 見てたっけなぁ?
何故だろうか、そんな簡単な事が、
「月夜野先生、可愛いよなぁ……お前みたいな息子がいるとは思えない若さだよ」
「ああ、そうかい」
思い出せなかった。どうしても思い出せなかった。
でも、一つだけ解った事がある。
それは、
「あ、弁当忘れた」
この夢の内容を、俺は思い出さなくてはならないんだと思う。
理由は解らない。根拠もない。でも、間違いなくそうなんだって俺の心が言っていた。




