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R-side 12

/R-Side.



「灰兎……おかえりなさい」

「ただいま、母さん」

 それなりに長い入院を終えて、懐かしの我が家に帰宅した。迎えに来てくれた母さんが先に玄関をくぐりくるりと振り返ってそう言ってくれた時、言い様のない愛しさが溢れた気がした。

「灰兎」

「ん?」

 じっと俺を見つめる母さん。心なしか少し潤んでないか?

「な、何? どうしたのさ?」

 それはまるでキスでもせがむ恋人のような熱視線。変な妄想のせいで、俺の頬はきっと真っ赤になっていただろう。

 母さんとキスなんて何考えてんだよ俺は……

「………」

「母さん?」

 真っ直ぐな視線に貫かれた俺は、まるで石にでもなったかの様に動けなくなっていた。真っ赤になっているであろう顔を悟られまいと、必死に顔だけ反らす俺。

 それは実に滑稽な姿だったろう。

「………駄目か……」

「え?」

 一瞬、母さんはそう一言残して、残念そうに玄関の植木鉢の花を撫でると、次の瞬間にはいつも通りの笑顔になっていた。

「さって、灰兎。病院食には飽きたと言っていたな。何でも好きなものを作ってやるぞ!」

「なら、母さん特製のハンバーグがいいな」

「灰兎、余りに予想通り過ぎだ……そう言うと思って既にタネは準備済みだよ」

「さっすが母さん♪」

 陰った様に見えた母さんの顔は物凄く楽しそうで、さっきのアレは俺の見間違えじゃないかって思えて来た。それ位元気だった。



「「いただきまーすっ!」」

 好きなワインを開けて、俺にも飲ませて、珍しく大騒ぎな母さんに見とれて、美味しい料理とワインに酔って、楽しい気持ちで一杯になりながら、

「灰兎ぉ~!」

「母さん、飲み過ぎだよ……」

 はしゃぐ母さんが何故か無理している様に見えたのだ。

「約束」

「え?」

「約束、ちゃんと守ってね?」

「約束って、なんのっ!?」

「んむ……」

 酔っ払いな母さんは、いきなり俺の唇を自分の唇で塞いだ。

「か、母さんっ!?」

「えへへへ……」

 それは実に酒臭いキスだった。戸惑いも驚きもなく、俺の心を満たしたのは不思議な充足感だった。

それが不思議でならなかった。



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