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R-side 01

/R-Side.



「あれ?」

 俺は布団の中で今度こそ、目を覚ました。

「今度こそ?」

 自分の頭の中に浮かんだ『今度こそ』と言う言葉が気になった。

「今度こそってどういう事だよ?」

 自分で自分に問いかけるが、その答えは見つからない。『今度こそ』って事は、俺が布団で目を覚ます前に、全く別の場所で目を覚ましたって事になるのだろうが、生憎俺は生まれてこの方、布団の中以外で目を覚ました事はないのである。もしかしたら『夢』でも見ていたのかも知れないな。何て、一応自分の疑問に結論を設けてから、俺は布団からもぞもぞと這い出て、いつも通り制服に袖を通した。



「おはよう、母さん」

「おはよう、(かい)()。よく眠れた?」

 リビングに顔を出すと、母さんが旨そうな匂いをさせた朝食をテーブルに並べていた。よく眠れたかどうかだが、直ぐには答えられなかった。何となく、変な夢を見た気がしたから、もしかしたら眠りが浅かったのかも知れないと思ったのだ。まぁ、その内容も思い出せない様な夢なのだから、きっと大した事はないのだろうが。

「多分眠れた……と思う」

「そう、なら良かった」

 そんな会話をしながら、つけっ放しのTVに目を向けるとアフガンだかの紛争地帯の映像が流れていた。

「あ……れ?」

「どうしたの、灰兎?」

「いや、……別に、何でもない」

 その映像が、何故か気になった。理由は解らない。

「……ご飯冷めますよ?」

「ああ、うん」

 解らないものを気にしてもしょうがないと、俺はその事をもう気にしない事にした。

 俺は月夜野(つきよの)灰兎、十八歳。高校三年、部活は帰宅部だ。親父が死んで母さん二人暮らしを始めてから随分になる。家の母さん、月夜野歩夢(あゆむ)。基本的には俺と母さんの二人暮らし。俺はまだ学生なのでバイトしか出来ないが、母さんはしっかり働いている。いや、まぁ、その職場が些か問題な訳だが……

「灰兎、今日の古典の宿題、ちゃんとやった?」

「え? ああ、うん。母さん忘れると怖いもんなぁ……」

「何ですか、それ?」

「いえいえ、何でもないですよ」

 まぁ、その職場もその内分かるので、今は敢えて明かさない様にしておこう。

 何かもう今の会話で明かされている気がしないでもないけどさ。

「ま、いいでしょう。後で分かる事ですし」

「あはは、だからやったって」

「そう言う事にしておきます」

「うへーい」

 あの顔は全然信じていない顔だな……いや、本当に今回はやってあるんだぞ? マジで。確かにこの前はそう言ってやっていない事もあったけど今日はちゃんとやってあるのだ。なんて、いつも以上にいつも通りの朝な訳だが……しかし、

『依然情勢は変わらず、均衡状態が続いております……』

「………」

「……灰兎?」

「ん?」

「どうしたの?」

「いや、何でもないよ、母さん」

 やはり、どうしてか、

「ニュースなんて見て、考え事なんて、灰兎らしくないです」

「いや、俺だってニュース見て世界情勢とか考えたりもする事も無いという事は無きにしも非ずと言えない事も無いと言うか何と言うか……」

「結局どっちなんですか……全く」

 俺はそのTVに映し出される廃墟と言うか、戦場と言うか、『荒野』と言う物に引っかかりを感じて仕方なかった。先程も言ったが、理由は分からない。分からないのだが……

「さぁ、そろそろ出かけないと間に合いませんよ? それとも車に乗って行きますか?」

「お断りです」

「そう、では行ってらっしゃい」

「行ってきます、母さん」

 残りの朝食を一気に腹の中に押し込んで、俺は鞄を担いで学校へと向うのだった。

「うっし、今日も一日頑張ろう」

 気がかりな事も確かにあったが、概ねいつも通りの朝は、こうして何事も無く過ぎていくのだった。



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