D-side 06
/D-Side.
「えっと、ここは?」
目覚めるとそこは、廃墟の中の一室の様だった。
「んぅ……」
俺の腕の中で眠るひよこ。もうすっかり俺になついたものである。その可愛い寝顔には、やはり誰か面影を感じるものの、それが誰の面影なのか思い出せない。この廃墟だって、見覚えがあるかと聞かれれば「ない」と即答出来てしまう位に見覚えが無い。
「よだれ、垂れてるし……」
ハンカチなどを探したが、生憎持ち合わせていなかったので、仕方がないから俺の服の袖で拭いてやった。少しむず痒そうにしてから、ひよこはニヘラと笑った。俺のこの世界での唯一の癒し的存在の位置をほしいままにしそうな姿だった。
「ん……とりとともにさりぬ……むにゅ……」
「意味不明だな」
謎の寝言もなんか和んだ。
「収穫なしか……」
そもそも何を持って『収穫』とするのかすら微妙だが、俺の記憶は依然戻らないままだし、廃墟の窓から見える景色も、自然こそ増えどもそれ以外は一向に変わらない。季節感もアレから保々変化無しで、初夏と言った雰囲気だ。俺にも世界にも変化が無いのであれば、『収穫なし』と俺が判断しても問題なかろう。唯一の変化とすれば、
「んん……」
俺の腕の中にすっぽりと納まっているひよこ位のものである。初期の余所余所しい雰囲気は何処へやら、この廃墟を探索する時も俺の服の裾離さなかったし、何処に行くにも付いてくるし、こうして休憩するとき等はへばりつく様にしてくる。もうなつきまくりである。
「ったく、可愛い顔しやがってよ……」
目にかかる前髪を指でのけてやると、むず痒そうに瞼をきつくむすんだ後、弛緩する様に身体から力を抜いていく。しまりの無い口から、少しよだれが垂れていたので、俺の服の袖でそれをそっと拭ってやった。
「んん……カイト……」
「ん?」
ひよこが口にした言葉は、名前だろうか? 何故名前だと思ったのかは分からない。でも、何故か名前なんじゃないかって思ったんだ。以前何処かで何度も聞いた名前の様な……思い出そうにも、思い出せない。思い出す事が今の俺の目的の一つなのだから重い出せなくてもどうしようもない。でも、間違いなく名前だと思った。根拠は無い。
そう言えば目覚めた時に立ってないのは今回が初だ。いや、もしかしたら今回がいつもより意識の覚醒が早いだけで、いつもこんな風に目を覚まして歩き出しているのかも知れないが、俺は別に歩きたいとも思ってないし、現実ぐっすり眠っているこいつを起こしてまで立ち上がろうとも思わない。ので、あくまで推測だが、やはり今回はいつもとは違うのだろうと勝手に思う。いや、今まで立っているか歩いているかで違いがあったと考えれば、新しいバリエーションが増えただけかも知れないな。小難しい事を抜きにして端的に言えば、結局何も分からないのだ。
「いや、なんかさっきまで『夢』見てたな……」
依然も感じた漠然とした『夢を見た気がする』と言うイメージではなく、今回は『夢を見ていた』とハッキリ言い切ることが出来る。俺は間違いなく夢を見ていた。
「そうか、『カイト』って、その夢で聞いた名前だった気がする……」
おぼろげながら頭に残っている記憶と呼ぶにはあやふや過ぎる何かの中で、誰かが確かに『カイト』と呼ばれていた気がするのだ。それは自分の事だった様にも思えるし、自分が誰かにそう呼びかけていた気もする。いや、もしかしたら、自分でも相手でもない誰かが、全くの第三者が全くの第三者、いやこの場合第四者か? を呼んでいたのかも知れない。つまりは良く分からないのだが、それでも、『夢の中に』その『カイト』なる人物は確かに存在していたのだ。
「……結局、誰が『カイト』なんだ?」
その疑問に答える人物は居ない。俺以外の人間と言えば、俺の腕の中でグースカ眠るひよこ位のものだが、残念ながらこいつはぐっすり夢の中だ。起こして聞いてみると言う選択肢が無い訳でも無いが、今はこの、
「ホント、気持ち良さそうに寝てやがる」
可愛らしい寝顔を眺めていたいなんて、そんな恥ずかしい事を考えている俺だったりした。
「……ん、なんか……」
「んぅ」
しかも、
「こいつの寝顔見ていたら、俺も眠く……」
ひよこにつられて、俺自身もいつの間にか、
「なって……き……て……」
しっかり船をこいでいるのだった。




