《500文字小説》夕暮れ時に見た夢は
ふと時計を見る。中途半端に時間が余ってしまった。
僕の故郷が、そこから電車で三十分程の所にある。出張に来たついでに実家に顔を出して行こう、と下りの電車に乗った。
故郷を思う時、必ず浮かぶ顔がある。高校生の時に付き合っていた彼女だ。告白する時、心臓が止まりそうな程緊張した事、初めて手を繋いだ時の幸福感、初めてのキスで歯がぶつかった時の気まずさ。あれから何人かの女と付き合ったが、彼女ほど好きになった相手はいなかった。
「そういえば、くるみちゃんの娘さん、来年小学校だね」
その名前にハッとして、目を向けた。通路を挟んだ隣に、僕の母親と同じくらいの人達が座っていた。
「あの子、十代で結婚した上、旦那さんも十以上年上だからね。良い相手に会えて良かったよ」
「確か高校卒業の直前に妊娠したんだっけ?でも相手は大学に行くからって、さっさとこの町出てって。結局あの子一人で堕ろしたんだよね」
「苦しんでる女を一人残して自分だけ逃げるような男だもの。別れて正解だよ」
僕は次の駅で降りた。
自分の中では甘い記憶でも、彼女にとって僕は、思い出したくもない過去なのだろう。
上り電車を待つホームを冷たい夕暮れ時の風が吹き抜けていった。
「秋」という言葉に私は「ノスタルジア」という言葉を連想します。そして何故か、このような話になりました……次は何か紅葉の関連する話を書きたいと思います……