〜 消えた秘密基地 〜
少し、読みにくい箇所があるかもしれませんが御了承下さい。
皆さんは子供の頃『秘密基地』なるものを作った事はありますか?
はたまた、こんな体験はした事はないでしょうか?
『一度行ったあの場所が、何度行ってみても見つからないーーー』
私が、その体験をしていた事に気付かされたのは、小学校五、六年の時だったと思います。
当時、大人気だったあるアニメでその主人公の幼い頃のエピソードをやっていたのです。内容はこうでした。
母親にピクニックをするのだと言い、お弁当を作ってもらった主人公はウキウキしながら一人、出掛けました。
ピクニックだという名目通り、主人公はいつもより遠出をするのです。 遠出をした先で、素敵な場所を見つけた主人公はそこで母親に作ってもらったお弁当を広げようとした時、そこの地域の子供に声を掛けられたのです。
確か、私の記憶があやふやなのですが……そこでその子供と仲良くなった主人公が見つけたその素敵な場所で夕暮れまで遊び、また遊ぼうねと約束をして帰り、次の日かにその場所へ行こうとするのですが、何度挑戦してもその場所に辿り着けなかったーーー
というお話でした。
そのアニメを見て、私は忘れていたあの記憶を思い出したのです。
そう、あれはあのアニメと同じ年頃で、幼稚園に上がる前だったと思います。 その当時、すぐ近所にいた幼なじみのMちゃんと良く遊んでいました。
その当時は自分達がやっていることが大事だという事を知らずに過ごしていたのですが、私の母曰わく、二人揃うといつも何かしら悪さをして、まるでチビッコギャングの様だったといつしか話してくれました。
多分その時も、悪さの虫が疼いてした体験だったのかもしれません。
私達は、いつものように家の側の坂の上にある公園を抜け、その先にある小さな雑木林で探検ゴッコをして遊んでいました。
そこは公園から入って左手に小さな車道、右手に少し古いアパートが建っており、雑木林の突き当たりは線路で進入しないようにフェンスが張ってありました。
アパートの裏側は線路と隣接しており、少し窪地になっていて、そこのアパートに住む学生さんが捨てているのか、沢山の雑誌が落ちているのです。私達はそれを『お宝』と言って拾っては読んでいたのです。
中にはイケない雑誌もあり、二人してそれをコッソリ見ては
「エッチやなぁ」
と言い合って笑ったり、その本を放り投げたりして遊んだり、とても女の子とは思えない遊びをしていたのです。
暫くして、その遊びに飽きてしまった私達は、たまには線路を超えて遊びにいってみようか、と考えたのですが、さすがにそれは思い留まり別の遊びを考えたのです。
とりあえず、いつも遊ぶテリトリーを越えてはどうか?と思い立ち二人はそれに合意し、笑顔で意味あり気に顔を合わせると、ガッチリ手を繋いで目の前の車道を渡ったのです。
この車道は、良く駄菓子屋さんに行くのに使うので、ここから更に奥へと私達は進みました。
丁度、駄菓子屋さんとタバコ屋さんの間に下り坂が私達のテリトリー外なのです。
そこを躊躇いもせずキャッキャッと、はしゃぎながら二人はテリトリー外を超えたのです。
新しい場所、二人は嬉しくて飛び跳ねました。
「あさぎちゃん、やったな」
「うん、ほな探検しよか!」
そう言って再び手を繋ぎ、その下り坂の道を歩きます。
少し違う道に入っただけなのに、こんなにも景色が変わって見える、それが何だか凄く嬉しくて二人の、周りを見渡す瞳は輝いていました。
下った先は、すこし高級な住宅が並ぶ道で、色んな門構えの家に
「あんな家に住みたいなぁ」
等と話しながら歩いていました。
そんな高級住宅街の中に、不似合いなアパートがひとつ目に入ったのです。
少し古くて二階建て、鉄製の階段がついていましたが、青い塗料が所々剥げていて、錆びた色が見えていました。
建っている場所も少し不自然で、住宅と住宅の間にあり、そのせいでアパートの奥まった所は日当たりがなく、不気味さを醸し出していました。
「ここ、ちゃんと人、住んでんのかな?」
そう口に出したのは私でした。 Mちゃんは何を思ったのかその薄暗いアパートへ一人、フラフラと入って行ったのです。私が止めようと手を伸ばしたら、すぐに暗い奥から私を呼ぶMちゃんの声がしました。
「おるみたいやで、だってほら三輪車あるもん」
その声に私は慌てて彼女の傍まで行き、Mちゃんが指差す物を見ました。確かに差す場所には、まだ真新しい黄色の三輪車がありました。
するといきなりMちゃんが更に奥へキャッキャッと笑い声を上げて走って行ったのです。
私はびっくりして茫然としていると、奥からMちゃんは私に
「あさぎちゃん、ここで鬼ごっこしよや!」
と言い出し奥へ奥へと走って行きます。 私は薄暗いそこに、少し後退りしましたがMちゃんの早く、早くと急かす声にえいっ! と気合いを入れて彼女を追ったのです。
初めは暗くて、何が何だかわからなかった私でしたが、次第に暗闇に慣れ、必死に彼女を捕まえようと奮闘しました。
そんな時、一瞬だけですが彼女のお母さんの手作りだという派手なワンピースがチラリ、チラリと色を見せたのです。
何だか後ろから光を当てられた様で、彼女の顔は見えないのですが、体の線が逆光を浴びてくっきり見えました。
私は彼女を追うのをやめ、その光の元を探しました。 良く見るとコンクリートの壁に小さな穴がぽっかり開いているのです。穴の大きさは、私達位の子供が一人、入れるか入れないか位の大きさで、中を覗くと明るい光が見えました。
私は迷わずその穴に顔を突っ込みました。
それを見ていたMちゃんは、後ろから不思議そうに
「あさぎちゃん、その穴なんやろなぁ?」
と聞いてきのたので、一度穴から頭を出し、わからんと返し、先に穴の中へ進んでみたのです。
穴は意外に狭く、縦幅は拳ひとつ分余裕があったのですが、横幅がギリギリで少し無理に入ると衣服が擦れ、ドロドロになってしまいました。
それにも構わず私は、ほふく前進で穴の中を進みました。
ようやく這い出たそこは、緑をそのままに、住宅の裏側で空き地になっていました。 ぽかんと開いたその空間に私は驚き、首を巡らしているとMちゃんも穴から這い出てきて、同じようにびっくりしていました。
「あさぎちゃん……ここ、何?」
Mちゃんは呆然と私に聞いてきました。 聞かれた私も知る由もなく、ただわからん、と首を振るだけです。
足元にはクローバーが沢山茂っており、所々に蓮華草のような花が咲いていて、どこかの河原に迷い込んだかのようでした。
暫く二人して驚いた後は、しきりに四つ葉のクローバーはないかと探し始めていました。
そうこうしている内に、四つ葉のクローバー探しに飽きた私達は、次に蓮華草で花輪を作ろうという事になり、今度は花摘みに夢中になる。
そこでバッタに遭遇すれば、花摘みそっちのけでバッタ捕りに夢中になったり……。
ひとしきり遊んで疲れた私達は、そのまま草の上にゴロンと寝転がり、二人して空を見上げました。
気が付けば、空はほんのり黄金色で、そろそろ帰らなければならない時間になっていました。
「Mちゃん……そろそろ夕方やなぁ」
隣に寝転がるMちゃんに、空を見ながら言うと彼女はうん、と言ったっきり返事が返ってきませんでした。
私もそれきり黙り、静かに黄金色に染まっていく空を見ていました。
「あさぎちゃん?」
そう、急にMちゃんに呼ばれた私は、ん? と返事をし横を向くと、彼女はニコニコした横顔でこう言ったのです。
「ここ、うちらの秘密基地にしよや。 あさぎちゃんとうち、二人の秘密の場所や!」
私はその言葉を聞いて、瞳を輝かせました。
「うん! それいいな、そうしよう! 私とMちゃんの秘密の場所! 秘密基地や!」
興奮し、はしゃぎながら起きあがると、Mちゃんも起き上がり、私の方を向いて口元に人差し指をあてると、真剣な顔をして、念を押すように、
「絶っ対、他の人に言うたらアカンで!」
と言うので、私は強く頷きました。 それを見たMちゃんはすぐに満面の笑顔になり、帰ろか、と立ち上がったので私もうん、とまた頷いてまたあの穴の所へ戻り、この場所を後にしたのです。
穴を再び抜け、あの薄暗いアパートに戻ってみると、夕方で人が帰ってきたのか、台所だろう明かりがひとつ点いていて、中から子供と母親の会話する声が聞こえていました。
「ちゃんと人、おったみたい」
と小声で私が言うと、二人でクスクス笑いながら薄暗いそのアパートを出たのです。
道に出た私達は再び手を繋ぐと、昼間とは逆で家のある方へ歩き、坂を上りました。
「あさぎちゃん、また来よな」
「うん、また来よな」
と言い合いながら、公園の前の坂を下り、一人一人自分の家へ帰りました。
しかし、それから二人は何度かあの場所へ行ってみたのですが、穴はどこにも無く、あの秘密基地へは辿り着けなかったのです。
いつしか、二人は小学校に上がり、お互いその記憶は薄れ、そのうちMちゃんは二年生の中頃で、隣町に引っ越して行きました。
あのアニメを見ていなければ、ずっと忘れていた記憶ーーーーーー
結婚した現在も、こうやって覚えているのはあのアニメのおかげかもしれません。
時々、春の爽やかや風に触れた時、不意に思い出すことがあります。 もしかしたらあの場所は、私達二人がいずれ離ればなれになってしまうことを知っていた神様が、思い出作りにと授けてくれた場所なのかもしれません。
その時のことを思い出すと、あの派手なワンピースがよく似合う彼女の事を思い出します。
幼い頃の私達の大切な思い出……。
〜Fin〜
この作品に目を留めていただき、誠に有難うございます。
何分、文章力のない愁真ですので読みづらかったかと存じます。
もし、宜しければ読者様の感想、ご意見などをメッセージにお寄せ下さい。
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