卵は固茹ででも半熟でもいいが味付け卵がよい。
異世界に召喚されましたー!
ファンタジー!!
厨二病怖ぇぇえええええ!!!
虚言じゃないよ、嘘じゃないんだよ、ホントに召喚されたんだよ!!!!
…で、異世界に召喚されて、ナニしてるのかと言いますと
「巫女さま、お寒くはないですか?」
「お、お寒くないです」
「お腹はお空きではありませんか?」
「お、お空きでないです」
「痒いところはございませんか?」
「か、かゆっ?! ご、ごご、ございませんっ」
「それでは、何か御用がありましたらベルで遠慮なく呼びつけてください」
「は、はい」
巫女だって、巫女かぁー
巫女ってこー…あれだよね?
神託を告げるーとか、何か祈りを捧げるーとか
けして、こう、なんてゆーの?
こういうのじゃないと思うんだよね
こういうのって言うか、具体的に、そう
「卵温め機?」
あたしの身の丈はあろうかというでかい卵に抱きついて
ご飯の時とトイレとお風呂の時以外、ずーっと温めてるとか、それって巫女のやることなの??
何でも、この卵にぴったりの体温と波長らしいあたしは、無事卵が孵ったら元の世界の元の時間、元の場所にお土産付きでお帰しします、ということで
こうして、特に反発もせずに卵に抱きついて温めてるわけなんだけど
話し相手もいないし、寂しい…
もうどのくらい経つのかなー
時間の感覚が無くて困るってゆうか、身体は髪も爪も伸びないけど、きっと何年も経ってる筈なんだよね
本当はご飯だって食べる必要はないんだけど、人間としての感覚を忘れない為に食べてるようなもんだし
ぐだぐだと惰性で生きてるような感覚がなんとも辛い
もしかして孵化までに百年単位とか掛かったりするのかな…
はぁぁー…寂しい…退屈……
そんなあたしは、専ら卵に対して独り言をぶつぶつ呟くのが日課だったりするわけで
「おはよー、多分朝だよー、起きたー?
今日はね、お姉さんの実家のご近所さんの話をしてあげよう
お姉さんの近所には、猛獣のように見た目の恐ろしい大きな犬がいてね
これがもー人懐っこくて、慣れると愛嬌があるから近所の人気者なんだよ
ある日、その犬を飼ってる家に、強盗が押し込んだんだけど、どうなったと思う?
そう、あの恐ろしい犬にきゅんきゅんくーんくーん懐かれてべろんべろん舐められて
粗相して腰を抜かして警察に助けを求めたの、勿論そこで逮捕だよ
包丁持って人を殺してまでって輩が、馬鹿馬鹿しいったらないよね」
胎教ならぬ卵教?も兼ねて、返事の無い相手に日本のことや外国の話を毎日聞かせる
電車っていう乗り物があるんだよ、電車っていうのはね
学校という施設があって、子供は七つになったらみんなそこへ通って勉強しなきゃいけないんだよ
お母さんですよ、なんてうら若き乙女(ガラスの十代じゃないけど)のあたしは絶対言わない
お姉さんとして、弟や妹に接するように、毎日毎日話しかける
ここは高い山の上で、そこに木の枝や藁のようなものが鳥の巣のように集められ、そこに卵が置かれている
ぽつんと置かれた卵の傍には小さな門が一つあり、その向こうはどこかの神殿に繋がっている
門の向こう側から紐が伸びていて、その紐を引けば門の向こうでベルが鳴り、神官の人たちが用聞きに来てくれるし
それ以外にもご飯を持ってきたりしてくれる
トイレやお風呂の時は、ちょっと行ってくるよーと卵に声を掛けてから離れる
ぽつりぽつりと話すあたしの声は、空気の薄い、ひんやりとした空に溶けていく
かなり標高の高い場所の所為なのか、ここは夜も白夜で、うっかりすると昼か夜かも分からない
卵に抱きついていれば暖かいし、耳をあてれば柔らかな鼓動が聞こえるとはいえ、ここは本当に寂しい場所なのだ、もう寒々しいくらいに!
お願いだよー、早く孵ってよー、家族と団欒したいー、テレビのチャンネル争いしたいー!!
そんな孤独と戦うあたしの元に、ある日、お客様が来た
「ひゃっはははァ!!
見つけたぜぇっ、竜の卵だ!」
見るからによろしくない感じのお客様がっ
ひぃぃ、ここは空間が歪んでるから、門以外から来るのはまず無理、って話だったのに!
「山に入って何年経ったか分からねぇが、人生を棒に振る価値があるぜぇっ
山に入ってる間は身体に変化はねぇし、卵を持って帰ぇりゃ一転して金持ちだ!」
「ひっ!」
目、目がおかしい…っ
この人目がおかしいよ!!
視点が定まってないっ
…く、狂ってるんだ、こんな生き物の気配の乏しいところを何年も彷徨ったからっ
目を逸らした瞬間に切り付けられそうで、前を凝視したままベルに繋がる紐を捜すけど、こんな時に限って見つからないっ
た、た、たまごっ、たまごをまもらなきゃ…!!
門に向かって一目散に逃げればいいのに、あたしの足は何で動かないの
何で卵にしがみ付いてるの
「邪魔だどけぇぇえええっ!!」
もうだめっ
「姉上に何をする」
え…
ビキリと卵の一部がひび割れて、ぬっと、腕が突き出てきた
大人のような太く逞しい腕が、見る間に白い鱗に覆われて
なにかで…
なにか、目に見えない、陽炎のような、空気の歪みを発生させて
そのひとを、吹き飛ばした
よろよろと起き上がったその人を、更に吹き飛ばし
とうとうその人は見えなくなった
ほっと、息をつく間もなく
「……え?」
いつのまにか、鱗が消えて人間のような状態に戻った腕が
地面に落ちた卵の破片をひょいひょいと拾い上げ、パズルのように元の場所に組み込んでいく
「え、ちょ、え、な、なにやってんの?!」
「止めないで下さい姉上」
卵の中から、耳障りのいい男の人の声が聞こえる
「え、止めないで下さいって、え?!
ちょちょちょ、待って待って待てこらぁぁあああ!!」
しばらくお待ち下さい。
「酷い、なぜ止めるのですか姉上」
「いや、酷いって、え、なに、なんで」
もう、孵ってもOKなんだよね? そうなんだよね??
「孵ったら姉上は実家に帰ってしまわれるではありませんか!」
「いや、実家って、え?」
「姉上と離れたくないからこそ、孵化をやり過ごし
とっくに大人になっても卵の中に留まったのに…っ」
酷い、あんまりです、いけずっ、うっうっ、さめざめと泣く成人男子をぬるく見守る
いけず、って そんな言葉教えたっけ?
引き摺り出した甲斐があってか、見た目は超麗しい、でもキャラは鬱陶しい
それよりも、お願いだから腰に何か巻いてくれる? お姉さんの膝掛け貸してあげるから
お姉さんが向こう向いてるうちに、ねっ、ほらっ
……ってゆうか、
「とっくに大人になってるの?!」
うおぉぉぉおおおおおいっ!!
どんだけ引き篭もりなのキミィィイイイイイッッ!
「そんなに実家がよいのですか?
団欒ならわたしがいるではありませんか、ご飯ならわたしと食べればよいではありませんか
ちゃんねる争いはてれびが無いので無理ですが、ぷろれすだったら、閨で何千年でもお相手できます!」
ねやとかいう単語も教えた覚えないんですけど!
どこでそんないらない知識拾ってきたのっ捨ててらっしゃい!!
「姉上、けして寂しい思いなどさせませんっですから!!」
ですから!、で がばぁって、コラァァァァアアアアアア!!!
「まぁこの反応は!」
「漸くか! 長き道のりであった!!」
「巫女さまが席を外した折に、色々吹き込んだ甲斐がありましたわっ」
「よし皆の者! 今のうちに神殿の用意を整えよ!!
寝室は元より、この様子ならばすぐにも御子が誕生しよう、そちらの準備も怠るでないぞ!!」
おう!、なんて神殿側が一致団結しているなんてこと露ほども知らず
怠け生活で すっかり最低限の体力になっていた あたしの体力は、ガンガン削られていくのであった、まる
雪融けが詰まったので鎧城のおかあちゃんの話を書いてたんですが、そちらも詰まり
そこで別の書き掛けの短編を書いてたんですが、それも詰まり、もう一つ別の短編書き掛けも続きを書いてたんですが、それもまた詰まり、そんなことを何度か繰り返し、最後にこんなんでました。
雪融けは、今、衣服問題が解決(?)し、ご飯問題に突入、ご飯中に裏篇で別問題を発生させたところです
彼女の知らないところで、着々とストーリーを進めるので、ますます分離感が…
雪融けは、文章の長さが既に普段の倍くらいになっています
途中で切るべきなのかも知れませんが、区切りのいいところで出したいので、すいません