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妖狐と喫茶店(99)

作者: 五月雨
掲載日:2026/09/09

テーマと書き方の指示以外は全てAIで書いてます。

私は、変化が下手だ。

 私は、変化が下手だ。

 妖狐としては、致命的なくらいに。


「また耳が残ってる」


 姉さまがそう言った途端、後ろから笑い声が聞こえた。

 振り向かなくても分かる。兄さまと、弟と、妹だ。


「わ、分かってる!」


 両手で頭を押さえる。

 黒い髪の間から、ぴょこんと飛び出した二つの耳。

 触ってみる。

 ふさふさしている。

 間違いなく私の耳だ。

 人間の耳はちゃんと顔の横についているのに、狐の耳まで頭に残っている。


「尻尾は?」


「ない!」


 即答してから、不安になって後ろを見る。

 ない。

 ちゃんと二本の足だけだ。

 今日は尻尾を消せた。爪も人間と同じ。目だって、たぶん人間のものになっている。

 耳だけ。

 耳だけなのだ。

 なのに。


「それじゃ人間は化かせないよ」


 妹の一言に、むっとする。


「できるもん」


「耳あるのに?」


「できる!」


「どうやって?」


「それは……」


 言葉に詰まる。

 笑い声が大きくなった。

 悔しい。

 ものすごく悔しい。

 どうして耳くらいで笑われなきゃいけないのだ。

 そもそも人間なんて、そんなに賢い生き物なのだろうか。

 森の大人たちは、人間を甘く見るなと言う。人間の中には妖狐の変化を見破る者もいるし、下手に近づけば酷い目に遭わされることもあるらしい。

 だけど、耳がちょっと残っているくらいで本当に気付くのか。

 私は知らない。

 だって、人間を化かしたことなんて一度もないから。

 なら、確かめればいい。

 私は、その日の夜に森を出た。


     ◇


 家出である。

 ちゃんと家出だ。

 誰にも言わずに出てきたのだから、たぶん家出と呼んでいい。

 ただ、明日の朝には私がいないことに気付くだろうし、母さまには置き手紙も残してある。


『人間を化かしてきます。心配しないでください』


 完璧だ。

 人間を化かして、その証拠を持って帰る。

 そうすれば兄さまたちだって、もう私の変化を笑えない。

 少なくとも、そう思っていた。

 森を抜けるまでは。


「…………」


 木の陰から、私は人間の世界を覗いた。

 人間がいる。

 たくさんいる。

 右にも左にもいる。

 こんなにいるとは聞いていない。

 森で人間を見たことなら何度かある。

 山菜を採りに来る者。

 虫を探している子供。

 大きな荷物を背負って山を登る者。

 だけど、あれは一人か二人だった。

 目の前には数え切れないほどいる。

 人間。


 人間。


 人間。


「……帰ろうかな」


 呟いてから、首を振った。

 だめだ。

 ここで帰ったら絶対に笑われる。

 特に妹には三日は笑われる。

 私は自分の頭に触った。

 耳。

 ある。

 何度変化しても消えなかった。

 その代わり、尻尾はない。手足も人間。顔も何度も水面で確認した。

 大丈夫。

 これでも人間を化かせると証明するために来たのだ。

 それに、準備だってしてある。

 服の中に隠した数枚の紙。

 人間がお金と呼んでいるものを、葉っぱから変化させたものだ。

 昔、森で拾われた本物を見せてもらったことがある。それを思い出しながら作った。

 模様は、たぶん合っている。

 大きさも、きっと合っている。

 ……たぶん。

 これを人間に本物だと思わせて何かと交換する。

 そうすれば、誰にも文句を言わせない。


「よし」


 木の陰から出る。

 一歩。

 二歩。

 三歩。

 誰も騒がない。

 私を指さす人間もいない。

 いける。

 いけるじゃないか。

 ほら見ろ。誰も気付いていない。

 私を笑った兄弟たちに見せてやりたい。

 完璧じゃなくても、人間なんて――。


「あ、見て! 狐耳!」


「ひっ」


 声がした。

 全身が固まった。

 恐る恐る振り向く。

 若い人間が二人、こちらを見ている。

 ばれた。

 もうばれた。

 やっぱり人間は恐ろしい。


「すごい、かわいい」


「え?」


 片方が何かを取り出した。

 薄い板だった。

 黒くて、つるつるした、人間がよく手に持っている謎の板。

 何に使うのか知らない。

 だけど、その板がこちらへ向けられた。

 黒い丸が私を見る。


「…………っ!」


 何かされる。

 そう思った。


「ちょっと写真――」


「ご、ごめんなさい!」


 逃げた。

 全力だった。

 人間の姿でどう走るのが正しいかなんて知らない。

 腕を振った。

 足を動かした。

 途中で誰かにぶつかりそうになって、悲鳴を上げながら避けた。

 後ろは見ない。

 板を持った人間が追ってきているかもしれない。

 捕まったらどうなる?

 知らない。

 知らないから怖い。

 こんなことなら帰ればよかった。

 母さまの言うことを聞いて、もっと変化を練習すればよかった。

 兄さまたちに笑われるくらい我慢すればよかった。

 もう人間を化かせなくてもいい。

 森に帰りたい。

 でも。


「……どこ?」


 立ち止まったときには、森がどちらにあるのか分からなくなっていた。

 知らない場所だった。

 知らない建物。

 知らない道。

 知らない人間。

 呼吸が苦しい。

 心臓がうるさい。

 人間に声をかけて道を聞くなんて、できるわけがない。


「どうしよう……」


 泣きそうになった、そのときだった。

 ふわり。

 鼻先を、何かがくすぐった。


「……いい匂い」


 甘い。

 それだけじゃない。

 香ばしくて、温かい匂い。

 思わず鼻を動かす。

 こっちだ。

 匂いを追う。

 少し歩くと、小さな建物があった。

 人間の家……だと思う。

 でも、普通の家とは少し違う。

 扉の横に何か書いてあるけれど、人間の文字は少ししか読めない。

 中から、さっきのいい匂いがする。

 そして。

 後ろから、人間たちの話し声が聞こえた。


「っ!」


 反射的に扉を開けた。

 からん、からん。

 頭の上で音が鳴る。


「ひゃっ!」


 飛び上がる。

 すると、奥から低い声がした。


「いらっしゃい」


「…………」


 逃げる場所を間違えた。

 人間がいた。

 白い髪の、年老いた男の人。

 私と目が合う。

 まずい。

 耳。

 耳が出ている。

 隠さなきゃ。

 でも、今から消したら、それこそ妖狐だとばれる。

 どうしよう。

 男の人の視線が、私の頭へ向いた。

 終わった。

 そう思った。


「ずいぶん可愛らしい耳だねえ」


「…………え?」


 男の人は、それだけ言って笑った。


「一人かい?」


「……は、はい」


「じゃあ、好きな席へどうぞ」


 私は動けなかった。

 男の人は、もう私の耳を見ていない。

 気付いていない?

 まさか。

 いや。

 でも。

 私は恐る恐る頭の耳を触る。

 ある。

 ちゃんとある。

 それなのに、この人間は私を見て普通に笑っている。

 もしかして。

 私は今。

 この人を――。


「……化かせてる?」


「ん?」


「な、なんでもありません!」


 私は慌てて口を塞いだ。

 危ない。

 人間を化かしている最中に、自分から言ってどうする。

 けれど。

 胸の奥で、さっきまでとは違う音を立てて心臓が跳ねていた。

 初めてだ。

 初めて、人間が私を妖狐だと気付かなかった。

 耳が残っているのに。

 完璧な変化じゃないのに。

 私は、人間を化かしている。


     ◇


「それで、いつまで立ってるんだい?」


「…………」


「座らないのかい?」


「す、座ります」


 危なかった。

 私は近くにあった椅子へ急いで座った。

 人間は椅子に座る。

 知っている。これくらいなら知っている。

 けれど、座ったところで次に何をすればいいのか分からない。

 目の前には木の板みたいなものが置かれている。何か文字がたくさん書いてあるけれど、ほとんど読めない。

 仕方がないので、じっとしていることにした。

 動かなければ失敗もしない。


「注文は?」


「ちゅうもん」


「決まってない?」


「き、決まってます」


 反射的に答えた。


「じゃあ、何にする?」


「…………」


 しまった。

 決まっていなかった。

 そもそも、ちゅうもんが何なのかも分からない。

 目の前の板を見る。

 きっと、ここに答えがある。

 知っている文字を必死に探していると、男の人が小さく笑った。


「こういう店は初めてかい?」


「!」


 ばれた。


「ち、違います!」


「そうかい」


 男の人は、それ以上聞いてこなかった。

 私は胸を押さえた。

 危ない。

 もう少しで森から出てきた妖狐だと見破られるところだった。

 人間を化かすというのは、思っていたより難しい。

 男の人はしばらく私を見ていたけれど、やがて何も言わずに店の奥へ行ってしまった。

 逃げるなら今だ。

 そんな考えが頭をよぎる。

 でも、逃げたら何のために森から出てきたのか分からない。

 それに。


「……いい匂い」


 さっきから漂っている匂いが、もっと強くなった。

 しばらくすると、男の人が戻ってくる。


「ほら。まずはこれでも飲みな」


 ことり。

 目の前に白い器が置かれた。

 中には薄い茶色の液体が入っている。

 湯気が立っていた。


「……これ、なんですか?」


「ミルクティー」


「みるくてぃー」


「うちの孫も好きでね。君くらいの子なら、珈琲よりこっちのほうがいいだろう」


 まご。

 聞いたことがあるような、ないような。

 人間の名前だろうか。


「熱いから気をつけな」


 知らないものだ。

 知らないものは怖い。

 だけど、匂いはいい。

 鼻を近づける。

 甘い匂いがした。


「毒なんて入ってないよ」


「ど、毒だなんて思ってません!」


 思っていた。

 少しだけ。

 男の人が笑う。

 どうしてだろう。

 兄さまたちに笑われたときは腹が立つのに、この人に笑われても嫌な感じがしない。

 私は器を両手で持った。

 温かい。

 恐る恐る口をつける。


「あつっ」


「だから言っただろう」


「…………」


 恥ずかしい。

 少し冷ましてから、もう一度。

 今度はゆっくり飲む。

 甘い。


「……おいしい」


 思わず声が出た。


「そうかい」


 男の人は笑った。

 それから、もう一つ、小さな皿が置かれる。

 丸い焼き菓子が二つ。


「こっちはサービスだ」


「さーびす?」


「おまけってことだよ」


 おまけなら知っている。


「いいんですか?」


「ああ」


 私は焼き菓子を一つ取った。

 さくり。

 噛むと口の中で崩れた。

 甘い。

 これもおいしい。

 もう一口。

 ミルクティーを飲む。

 また焼き菓子を食べる。

 人間は恐ろしいと聞いていた。

 実際、さっきの板を向けてきた人間は怖かった。

 でも、この人は怖くない。

 不思議だ。


「少しは落ち着いたかい?」


「……はい」


「そうか」


 男の人は、それ以上何も聞かなかった。

 どうして私が一人なのか。

 どこから来たのか。

 家はどこなのか。

 何も。

 聞かれたらどう答えようかと考えていたから、少し拍子抜けした。

 でも、ありがたい。

 森から来ました、なんて言ったら怪しまれる。

 私はまた焼き菓子をかじった。

 それにしても、人間の食べ物はおいしい。

 みるくてぃーも、お菓子も、森にはない味だ。

 あまりに夢中になっていたせいで、大切なことまで忘れそうになる。

 私は人間のお菓子を食べに来たわけではない。

 人間を化かしに来たのだ。

 危ない危ない。

 これでは私のほうが人間に化かされてしまう。


     ◇


 器が空になった。

 お菓子もなくなった。

 もう帰らなければ。

 森への道は分からないけれど、人の少ないほうへ歩けば、そのうち木の匂いがするはずだ。

 私は椅子から降りた。


「帰るのかい?」


「はい」


「気をつけてな」


 男の人が手を振る。

 私は頭を下げて、扉へ向かおうとした。

 そこで思い出す。


「あ」


 大事なことを忘れていた。

 服の中へ手を入れる。

 数枚の紙を取り出した。

 人間がお金と呼んでいるもの。

 葉っぱを変化させて作った、偽物のお金だ。

 これを受け取らせる。

 ここが一番大事なのだ。

 人間に化けて街を歩いただけでは、兄さまたちは認めてくれないかもしれない。

 耳が残っていたんだから失敗だ、と妹に言われるかもしれない。

 でも、偽物のお金を本物だと思わせて、人間の食べ物と交換できたなら。

 今度こそ誰にも文句は言わせない。

 私は男の人のところへ戻った。


「これ!」


 勢いよく差し出した。


「ん?」


「お金です!」


 男の人は、私の手の中を見た。


「…………」


 黙った。

 心臓が跳ねる。

 見破られた?

 手のひらが汗ばんでくる。

 男の人は一枚をつまんだ。

 表を見る。

 裏を見る。

 光に透かしてみる。

 やめてほしい。

 そんなに見たらばれる。


「……なるほどねえ」


 男の人が呟いた。

 終わった。

 やっぱり駄目だった。

 私は俯きかけた。


「よくできてるな」


「!」


 顔を上げる。

 男の人は笑っていた。

 できた。

 心の中で飛び跳ねた。

 危ない。

 本当に飛び跳ねるところだった。

 尻尾があったら絶対に振っていた。

 ところが、男の人は私が作ったお金を返してきた。


「でも、今日はいいよ」


「…………え?」


「お代はいらない」


 頭の中が真っ白になった。


「い、いらない?」


「ああ。ミルクティー一杯くらいだからね」


「だめです!」


 思ったより大きな声が出た。

 男の人が目を丸くする。

 私自身も驚いた。

 でも、ここで引き下がるわけにはいかない。

 受け取ってもらわなければならない。

 私の作ったお金を、本物だと思って。

 それで初めて、私は人間を化かしたことになる。


「もらってください!」


「いや、でもね」


「お願いします!」


 お金を突き出す。

 男の人が困った顔をした。

 私も引かない。

 たぶん、生まれてから今までで一番、人間の目を見ている。


「……どうしても?」


「どうしても!」


「そうかい」


 男の人は頭を掻いた。

 それから、仕方なさそうに笑った。


「じゃあ、いただくよ」


 私の手から、お金がなくなった。

 男の人の手へ渡った。


「…………」


 受け取った。

 本当に受け取った。

 私が作った偽物のお金を。

 人間が。

 受け取った。


「…………やった」


「ん?」


「な、なんでもありません!」


 顔が笑ってしまう。

 抑えられない。

 できた。

 できた!

 私は人間を化かした!

 耳が残っていたってできた!

 兄さまにも姉さまにも、弟にも妹にも、もう笑わせない。

 証拠だってある。

 みるくてぃーを飲んだ。

 お菓子を食べた。

 その代わりに偽物のお金を渡して、人間はそれを受け取った。

 完璧だ。

 完璧な変化じゃないけれど、完璧に化かした。


「ちょっと待ちな」


 男の人が言った。

 びくりとする。

 まさか、もうばれた?

 男の人は店の奥へ消えていく。

 逃げたほうがいいだろうか。

 でも、お金はもう渡した。

 化かすことには成功したのだ。

 だったら今逃げても――。


「これ、使うかい?」


 戻ってきた男の人が持っていたのは、丸い帽子だった。

 薄い茶色。

 森で見る枯れ草に少し似ている。


「……なんですか?」


「麦わら帽子」


「むぎわらぼうし」


「被ってみな」


 男の人が私へ帽子を差し出した。

 受け取って、恐る恐る頭に載せる。

 耳が押される。

 少し窮屈だけれど、ちゃんと被れた。


「うん。それなら耳も隠れるな」


「…………!」


 やっぱり気付いていた。

 私の耳が変だと。

 それでも妖狐だとは気付かなかった。

 すごい。

 私は本当に、この人を化かしている。


「いいんですか?」


「古いやつだからね。孫に買ったんだが、ほとんど使わなくてな」


「まご?」


「息子の子供だよ。君と同じくらいの歳だ」


 なるほど。

 この人には、私くらいの子供がいるらしい。


「その子も、そういう耳をつけて遊ぶことがあってね」


「これを?」


「猫だったり兎だったり、いろいろな」


 人間は変わった遊びをするらしい。

 狐になれないから、耳だけ真似しているのかもしれない。

 そう考えると、少しだけ人間が可愛らしく思えた。

 私は帽子を両手で押さえた。

 嬉しい。

 人間から物までもらってしまった。

 これはもう大成功と言っていい。


「……ありがとうございます」


「ああ」


 私は頭を下げる。


「ごちそうさまでした」


 言えた。

 さっきまで人間と目が合うだけでも怖かったのに、自分から言えた。

 今度こそ扉へ向かう。


「お嬢ちゃん」


 呼び止められた。

 振り返る。


「またおいで」


「…………」


 また。

 その言葉が、なぜか胸に残った。

 人間を化かすことには成功した。

 だから、もうここへ来る必要はない。

 森へ帰って、みんなに証明すればいい。

 それで目的は達成だ。

 なのに。


「……はい」


 私は頷いた。

 からん、からん。

 扉を開ける。

 外には相変わらず人間がたくさんいた。

 少し怖い。

 黒い板を持っている人間もいる。

 でも、頭には麦わら帽子がある。

 耳は見えない。

 さっきよりは、ほんの少しだけ歩きやすい。

 私は帽子を押さえながら、人間たちの間を歩いた。

 帰ったら、みんなに話そう。

 人間の世界へ行ったこと。

 恐ろしい板を向けられたこと。

 みるくてぃーという甘い飲み物を飲んだこと。

 お菓子を食べたこと。

 それから。

 私の作ったお金で、ちゃんと人間を化かしたこと。

 証拠だってある。

 この麦わら帽子だ。

 人間を化かして手に入れた、私の初めての戦利品。

 嬉しくなって、帽子の下で耳がぴくぴく動いた。

 これを見せれば、もう誰も笑わない。

 耳が残ったって、人間くらいちゃんと化かせるのだ。

 私は胸を張った。

 人間に化けるのは、まだ苦手だ。

 人間を化かすのも、たぶんまだ得意ではない。

 人間だって、やっぱり怖い。

 それでも。

 森を出る前より、人間のことを少しだけ知った。

 甘い飲み物を作る。

 おいしいお菓子も作る。

 怖い板を持っている。

 そして、知らない妖狐に帽子をくれる。

 最後のは、きっと他の妖狐も知らない。

 帰ったら教えてあげよう。

 人間は、思っていたほど怖くないのだと。

 少なくとも、あのおじいさんは。

 少し歩いてから、私は振り返った。

 もう店は見えない。


「……また行こう」


 誰にも聞かれないよう、小さな声で言った。

 次は、みるくてぃー以外のものも頼んでみたい。

 あの板に書かれていたものが何なのか、少し気になる。

 それに今度は、入る前に逃げたりしない。

 だって私はもう、一度できたのだから。

 知らない場所へ行って。

 知らない人間と話して。

 ちゃんと人間を化かして帰ってきた。

 私の、初めての人間化かし。

 大成功だ。

 麦わら帽子を押さえ直す。

 そして私は、今度こそ森を目指して歩き出した。

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