第6話 高校入学、不登校、中退(5)
別の日に親たちを交えた懇親会のようなものがあり、私はバーべーキューセットの上で焼けている肉をぼんやりとつまんでいた。
誰かが私の肩を叩き「作業しているよ」「行ったほうがよくない」と伝えた。
見ると部長と何人かがコートにローラーをかけていた。
私は皿を置いて駆け寄った。
近寄っていくと、部長は私の腹を殴った。
私は「すいません」と言った。
何かを言われたような気がするが、緊張と恐怖で言葉が理解できなかった。
「すいません」
謝る事しかできなかった。
別の男子の先輩が女子の先輩に思い切り蹴りを入れていたのを覚えている。
男子が少ない学校なので女子と合同のソフトテニス部で、大会が近かった。
その男子の先輩は傍目から見ても調子が悪かった。
上手くボールを打ち返せず、どんどん苛立っていた。
私と他の男子たちは気まずさで黙り込んでいた。
夜になって、休憩でみんなで座って会話していると、女子の先輩の一人が明るく男性の先輩に対してからかいのようなものを言った。
多分場を和ませるためだろう。
それで激昂した男子の先輩は立ち上がると、思いっきり女子の先輩を蹴った。
女子の先輩は地面に横たわった。
男子の先輩は怒鳴ってから部室へ走り去った。
騒然とした。
女子の先輩は泣いていた。
泣きながら怒っていた。
私たち男子は部室へ行き、椅子に座り込んでいる先輩を見つけた。
彼は言った。
「俺…昔…人を刺したことがあって自分でもカッとなると…」
そんな噂を聞いていたし、どこか感情的で変な先輩だな、と思っていたが、私はこういう人もいるんだなと慄然としていた。
その先輩は話しながら、笑いながら、よく人前で爪を噛んでいたのを覚えている。
部活の合宿では私の知らない人間関係が繰り広げられていた。
部活のOBがやってきて色々手伝ったり言ったりしてきた。
ご飯をたっぷり食べた。
吐きそうになりながら、顔を赤くして食べた。
身体づくりだという。
嫌だったのは酢の物で、これは美味しくなかった。
しかし栄養とか消化とか、そんな理由で食べさせられた。
腹がぱんぱんで戻しそうになりながら、何故か正座をしてOBの語りを聞いた。
いったい彼は何を語っていたのか。
苦しさだけが頭に残っている。
唯一参加した大会では二回戦で敗退した。
私も出場してダブルスでサーブを打ったりフォアハンドで球を返そうとしたが、全く何も上手くいかなかった。
大会二日目の夜だったか、やっぱり私たちは正座をして顧問と昔から部活の関係者だという指導者やOBに囲まれていた。
あの人を刺したという先輩が立ち上がって怒鳴り、指導者が「殴りたければ殴れ」などと言った。
先輩は「いきます」と言って思いっきりビンタした。
それから泣いた。
指導者は涙声で「お前を見捨てない」と言って蹲る先輩を抱きしめた。
私は正座をしながら「なんだこれは」と思っていた。
なんだこれは。
大会で敗北し、帰り支度をして、歩いていると前を歩いていた先輩が俯いて腕に顔を押し付けた。
部長がその肩を抱いた。
私は最初から部活に入るべきではなかった、と心から思っていた。
私は辛かったし、きっと他の部員や顧問も辛かっただろう。
学校に行かなくなるのと同時に部活にも一切近寄らなくなった。




