第17話 挿話:煙草と夕暮れ
春は瞬く間に過ぎ夏になり秋になる。
私は煙草を吸うようになっていた。
元々中学生の頃に同級生が校舎の隅っこなんかでカッコつけで吸ってるの真似するような感じだったが、働くようになって喫煙の習慣が身についてしまった。
10代で喫煙は全く褒められた事では無いが、この頃の私には煙草は必要不可欠だった。
朝起きて火をつけて、昼休みに弁当を食べて煙を吐き、残業前に吐き出す。
煙を吸い込んだ時のくらりとくる眩暈のような感覚が好きだった。
とりわけ夕暮れの時間が好きだった。
夕飯用にとってある弁当を食べて、残業が始まるまでの休憩時間、季節ごとに変わる空の色を眺めていた。
時には紫色を帯び、秋になれば黒色になり、その中に星々が散らばっていた。
雨上がりだと、千切られたパンような雲が渦巻き、山の向こうに消えていこうとする太陽の最後の光を反射して真っ赤に染まっていた。
夏の生温い空気、秋の冷たい空気。
工場の軽トラやハイエースが置いてある小さな駐車スペースに立って、煙草に火をつけて一気に力いっぱい吸い込み、赤熱する煙草の先端を見ながら灰を満たす煙を味わい、それからゆっくり吐き出した。
紫煙は漂って地上の空気から夕暮れの空へと向かって広がっていく。
空中で広がり薄くなってすっと消えていく。
時には缶コーヒーを持って喉の奥に温かな甘さと苦さを送り込みながら。
そして煙草を灰皿にしていたコンクリートブロックに押し付けて火を消し、また作業場に戻っていく。
こういう瞬間がなかったら残業なんか耐えられるはずもない。
カフェインの高揚とニコチンののふらつき、酩酊した感じが労働の疲弊を和らげてくれるのだった。




