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第15話 工場、労働、始まり

 高速道路を下りると、社長が運転する自動車が待っていて、合流した後に一緒に工場に向かった。

 工場は社長の自宅の隣に立っていて、敷地内には使わなくなった家具などもあり、それを譲り受けた。

 社長が探してくれたアパートの管理会社に行き私と母で契約を確認した。

 駅から10分ほど歩いたところにある工業高校の近くに私が暮らす事になるアパートがあった。

 新幹線がすぐ側を走っていて定期的に大きな音が聞こえる。

 扉を開けて短い廊下を進むと私の部屋があった。

 カーペットが敷いてあって一目で年代物とわかるエアコンが設置してあり、窓の向こうは別のアパートと駐車場が見える。

 一人暮らしという未知の体験に乗り出す私の胸には半分の不安と半分の期待があった。

 高校生から引きこもりを経ていきなり故郷を遠く離れた地での一人暮らし。

 現実感がなく、どこか冗談のようであり、つまり私の認識を超えていた。

 

 荷物を部屋に運び終えると母は帰っていった。

 別れの挨拶をしたはずだが具体的な言葉は覚えていない。

 私は社長と一緒に工場に向かい、そこで早速仕事をすることになった。

 支給された作業着を着て作業場に行くと数人のパートの女性たちが製品の検品をしていた。

 既に夕方の時間帯だったのでパートの多くは帰宅していたが、残っている人たちもいて、私は顔を合わせるたびに「よろしくお願いいたします」と言っていた。

 ある下請けの会社の製品の品質管理に引っかかり、ロットが複数再検査という事になった。

 だがその下請けは横浜に本社がありすぐには来れないので、取引のあるうちの工場に回されてきたとのこと。

 という説明をぼんやり聞いたがその時点ではさっぱり理解できなかった。

 とにかく私も作業に参加する事になった。


 誰でも知っている企業のロゴが印刷された小さな部品がビニールにくるまれている。

 それを一枚一枚取り上げてちゃんとロゴが印刷されているかを見ていく。

 このロゴの欠けが発見されて、製品が戻されたという。

 パートの女性達は談笑しながらも手際よく捌いていく。

 私はもちろん何一つ分からないので一枚一枚じっくり見ていくしかないが、それでも何が何だか分からない。

 ただ検査が終わると「見ました」と声を出してダブルチェックを担当している女性に手渡していったのを覚えている。

 

 しばらく経つとどういう話の流れになったのか、市内の工業団地にある元請けの会社に行くことになった。

 私も連れていくと言われて戸惑った。

 ハイエースに何人も乗り込んで15分ほど走ると到着した。

 工場の敷地内に入る前に守衛で名前と時刻を書くのも、身分証明のIDカードを受け取るのも、何もかも初めての経験だった。

 駐車場でハイエースから降りると更に歩いてやっと目的の品質管理の部門に着いた。

 と、思ったら更にそこから工場の中を延々と歩かされた。

 清潔感のある廊下を進んでは扉をくぐって階段を上がってととても覚えられなかった。

 パートの女性の一人に「××くん覚えられる?」と言われた。

 私は咄嗟に「はい覚えました」と答えてしまった。

 頼もしいね、という笑い声があがった。

 当然私は何も覚えてなかったので、この後会議室のような広い部屋での検品を終えて帰宅する際、迷ってしまい笑われてしまったのだった。

 初日はこうして過ぎていった。

 

 私は正社員として入社し日々の勤怠はタイムカードで管理される。

 アルバイトはプールの監視員、コンビニやガソリンスタンドの店員を経験したが長続きはしなかった。

 学校生活が上手くいかなかった人間が労働者としての生活をやっていけるかどうかわからなかった。

 初日を終えた自分がどんな気持ちだったのか、どんな疲労を抱えていたのかは記憶にない。

 どんな気持ちで私は暗い部屋で天井を見ながら、眠りを待っていたのだろうか…。

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