第13話 眩暈、春、地元を離れる(2)
東京駅の人の多さにも眩暈がした。
こんなにも多くの人々が早歩きでじっと渋い顔をしてどこで向いくのだろうか、と不思議だった。
東京駅から出る事無く山手線に向かった日本の中心をこの目で見ておけばよかったなと思った。
地元の駅から数時間かけて東京に来て乗り換えて静岡に向かった。
しばらくすると富士山が青空を背景に聳え立っていた。
車内の他の人々も窓の向こうの光景に感嘆の息を漏らしていた。
自分の人生に全く希望が持てないし、これから面接を受けるという事で緊張していたが、それでも美しいと感じた。
全く知らない街の全く知らない駅に降りると半透明の色付きガラスの向こうに奇妙なモニュメントがあった。
駅前の広場にでんと居座るあれはなんだ…といきなり先制攻撃を食らった気分になった。
北口から外に出た。
ずっと田舎で生きてきたので、駅前にビルが林立する風景はとても新鮮に感じる。
駅前のコンビニで買い物をしてしばらく待っていると軽トラがやってきた。
車内から中年の眼鏡をかけた女性が出てきた。
「よろしく××くん」
これから向かう工場の社長はそういって私に挨拶をした。
軽トラに乗り込んで街中を走り自己紹介などをしていると高速道路の陸橋をくぐった。
風景の中で田畑が占める割合が多くなっていく。
到着した工場は小さな住宅街にあった。
私は社長に案内されて工場の中を巡り業務の説明を受けた。
建屋の二階、小さなベルトコンベアがいくつも据えられた作業場の長テーブルを挟んで面接を受けた。
と言っても世間話の延長のような内容だったが。
そんな私たちを室内にいた何人かの従業員が興味深そうな目で見ていた。
私は上手に受け答えが出来たとは言いにくかったし、黙り込みがちだった。
これは落ちたな…と思った。
面接が終わり社長と一緒に軽トラで駅まで戻り新幹線に乗って地元に戻った。
到着する頃にはとっくに日が沈んでおり、ずっしりとした疲労感があった。
落ちたら落ちたでしょうがないか…と考えながら家に帰った。
働くのは怖かったので落ちればよいのにと不届きな事も考えていた。
数日経った。
私を採用するとの連絡が届いた。
翌月、荷物をまとめて、東海地方のあの街に引っ越す。
高校を中退して半年、家に籠っていた私は工場労働者になる。
そういえば去年の今ごろは高校生だったなとそんな事を思った。




