第11話 高校入学、不登校、中退あるいは不滅の黄金(10)
震災で福島の浜通りを離れて中通りに引っ越していたが、父親に頼まれて市役所に書類を取りに来たのだった。
震災以降、学校は近くの別の高校と合併し、この校舎はもう使われなくなっていた。
車で数時間かけてやってきた校舎には人気がなかった。
閉ざされた門の上から覗くと敷地のいたるところに雑草が生えていた。
いつも生徒の栄誉を称える垂れ幕が下がっていた正面玄関には何もない。
窓の向こうの廊下。
教室。
校庭や体育館。
全てが静かだった。
もし中退しなければどうなっていったか、それはあれからずっと考えている。
学歴の問題もある。
高校中退と高卒の間には大きな差がある。
私は学歴不問の会社にしか応募した事がない。
正社員として働いたのは数年で、後は派遣会社に登録して工場で労働に従事している。
無職の時期も長い。
本を読むか、散歩をするか、ネット掲示板に入り浸るか。
金がなくなれば働き、また苦しくなれば辞める。
高校を中退して以降の私の人生はどん底で横たわってそれを安定と呼んでいるか、もしくは人並みになろうとして崖に張り付いて精神が不安定になっているかのどちらかでしかない。
いくつかの選択肢を私は自らの手で取り除いてしまった。
その感覚が常に付き纏っている。
青春を失敗したという気持ち。
青春とはなんだろう。
10代の輝かしい体験。
友人との交流、恋人との触れ合い、部活動の熱気、季節の催し、勉学の悩み、進学か就職かの選択。
喜び、悲しみ、あらゆる感情の揺らめき。
生から死までの記憶の中で煌めく不滅の黄金。
実際に青春を過ごし、味わった人間には大げさに聞こえるかもしれない。
しかしろくに味わう事ができないまま取りこぼし、そしてもう二度と取り戻せない者には、永遠の憧れなのである。
私の人生はここで躓き、そして今でも躓いたままなのだろう。
高校中退なんてしなければよかった。
もっと、頑張ればよかった。
しかし、頑張れなかった。
当時の私にはそれは無理だったのだ。
だからもう、終わった事なのだ。
私は車を走らせて曲がり角を曲がった。
今度は振り返らなかった。
何もないと分かっているから。




