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第1話 夢の終わり

 小学生の頃、星新一の「ようこそ地球さん」を読んで小説の面白さを知った。

 それから色んな小説を読み、次第に自分でも小説を書きたいと思うようになった。

 しかしパソコンの前でキーボードに指を置き、文章を考えるが何も出てこない。

 頭の中にはファンタジーやミステリー、歴史やラブコメディ、そういったものの妄想の映像がある。

 それは自分なりに作りあげた世界のはずなのに、いざそれを形にしようとすると少し書いてはすぐに指が止まる。

 そして破棄する。

 そんな事を何度も繰り返した。

 小説家になりたいという夢を抱いてから何年も経過した。

 物語を何も書くことなく。 

 ある日、ネットで見かけたあるアニメの二次創作のショートストーリーを読み、

 自分も書きたいと思い、

 試しに指を動かしたら、

 稚拙ながらも作品らしきものが出来上がった。

 ネット掲示板に投稿するとほんの僅かな読者が褒め言葉を贈ってくれた。

 気を良くして何作か書き、更に別のゲームやアニメの二次創作を書いた。

 更に別の日にはふと思い立って自分の仕事の体験談を掲示板で書きだしたら一晩かかって体裁が整った。

 これも褒めてくれる僅かな読者がいた。


 しかし自分で世界を作り出し、キャラクターを作り出し、キャラクターの会話を描き、キャラクターが織りなすドラマを、自分だけの創作をしようとすると何も上手くいかなかった。

 溢れる空想に満たされたファンタジーも、

 謎が謎を呼び最後の最後に真相を華麗に提示するミステリーも、

 史実を題材にした重厚な歴史も笑ってドキドキするラブコメディも。

 パソコンの真っ白いエディタの上でどんな文章を書こうとも自由のはずなのに。

 時間だけがどんどん過ぎていき、その間にも生活は変化していった。

 二次創作からは手を引いた。

 最初から「二次創作を自分のものとして主張していいものか」という悩みがあったからだ。

 著作権云々の問題でもあり、自分が納得できるかどうかでも。

 つまらない自分の人生の一部を書く事だけはかろうじてできた。

 そしてある日ついに気づいた。

 ないのだ。

 書きたいことなんて何も。

 ただ「書きたい」「書いて褒められたい」「書いてお金を貰いたい」そんな気持ちばかりが先にあったのだ。

 何かを書いて栄誉を掴みたいのではなく、

 ただ栄誉を得たいという気持ちを満たすための手段に小説を選んでいただけなのだ。

 創作の業で生活の資を得たい、そういう世界に身を置きたい、一流と呼ばれたい、消費する側ではなく生産する側になりたい、向こう側へ行きたい…。

 しかも絵をかいたり楽器を演奏したり映画を撮ったり技術はないし努力も苦労もしてないから、

 文章でその欲求を満たそうとしている始末。

 自分の文章を書きたいという気持ちは、創作をしたいという願いは、小説家になりたいという夢は、ただの怠惰な妥協でしかなかったのだ。

 小説の読者としても以前ほどの量を読まなくなり、ページを開いても集中できない事が多くなった。

 買っても積み、読まないまま売った。

 自分でも何をやっているのか分からなかった。

 しかしやっと分かった。

 もはや読者として、消費する側としても自分は倦んでいるのだと。

 かつては本の残りのページ数を見て「これしかないのか」と嘆いた。

 今は「こんなにまだ残っているのか」と嘆いている。

 そんな自分がいる。

 そのくせ「小説家になりたい」「何か成果を出したい」「それで世に問いたい」という気持ちだけはまだあるのだから自分でも呆れてしまうのだった。


 かつて小説家になりたいという夢が確かにあって、その為に本を読み、文章の練習をしてきたはずなのに、いつの間にか自分は小説への興味が褪せていた。

 物語を追う事それ自体に。

 そんな人間に一体どんな小説を書けるというのか。

 最初から書ける筈なんてなかったのだ。

 今になってやっと気づいた。

 そしてこの文章自体もまた何もしない怠惰な自分への言い訳なんだという事も分かっているのだった。

 本当の本当に小説家になる為の努力を重ねている人間が読めば、こんな文章、嘲笑する価値もないだろう。

 それでも尚、たまに本を買い、ページをめくり、文章を追っている。

 物語を読んでいる。

 遅々として進まない読書に自分でも辛抱強く耐えながら、時たまかつてのような物語を読む喜びを味わっている。

 真っ白いエディタを眺めて、キーボードに指を置いたりしている。

 何も出てこないとは分かっているが、それでももしかしたらと期待しながら。

 終わった夢の続きを見たくて。

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