竜帝グランディナス 6
「……シア様、アリシア様! どうかお目覚めください、アリシア様!」
胸を締め付けるような悲痛な声でそう叫ぶ声が、耳元で聞こえる。体を包む温かい温もりに気づき、私はそっと目を開けた。
「ん……」
すると、「アリシア様!」と一番に飛び込んできたのは守護騎士ユリスの顔。それから、ずいと四方八方からリヒト、ルカ、ジルベールと3人の顔も視界に入ってくる。
なかでもルカとジルベールは大粒の涙を流しながら、潤んだ瞳で私のことを見つめていた。
「み、んな……?」
掠れた声で、そう呟けば思い切り体を抱きしめられる。ふわりと香る薔薇の香りに、自分の体を抱きしめているのはユリスなのだと気づく。その肩は小さく震えていた。
ちらと視線を移して、ユリスの肩越しに他の3人の目を見つめれば、一斉に3人がユリスごと私のことを抱きしめてきて、ちょっとだけ息苦しくなる。
「無事でよかった……!」
「呼びかけても動かないし、息もしていなかったので、僕たち、うう……っ!」
「心配かけるんじゃねぇ!」
「ちょ、ちょっと……タンマ! 苦しい、苦しいってば!」
ジルベールはともかく、がたいの良いリヒトやルカにまで、ぎゅうぎゅうと抱きしめられ、こんな感動的なシーンにも拘らず、私は思わず抗議の声を上げる。すると、抱きしめる力が弱められて、みんなの顔がよく見えた。
いつもの端正な美男子っぷりは、どこへやら。
そんな彼らの表情が、出会った当初の頃と、あまりにいつもと違うものだから私は思わずプッと噴き出して笑ってしまった。
「アリシア様、何が可笑しいのですか?!」
「人が心配しているというのに笑うだなんて、ひどい主だ」
「まあまあ、皆さん。何はともあれ、アリシア様が無事でよかったじゃないですか」
「フンッ!」
ユリス、リヒト、ルカ、ジルベールと三者三様の彼ららしい反応に、私はほっと胸を撫で下ろす。その時だった。突風が巻き起こり、ドラゴンの咆哮が辺りに響き渡る。
辺りを覆っていた霧が晴れ、頭上に青空が広がっていく。その大空には、コバルトブルーの竜の姿。両翼をバサバサと上下させながら飛び、地平線の彼方へ飛んでいく後ろ姿が見えた。
自分が先ほどまで、そんな美しいドラゴンと対話をしていたとは信じがたい話だ。けれど、あれは夢なんかじゃない。だって、私の胸元には青く光り輝いている宝石がはめ込まれたペンダントが確かにある。
「グランディナス様!」
去り行く背中に向かって、大声で叫ぶ私。すると、その声に応えるように、また竜帝の咆哮が聞こえ、私はふと口元を緩めた。そんな私の様子を、四人の守護騎士たちは不思議そうに眺めていた。
(きっと、竜帝から加護を授かっただなんて話したら驚かれそう)
そんなことを考えていると、後ろから「聖女様がドラゴンを退けたぞ!」と割れんばかりの歓声が聞こえてきた。
「聖女様万歳!」
「あの御方こそ、伝説の聖女様だ!」
その言葉に、私は両手をギュッと握りしめた。竜帝グランディナスは厄災の元ではないのだけれど……。まあ、その説明はこれから追々していくとして、私はひとまず無事帰還できたことを、心から喜ぶことにしたのだった。




