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鎮魂の儀 3

◇◇◇



「アリシア様、とてもよくお似合いです」


 早朝からナツメにでかけますよと言われ、私が馬車に乗って向かったのは皇都の仕立て屋だった。いよいよラグナス皇国の建国記念日も迫り、いろいろと準備に忙しくなってきた頃、「やはり新しくドレスを新調しましょう」と言われ、ナツメがおすすめする仕立て屋を訪れることになったのだ。


 店内はこじんまりとしているけれど、高級感があってハイセンスな女性向けドレスや帽子、手袋などが所せましと並んでいる。


「少し大人っぽすぎないかしら?」

「そんなことありませんわ。こういったビーズの刺繍は、今の社交界でも流行りのデザインなので、お客様くらいの年頃のご令嬢に人気ですのよ」

「りゅ、流行……」


 その辺りにはさっぱり疎い私は、「だったら、これにしようかしら」とナツメや仕立て屋の女性店主に言われるがままドレスや装飾品を選んでいく。


 儀式のときには着替えるように言われているので、このドレスを着るのは馬車に乗っている間くらいのものだけど、あまりにもナツメが熱心に選んでくれるものだから「そこまで言うのなら」という気になっている。華やかなドレスを身に纏っていると、確かにそれだけで気分が明るくなるものだし。


 ひとしきり買い物を済ませると、店の外へ出る。馬車を停めているところまで、付き添いのルカも加わって三人で露店を眺めながら歩く。その時だった。かわいいペンダントを見つけた私は、思わず足を止める。


(これ、ナツメに似合いそう……)


 そういえば以前、皇都へお忍びで買い物を来た時、結局トラブルが発生してナツメへのお土産を買いそびれてしまっていたことを思い出す。私は、ちょんちょんとルカの服を引っ張って、「お願いがあるんだけど」と小声で耳打ちした。


「どうされましたか?」

「この店で売ってるペンダントのお会計をしてくるから、少しナツメの気を逸らしていてくれる? いつもお世話になってるお礼に、サプライズでプレゼントしてあげたくて」


 そう伝えれば、ルカはにこりと微笑んで「分かりました」と了承してくれた。すぐにナツメに話しかけ、視線を逸らしてもらっている内に、私はぴゅ~と店内へ急ぐ。これは時間との戦いだ。


 そう思って、大急ぎで店員にラッピングもしてもらい、商品を受け取ると「よし、これで完璧」と思い、店を出てすぐのことだった。


「よお、アリシア。久しぶりだな」


 その時、後ろから聞こえてきた声にふと足が止まる。聞き慣れた声。振り向けば、そこには私の義兄エリオンが立っていた。


「おにい、さま……」


 どうして、こんなところにと思ったが、今はそれどころではない。「もう会うことはない」と言い捨てて出ていった家の住人だ。私には、もう関係ないと思って「すみません、私急いでいるので」と、その場から離れようとした。けれど、ぐいと手を引かれると「ひどい妹だな」と耳元で囁かれる。


「それが久々に再会した兄への態度か」

「……用件があるなら早くおっしゃってください。さっきも言いましたが、私急いでいるので」


 じっと睨みつけるような視線を向ければ、「相変わらず可愛げのない奴だ」と嫌味が返ってくる。


「だが、まあいい。……せっかくこんなところで再会したんだ。今日はお前に、いいことを教えてやろう」


 エリオンはそう言って、私の耳元に口を寄せた。それから聞こえた言葉に、私は目を見張る。


「……教会の人間から聞いたんだが、お前は今度出席する『鎮魂の儀』で竜帝に捧げる《《生贄》》になるらしいな?」

「……は?」


 何のことだと義兄を見ると、にやにやと嫌な笑みを浮かべるエリオン。


「当事者だっていうのに、お前は何も知らされていないのか? 可哀想に。崇高なる聖女様に選ばれたのは、国のために死ぬことだったとは、まさか俺も思いもしなかったぞ」


 愉快だと言わんばかりの侮辱の言葉に、私は両手をギュッと握りしめた。


「……信じないわよ、そんなこと。あの時、私があんなこと言った腹いせのつもり?」

「確かに、お前にコケにされたことは腹立たしかったが、これはデタラメでも何でもない。嘘だと思うなら、神殿の誰かお前を守る守護騎士とやらに聞いてみろよ」


 自信たっぷりにそう言ったエリオンに、私は「情報源は?」と尋ねてみた。


「ハッ、誰がお前なんかに教えるか!……だが、儀式の失敗を目論む連中がいるってことだ。どう転ぶにせよ、この国を出る俺と母さんには関係ないことだがな」


 エリオンはそれだけ言って、私に背を向け人混みの中へと消えていった。その場に残された私は、自分の手の平を見つめる。首元の痣と、この手で生まれる結界魔法。その両方を持っている私は、大神官様の神託によって聖女に選ばれたと聞いている。


 けれど、その聖女の本来の役目は、竜帝の生贄になること……?


 だとしたら私が今まで、ユリスたちと特訓を重ねていた意味はどこにあるのだろうか。


(いや、そもそもエリオンの話が真実かも定かではない……。ここで、私が心を乱せば、あの男の思うツボよ……)


 そう思うのに、「お前は生贄だ」と言ったあの時の嫌な笑みが脳裏から離れない。


 さっきまでは弾んだ気持ちでドレス選びをしていたはずなのに、気づけば両手は震えていて、私はひどく沈んだ気持ちでルカとナツメの元へと戻ることになったのだった。

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