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鎮魂の儀 2

◇◇◇


「まったく、あの小娘、生意気なことを言いよって……!」


 私、ラルフ・リンデルはルナハイドの丘から皇都へ戻る馬車内で、両手をギュッと握りしめ唇を噛みしめた。


 教会の大神官様補佐と聖女の連絡役である私は、今回聖女の様子を確認すべく、数か月ぶりにルナハイドの丘を訪れたのだが、初対面の時とは印象が異なり、自分の意見をはっきりと言う娘になっていた。


 このラグナス皇国には、「聖女」と呼ばれる娘が百年から数百年単位で生まれるという記述が皇国の歴史書に記されている。聖女は、厄災を運んでくる竜帝グランディナスを退けて、国に平和をもたらす存在。それは、かつて「大聖女」と呼ばれた聖女ルシファナ様の御代より続く、我が国の「聖女伝説」の一部だった。


 そして、今年。百年の眠りから覚め、竜帝グランディナスが皇国を訪れるとの神託が大神官様より発表された。それと同時に、古文書に記された紋と同じ痣をもつ娘が、この国を救う聖女なのだとも。


 国はこの事実を公にすることを避け、極秘に話を進めてきた。「厄災が訪れる」と知らせれば、皇国中がパニックに陥り、大混乱が引き起こされる。敵国が侵略してくる恐れもあるかもしれず、真のご神託はごく一部の人間にしか教えられていない。


 それから守護騎士の選出に、聖女が住む館の手配、そして聖女探しがすみやかに行われ、我々が突き止めたのがアリシア・ブラッドリーという娘だった。


『あの娘の聖女の力は本物です。魔力量も桁外れですので、おそらく儀式の成功確率も高いと思われます』


 守護騎士ユリス・クロフォード邸で、聖女の見せた力のことはクロフォード家の情報係から報告を受けていた。竜帝グランディナスを退けるには、いくつかの条件があり、魔力量の高さもその条件のひとつなのだ。


「あとは、聖女が儀式まで逃げ出さないか、についてだが……」


 この点に関しても心配の必要はなさそうだった。閉ざされた屋敷の中で、限られた人間と衣食住を共にしてきた聖女は、我々の思惑通り、彼らと良好な関係を築いてきたらしい。


『ここにいる守護騎士4人は、騎士らしく誇りと尊厳をもって役目をきちんと果たしてくれているわ。そんな彼らを〝奴隷”だなんて侮辱する貴方の発言は、全くもって不愉快よ』


 守護騎士たちを侮辱した私の言葉に、強い怒りと抗議によって、彼らを守ろうとしたのが何よりの証拠だ。


 そう。我々は、儀式当日まで聖女が逃げ出さない環境を作り上げねばならなかった。なぜなら、聖女は「鎮魂の儀」《《生贄として》》竜帝に捧げられるからだった。


 儀式の失敗は、すなわち皇国の滅亡を意味する。竜帝であるドラゴンが火を噴くのか、突風を引き起こすのかは分からない。


 かつて儀式の前に、生贄にされることを恐れた聖女が逃げ出し、儀式が失敗に終わったことがあったそう。その結果、皇国に大災害が発生し、国は存亡の危機に陥ったという記述から、我々は細心の注意を払い、「聖女が逃げ出さないよう洗脳するための箱庭」を、ルナハイドの丘に作り上げた。


 豪華な屋敷も、贅沢三昧も、見目麗しい男たちを用意させたのも、すべてはそのためのものだったの。


「……聖女一人の犠牲で、皇国にいる大勢の人間を救えるのなら、どちらを選ぶかなど明白だ」


 たとえ、皇帝や大神官がその選択に胸を痛めていたとしても、皇国の滅亡なんて御免だと思う私は、聖女一人の犠牲で国が救えるのなら安いものだと思ったものだ。だからこそ周囲を説得し、この計画を企てた。


「フンッ! せいぜい、残りわずかな余生を楽しむことだな」


 馬車の窓から見える田園風景を眺めながら、私はひとりそう呟いた。馬車は皇都の神殿へ向かう途中。皇都への道のりはまだまだ遠く、長い時間がかかりそうだった。

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