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クロフォード家 4

◇◇◇



「ここがユリスの家……」


 ジルベールが手配してくれた馬車に乗り、私たちはユリスの実家だというクロフォード家を訪れていた。ルナハイドの丘にある私たちの屋敷とは違って、黒っぽい外観は重厚感があり、重々しい空気を放っている。


「アリシア様、先ほども申したように、あくまでも今回屋敷を訪れたのは新任の守護騎士に挨拶に来た、という形でお願いいたします。決して無茶な真似はなさらないようにしてください」

「分かったわ」


 建前上の理由を考え、クロフォード家を訪問する手筈を整えてくれたのはリヒトだった。最初に私がユリスに会いに行くと言ったときは反対していた彼らだけど、彼らも彼らなりに思うことがあったのだろう。最終的に、私に協力してくれることとなった。


「ようこそ、聖女様。お待ちしておりました」


 馬車から降りると、クロフォード邸の使用人たちがずらりと並んで私を出迎えた。私は、ちらと視線を巡らせたけれど、当然ながらそこにユリスの姿はなった。どこにいるのだろうと周囲を見渡していると、「アリシア様」と呼びかけられる。


 見ればユリスと同じ金色の髪に、ブロンズ色の瞳をもつ青年がにこやかな笑みを浮かべて立っていた。誰だろうかと私が首を傾げていると、その人は私の手を取って、そのまま手の甲にそっと口づけを落とした。


「初めまして、アリシア様。わたくしは、クロフォード家嫡男、ユリスの兄のセイラン・クロフォードと申します」

「アリシア・ブラッドリーよ。今日は急な申し出にも関わらず、時間を融通してくれてありがとう」

「いえ、とんでもございません。本来であれば守護騎士に任命された私が出向かなくてはいけないところを、聖女様自らお尋ねなさっていただけるとは。恐悦至極に存じます」


 そうして手厚いもてなしで出迎えられた私たちは、その後、応接室へと案内された。重厚感たっぷりの調度品の数々が並ぶ室内に、さすが皇都有数の名家だと感じられる。出されたティーカップも一級品で、屋敷で働く使用人の数も多そうだった。


「この度は、聖女様にお会いできて光栄ですわ。ユリスに代わり、セイランが代わりを務めることになりますが、引き続き、聖女様のお守りする役目は、我がクロフォード家を代表して息子がきちんと果たしますのでご安心を」


 応接室にはセイランの母、ユリスにとっては継母のマリア・クロフォードもやってきた。綺麗にセットされた深いヴィオラ色の髪、目尻がキュッと吊り上がったブロンズの瞳。どうやら息子の目は母譲りのようで、目つきがセイランとそっくりだった。


 どこか私自身の継母イザベラにも似ている雰囲気に、自然と身構えてしまう。けれど、ひるんではいけないと自分に言い聞かせ、私は彼女をしっかりと正面から見据えた。


「その守護騎士交代に関することで、本日はこちらへやってきた次第です。なぜ、急に守護騎士を交代することになったのか……。私はユリスに不満なんて一切なかったのですが、どうして任務途中に守護騎士の交代を?」


 単刀直入に私がそう尋ねると、マリアとセイランはちらと互いに目配せをして、私に貼り付けた笑みを向けてきた。


「そのことでしたら、手紙にも記した通りです。ユリス自らより、この任務を降りたいとの申し出があり、次期候補だった私がその任を引き継ぐことになりました」

「だったらユリス本人に会わせてください。彼の口から直接理由を聞きたいわ」

「ユリスは貴女様にはもう会いたくないと申しております。どうか、ご納得くださいませ」


 なかなかユリスに会わせようとしないところに、疑念は一層深まるばかり。手紙の筆跡がユリス本人のものでない以上、私はユリスが「私に会いたがっていない」ということを、いまだ信じられずにいた。


 たとえ、ユリスが本当にそう思っていたとして、私自身は彼の口から聞くまでは信じたくない、という気持ちもあったのかもしれない。


 そう思って、セイランに再度申し出ようとした。その時だった。


「……お母様、聖女様がそこまでユリスに会いたいとおっしゃるのなら会わせてみては、いかがでしょう?」


 その言葉に目を見張ったマリアだったけれど、すぐににたりと口元を緩めると、「それもそうね」と微笑んだ。思いがけない提案に、私はリヒトたちと顔を見合わせた。


(きっと何かある……)


 何かの罠かもしれないと思ったものの、目の前にチャンスが提示されているのだ。「ユリスに会わない」という選択肢は、私にはなかった。


「どうなさいますか、聖女様?」


 何やら思惑ありげなセイランの表情が気になったが、私は側に控える守護騎士三人に小さく頷いて、「ユリスに会わせてください」と言った。


 その瞬間、セイランとマリアの口元が大きく歪ませて笑った姿に、私はどこか嫌な予感が増した気がした。

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