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クロフォード家 1

 熱を出して倒れていたユリスも回復し、またいつもの日常生活が戻ってきた。私は結界魔法の訓練と料理、掃除、畑仕事に勤しむ……という毎日を送っていた。


「ねえ、ユリスは今日はいないの?」


 けれど、その日はいつも結界魔法の訓練に付き合ってくれるユリスが見当たらなかった。不思議に思って執務室で仕事をしているリヒトに尋ねると、彼は手元の書類に目を向けたまま「ああ」と呟いた。


 その横顔がどこか憂いを帯びているのが気になって、私は「どうかした?」とリヒトの顔を覗き込んだ。すると、ハッとした彼は「何でもありません」と机の上で手を組んで、頬杖をついた。


「ユリスは月に一度、家庭の事情で実家に帰っているんです。一日ですし、明日の朝には帰ってくると思いますが。先月も外出した日があったでしょう?」

「確かにそうね……」


 まあ、家の事情なら仕方がないか。


「ジルベールと育てていたトマトが食べ頃になったから、一緒に採ろうと思ってたんだけど。収穫に興味があるって、ユリスが言っていたから」

「……本当に、アリシア様は農作業がお好きですね」


 ため息混じりに、そんなことを言うリヒトに、「体力もつくし、食材にもなるし一石二鳥だもの」と返せば呆れた表情を向けられた。せっかくツヤツヤの美味しそうなトマトができたから、すぐにでも食べてもらいたかったけど。


 「リヒトもやってみる?」と尋ねれば、すかさず「私は遠慮しておきます」と返ってきたので、私は侍女のナツメを誘うことにして、リヒトの執務室を後にしたのだった。




 けれど、次の日になってもユリスは屋敷に帰ってこなかった。リヒトたちにも何の連絡もなかったようで、「おかしい」と首を傾げていた。


「いつもは翌日に帰ってくるんだが」

「ユリスさんだったら、遅くなる場合は一報くらいくれそうですけどね」

「律儀なあいつらしくないな」


 他の三人がそんなことを言うものだから、私も少し心配になってきた。このところ、毎日一緒にいたせいか、ユリスが不在というだけで、どこかソワソワしてしまう。


「帰る途中に何かトラブルがあった……とかは、ないわよね?」

「ゼロではないかと思いますが。ユリスさんは皇都でも腕利きの騎士ですから、その線は低いかと」


 ルカの言葉に、私たちは「う~ん」と考え込んだ。結局、リヒトがクロフォード家に問い合わせてくれることになったけど心配だ。窓の外を見れば、先ほどまで青空が広がっていた空に、グレーがかった雲が広がっている。


(嫌な天気ね……)


 どこか不安な気持ちを抱えながら、私は胸元でギュッと両手を握りしめた。

 

 ところが、思いがけない知らせが入ってきたのは、その翌日のこと。クロフォード家から届いたユリスからの手紙に、「私はもう戻りません」と書かれていたのだ――。




「ユリスが戻らないって、どういうこと……?!」


 広間に集まった私はリヒトから渡された手紙を読み、思わず声を荒げてしまった。ルカやジルベールも沈鬱な表情で、部屋の中には重々しい空気が広がっている。


「そこに書かれていることが全てでしょう。ユリスが守護騎士の任を降りると言い、クロフォード家での決議により、守護騎士はユリスの兄であるセイランに変更。今後は、彼がクロフォード家の代表としてアリシア様の守護騎士に加わるということです」

「でも、ユリスはそんなこと一度も言ってなかったじゃない!」

「……おそらく、急に決まったことなのでしょう」


 リヒトの言葉に「だからって……」と、私はまだ事態を呑み込めずにいた。手紙には「もう屋敷には戻らない」と記されている。つまり、ユリスとはもう会えないということ……?


 ここ数日も、特に変わった様子も見受けられなかったので、ただただ驚くばかりである。ユリスはなぜ、守護騎士の任を降りると言ったのだろうか。何や嫌なことがあっただろうか。


「……ねえ、この手紙。ユリスの名前で署名がされているけれど、ユリスの筆跡ではないわ。つまり、これは誰かが代筆したってことよね」

「確かに、そこは僕も引っ掛かりましたけど……。何か事情があって本人が書かなかったのかもしれません」


 ルカはそう言って宥めてくれたけど、私はこの手紙に違和感ばかりを感じてしまう。


『私は、貴女の守護騎士を務められることを、とても誇りに思っています』


 にこやかな笑みを浮かべて、自分の仕事に誇りを持ってたユリス。そんな彼が、任期途中に守護騎士の役目を降りると言うのだろうか。律儀な性格の彼が、挨拶ひとつもなしに、私の前からいなくなってしまうということも考えにくい。


 リヒトによると、ユリスが毎月実家に帰ってきたのは月末だったのに、今回はいつもよりも三日以上帰省するのが早かったことも不可解だった。


「……ジルベール、すぐに馬車の手配をしてちょうだい」

「馬車って、まさか」


 強張った顔の三人に向かって、私は「お願い」と彼らを促した。ここで、うじうじと悩んでばかりは性に合わない。だったら、やるべきことは一つ。


「クロフォード家に直接行って確かめに行くわよ」

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