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ユリスの看病 1

 「月夜に釜を抜かれる」という言葉にもあるように、人はすっかり油断しているときにこそ、間抜けな失敗をしてしまうものである。


 その言葉の(ことわり)を、私は身をもって痛感することとなった。最近、いろいろと上手くいっていたので、調子に乗っていた節もあるのかもしれない。神様が、「己を戒めよ」と言っているような気がした。


『わ、危ないです、アリシア様──』


 天気の良いある日の昼下がり、敷地内にある湖でボートを出し、守護騎士ユリスと共に湖上の散歩を楽しんでいた私。けれど、水面に咲く薄桃の花があまりにも綺麗で手を伸ばそうとした瞬間、バランスを崩したボートが転覆し、ユリスと私は湖へと落っこちることとなったのだ。


「ごめんなさい、ユリス……」


 そして今、私はしゅんと項垂れてベッドに横たわるユリスに謝罪しているところ。あの後、ずぶ濡れになった私を自分のことはそっちのけにして、最優先で浴室へと連れていき対処してくれたユリスが、翌日熱を出してしまったのだ。


「いいえ、アリシア様は何も悪くありません……。守護騎士のくせに、あれしきのことで熱を出す私が悪いのです……」


 当の本人は、いつものキャラはどこへ行ったの?と言わんばかりに、じめじめとしたオーラを放っていて、体調を崩してしまったことに対して随分と落ち込んでいる。原因が自分なだけあって私は申し訳なさが倍増し、「そんなことないわよ」と慰めの言葉をかけた。


「今日は、ゆっくり休むといいわ。連日、夜遅くまで働いていたとリヒトからも聞いたし、きっと疲れが溜まっていたんじゃないかしら」

「お気遣い、ありがとうございます……。そうさせていただきます……。アリシア様に風邪が移ってはいけませんので、早く退室なさってください……」


 熱でいつもより顔が赤くなっているユリスは、額に腕を遣り、気だるげにそう言った。確かに、私がここにいては彼も休めないだろう。「分かったわ」と告げると、私は彼の部屋を出ることにした。


 ベッドとクローゼットがあるだけのユリスの部屋は、聖女様用にしつらえられた私の広い部屋とは違って、ひどく殺風景に思えた。


「何かあったら、ベルで呼んでとナツメやルカが言っていたわ。お大事にね、ユリス」

「はい、アリシア様……」


 ぐったりとしているユリスに後ろ髪を引かれながらも、私はバタンと扉を閉じた後、扉に背を預けて俯いた。体調の悪い人を見ると、病に伏せっていた母の姿を思い出す。疲労が祟った発熱とはいえ、心配なことに変わりはない。


「……早く治ってくれたら、いいのだけど」


 その後、病人のユリスに何か作ってやれないかと思い、調理場へ向かう途中、ジルベールに出会う。「どこへ行くのか」と聞かれたので、経緯を話せば「だったらカボチャを使ったパン粥をいい」と勧められた。


「カボチャの……?」

「ああ、ユリスの好物だ」


 他人の好物など興味がなさそうなジルベールだけれど、同僚の好みはしっかりと把握しているらしい。そういうことなら、と私はお詫びの気持ちも込め、カボチャのパン粥を作ることにした。

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