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力の発現 5

 すると、目をパチパチと瞬かせた後、視線を落としたユリス。そのサファイア色の瞳が強く握りしめられた手に気づくと、珍しくユリスも頬を染めて「申し訳ございません!」と慌てて手を離す。


「……」


 お互い頬を染めたまま動きが止まる。室内に微妙な沈黙が流れて、ますます恥ずかしさが増す。みんなが寝静まっているような深夜の時間帯だからか、余計に静かで沈黙が気まずかった。


「……あの、一応言い訳をさせていただきますと、私の手を握りしめて離さなかったのはアリシア様の方ですからね?」

「え、嘘……?!」

「嘘ではございません。何やら寝言を言いながら、私の手を握っておられました」


 そう指摘され、私はますます恥ずかしくなった。もしかして、さっきまで見ていた夢のせい……?


 その後、「そのことは綺麗さっぱり忘れてちょうだい!」と、今度は私がユリスに詰め寄ったのだけれど、意地悪な彼はふと口元を緩めると「それは無理です」などと言い出した。


「ちょっと病人に当たりがきついわね!」

「これだけ元気であれば、問題ないと思いますが?」

「力の使い過ぎで疲弊してるんだから、もっと優しくしてくれたっていいじゃない!」


 と、そう言ってユリスの胸をぽかぽかと叩こうとした瞬間、両手首を掴まれて、その手が止まる。何だと思って顔を上げれば、今度は真剣な表情で見つめてくるユリスと目がった。それからユリスは改まった様子で、姿勢を正して私に向き直ると、頭を下げてきた。


「この度は、多くの民衆を助けていただき、ありがとうございました」


 ユリスの言葉に目を見張った後、私は自分の手元に視線を落とした。


「……気づいたら、勝手に体が動いていただけよ」

「少しでも結界魔法を展開するのが遅れたら、大惨事になるところでした。あの場で、誰も負傷者が出なかったのは、アリシア様……貴女様のおかげです」


 ユリスはそんな感謝の意を述べてくれたけど、私はいまだに自分のしたことを実感できていなかった。本当に、あのとき結界魔法を展開できたのは、ほんの偶然にすぎなかったから。


「まだ解明が必要な点はいろいろとありますが、今回の件でアリシア様の力も証明もされました」


 ユリスの言葉に顔をあげると、彼は優しく微笑んで私をじっと見つめていた。


「だから、もっと……貴女は誇っていいのですよ。大勢の人々を救った、自分の聖女としての能力を」


 そう言われた私は、この屋敷内での特訓の日々を思い出した。


 初歩の結界魔法も使えずに、魔法の詠唱を行う私と彼らの間に気まずい沈黙が走ったこと。何度やっても、それは変わらず「もしかして、このまま能力が発現しなければ追い出されるのでは」と、実は少しだけ焦っていたこと。ユリスと一緒に特訓を重ねた日々を。


『これだけは忘れないで、あんたは一人なんかじゃないってことを』

 

 夢の中でお母さまが私に告げた言葉が蘇る。拳をギュッと握りしめて、ユリスに向き直れば、穏やかな笑みが返ってくる。


 まだ自分の「聖女」としての使命については、正直分からない。だけど、私は今日初めて、自分にこの力が備わっていたことを心から良かったと思えたような気がした。

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