力の発現 2
「危ないっ!」
突然危険を知らせる大声が辺りに響いた。何事だろうかと思っていると、鉄鎖が悲鳴を上げるようにきしみ、大きな看板がぐらりと傾いているのを目撃して、私は目を見開く。
真下には幼い子どもを乗せた荷車を押す母親の姿。荷車に乗せられた子どもは、無邪気に笑顔を浮かべていたけれど、母親は身動きを取ることができず、顔面蒼白になっていた。
(このままだと看板が直撃する……!)
そう思った瞬間、胸の奥が熱を帯び、急に頭がクリアになる。直後、反射的に私は《《それ》》に向かって手を伸ばし、「ユリスッ!」と大声で叫んでいた。私を見たユリスは、すぐさま状況を理解してくれたのか、急いで親子の元へ駆けていく。
ほどなくして透明の膜のようなものが頭上に展開され、手のひらに熱が集中しているのが分かる。
「くっ……!」
私は体に負荷がかかるのを感じながらも、看板の方に手をかざし続けた。気づけば倒れかけた看板は宙に浮いたままになり、ユリスが救出したおかげで親子は事なきを得る。けれど、今度はパニックになった民衆たちが看板から離れようと逃げ出し、辺りは騒然となった。
「おい、あの石橋崩れかけているぞ!」
すると、今度は頭上にかかったアーチ状の石橋がポロポロと崩れかけているところだった。どうやら看板が揺れた衝撃で、橋の要石がずれてしまったらしい。一難去ってまた、一難。
(あんな石橋が崩れたら大変だわ……!)
「アリシア様!」と私を守るように立つジルベールの後ろから、フードを深く被り直して再び橋に向かって手をかざすと、結界のような薄い膜が現れて落石がその下にいる人々へ直撃することは免れることができた。
その後、すぐにユリスとリヒト、側にいた衛兵らしき人たちが結界魔法を展開して落石を食い止める。
「皆さん、ここは危険です! すぐに退避を!」
ルカは避難誘導にあたり、ジルベールは私を守るように側に立ち、周囲に目を光らせている。私は息を切らしながらも、最悪の事態を免れることができて、ほっと胸を撫で下ろした。
これまで「ルナハイドの丘」での訓練では、まったく自分の力を出すことができなかったのに、今こうして力を発動できたことに、ただただ驚くばかり。視線を落とせば、震える両手が目に入る。
(でも……あの人たちを助けられてよかった)
そんなことを考えているうちに、次第に頭がぐらぐらとし始める。ガンガンとひどい頭痛が私を襲い、リヒトやルカが「アリシア様!」と、慌ててこちらへ駆けつけてくるのが見えた。力を使った反動だろうか。急に、体にどしんとくるような重みを全身に感じる。
(ああ、ダメ……こんなところで倒れたら……)
そう思ったのだけれど、私の記憶はそこでぷつりと消えてしまい、何が内にだか分からないうちに私は意識を失ってしまったのだった。




