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力の発現 1

「わぁ~、すごい。皇都の中心部はこんなに賑やかなのね」


 大通りを行き交う人の多さを目の当たりにして、田舎育ちの私はすっかり目を丸くしていた。今日はルナハイドの丘にある屋敷を出て、私たちは皇都の中心部にやってきていた。


 基本的に、聖女だと神託を受けた私は屋敷から出られないことになっていのだけれど、あそこに住み始めて早ひと月。身の回り品の購入という名目で、特別に外出許可が降りたらしく、私はここぞとばかりに「街へ行きたい」とお願いをしたのだ。最近、能力訓練がうまくいっていないこともあり、久々の外出に心が躍る。


 屋敷内にひと通り、必要なものは取り揃えられているけれど、やっぱり自分の身の回りのものは自分で選びたいというのが乙女心。何より、皇都の中心街は店の数もジャンルも豊富と聞いている。


(絶対、行くしかないでしょ!)


 ということで、私は守護騎士4名を連れて皇都の中心部へと足を踏み入れた。ちなみに、守護騎士たちの彼らも目立たぬよういつもの格式ばった騎士姿ではなく、軽装である。


「アリシア様、くれぐれもフードは被ったままでお願いしますよ」

「まだ、誰も私が聖女だって知らないんだから、大丈夫だと思うけど」

「それでも、です。念のため」

 

 圧強めで念押ししてくるユリスに、「わかったわ」と大人しく了承する私。リヒトには「迷子にならないよう、お気をつけて」とまで忠告され、子どもじゃないんだからと、小さく息を吐いた。彼らとは、それほど年も離れていないと思うけれど、なぜかこういうときは子ども扱いされることが多い。


 まあ何はともあれ、買い物だ。


 周りを見渡せば、両サイドにずらりと並ぶ露店の数々。アクセサリーやスカーフなどの服飾品、文房具やグラスといった雑貨から、食べ歩きにぴったりなグルメまで、見ているだけでも楽しい通りである。


 城に近づくにつれ露店は減り、高級感のあるお店が増えていくらしい。この辺りは一般市民でも購入できる商品が多く、いつ来ても賑わっているとのこと。あちこちから客引きをする、威勢のいい声が飛び交っている。


「ねえ、あれは何?」

「あれはヴェーラ地方の特産品である鶏と野菜の串焼きです。遠く離れた東の地では、濃いタレをつけて焼いて食べるのが人気だそうで」

「何それ、美味しそう! 食べてみたいわ!」


 私がそう言えば、ルカが店主に声を掛けて串を1本買ってくれた。けれど、私の手に渡る前にリヒトがそれを横取りして、一番上のお肉をぱくりと食べる。


「あ、ちょっとずるいわよ、私のなのに!」

「毒見が必要なんですから、仕方ないでしょう」

「とか言って自分が食べたいだけなんじゃないの……?!」


 涼しい顔をして素知らぬフリのリヒトをガルルルと獣のように睨みつけていたら、「アリシア様、もう一本買ってあげますから」とルカに宥められる私。


 散策途中にジルベールが教えてくれた園芸雑貨店では、新作の作業着に二人で目を輝かせていると、他の三人に呆れた顔で見つめられたりなんかもしたけれど、私にとって皇都でのお買い物は終始楽しい時間となった。


 そんな中、気になる商品を見つけて、私の足がふと止まる。さまざまな色や種類の花をモチーフにしたアクセサリーを売る露店だ。赤いクロスが敷かれたテーブルの上には、イヤリングやネックレス、ブレスレッドにバレッタなどが並んでいる。


「わぁ~……かわいい……」


 乙女心をくすぐる商品に、思わずそんな声が漏れた。ラグナス皇国にとって、花は特産のひとつであり、皇都の通りにも花屋が多く出店している。花のアクセサリーを販売するお店も、もちろんたくさんあるけれど、ここにはセンスの良い品が多く取り揃えられている。


「どれか気になるものがございましたか?」


 すると、横からひょいとルカが顔を覗かせた。体をびくりと震わせた私は、とっさに「べ、別に!」と返す。素敵な商品ばかりだけど、ちらりと値札を見てみると思った以上にお値段がお高く、手を出すのは憚られた。「行きましょう」と言って、諦めることにした。


「お気に召したのは、このヒマワリのブローチでは?」


 その時だった。ユリスが商品を手に取って私に見せてきた。黄色のヒマワリと緑の葉がリース状に並ぶ、こじんまりとしたブローチ。シンプルながらも、目を引くデザインで私が一目惚れしたものだった。


 「そ、そうだけど」と口ごもる私に、横から「私もそう思いました」と割り込んでくるリヒト。ルカは「アリシア様の雰囲気にぴったりですね」と笑い、ジルベールも「いいんじゃないか」とブローチをまじまじと見つめている。


「すみません、こちらをいただけますか」


 すると、ユリスは私の返事も聞かずに支払いをし始めた。


「ちょ、いいわよ! すっごく高価なものじゃない!」


 私は慌てて止めようとしたけれど、「園芸用品を買うときはためらわれないのに、アクセサリーだと財布の紐が固くなりますね」だなんてユリスにクスクスと笑われる。「確かに……」と自分でも思い返していると、「年頃のご令嬢なのですから、その方が健全です」などとリヒトに笑われ、私は彼の横腹にパンチをお見舞いした。


「ほら」


 店主から商品を受け取ったジルベールが、そう言って差し出してくれたヒマワリのブローチ。花はどれも好きだけど、ヒマワリは私が特に好きな花だった。


「……ありがとう」


 こうして物を贈られるのはお父さまが祝ってくれた誕生日以来のことだったので、じんと嬉しくなる。「せっかくなので、つけられては?」とルカが言い、私の胸元にブローチをつけてくれた。


「似合っていますよ、アリシア様」


 にこりと微笑んだユリスに、ドキドキとうるさく鳴る胸。私は「大事にするわ」と言って視線を逸らした。


 思いがけないプレゼントももらいつつ、その後も皇都の街歩きを楽しんだ私たち。ずっと屋敷にこもりっぱなしだったこともあり、私はいつも以上に浮かれていた。


(こんなに楽しいなら、ナツメも連れてきてあげればよかったわね)


 侍女のナツメには何だかんだで、お世話になっていることが多い。せめてお土産でも買って帰ってあげようか、と考えていた、その時だった──。

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