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私って聖女ですよね? 3

◇◇◇



「ねえ、ナツメ。こっちと、こっちの服、どっちがいいと思う?」


 主人のアリシア様は、そう言いながら畑作業用のつなぎを私に見せてきた。色はどちらもピンク色だし、見た目もそんなに変わらないのでは?と思っていたけれど、注意深く見てみると装飾など細かなディティールが異なっていることが分かる。


 正直、どちらも同じに見えるのだが、私が「こちらが良いかと思います」と左のつなぎを指さすと、「私も、そう思ってたのよね!」と少し嬉しそうに笑いながら、もう一方をクローゼットにしまうアリシア様。


 普通の年頃のご令嬢なら、夜会に来ていくドレスを選ぶだろうと思うけれど、アリシア様にいたっては畑作業の服選びだなんて……。


 このように私、ナツメ・クレインが仕える主人のアリシア様は、とても変わった人だった。


 彼女はラグナス皇国の聖女に任命された御方で、今はルナハイドの丘にある通称「聖女の館」で結界魔法の特訓をなさっている。


 この屋敷内にいるのは、アリシア様の守護騎士四人と私を含めた少数の使用人のみ。屋敷の周囲にも警護の騎士が配置されているけれど、中に入ることができるのは限られた者だけだった。


 そんな中、私は「聖女様と年が近い」「武術訓練の成績が良い」という理由でアリシア様の専属侍女に任命された。


 守護騎士四家のうち、侍女に選ばれたのはクレイン家の私ということもあり、一族のお偉い方は鼻高々に四家の会議に出席していたことを思い出す。


 いかに聖女様に贔屓されるかは四家にとって重要事項。よその家よりも優位に立ちたいという、それぞれの家の思惑があるのだろう。彼ら守護騎士たちもおそらく私と同じようなことを言い聞かされて、ここへやってきたはずだ。


 とはいえ、やるべきことは明確だったので、私たちは身を引き締めてその役目とやらに注力することとなった。


 我が一族出身のジルベール様は、私と似ていて、あまり愛想が良くない。けれど、アリシア様の畑仕事を手伝っている姿をよく見かけるので、それなりに仲が良いのだと思う。


 最初はどんな方だろうと身構えていた部分もあったけれど、私の想像以上にアリシア様は気さくで親しみやすく、一緒にいて面白いと感じる人だった。


「今日は何をなさるんですか」

「テーブル作りよ。この間、ユリスと湖を歩いたんだけど、景色がすっごく素敵だったから、今度あの辺りで食事を摂りたくて」

「テーブルとイスをご所望でしたら、すぐに用意いたしますが」

「わかってないわね、ナツメ。手間暇かけて自分で作るからこそ、感動もひとしおなのよ!」


 タイトルに「スローライフ」と書かれた本に夢中のアリシア様は、「一見ムダに見えるものこそと尊い」のだと、たびたび私に熱弁する。おかげで、この屋敷には高級な調度品に交じって、アリシア様が作った家具が少しずつ増えていた。


 「聖女様が望んだことは何がなんでも叶えるのだぞ」とは言われていたが、まさかその「望み」がこれだとは、彼女に出会う前には想像もしていなかった。


「そうだ、明日の朝はまたサンドイッチを作りましょう? 前に一緒に食べた時、とても楽しかったじゃない」

「確かに楽しいひとときでしたが、私たちはあくまでアリシア様に仕える身ですから。側に控えておりますので、アリシア様だけでお食事を楽しまれてください」


 そんな風に言って遠慮すれば、「え~」と今度は駄々っ子のように頬を膨らませるご主人様。


「前にも言ったけど、一人で食べるご飯ほど味気ないんだから! 一緒に食べましょうよ~」

「……分かりました」


 やや強引な節があるが、私がOKサインを出すと嬉しそうに笑ってくれるので、私はいつもむず痒い気持ちになる。私ごときのそんな言葉で、と思ってしまうのだ。


  同性は私ひとりということもあり、アリシア様は私の前だと随分と甘えるようになってきた。それを嬉しく思う自分に、私は戸惑いを感じていた。「役目を果たすため」と思って仕えているご主人様だったはずなのに、いつの間にか自分の懐に飛び込んでくるアリシア様に、気づけば随分と絆されている。


 明るく快活で、よく笑うアリシア様は、まるで夏の太陽を浴びたヒマワリのように燦々と輝いている。自分とは正反対の性格だから羨ましく思うのだろうか。私には、アリシア様のことを、いつも眩しい光の中にいる人だと感じていた。

 

 最近は結界魔法の展開に手こずっているようで、時々どんよりと落ち込んだオーラを放っていることもあるけれど、それでも諦めず、ひたむきに練習を重ねる姿を、私はずっと側で見てきている。


 だから、アリシア様の努力が実ればいいなと密かに思っていた。今すぐには無理だとしても、いつかきっと。


「あ、そういえば、作業用の手袋に穴が開いているのよね。ナツメ、裁縫セットはあるかしら? 縫って穴を塞いでおかないと」


 何を思い出したかと思いきや、そんな令嬢らしからぬ発言をするアリシア様に、また笑みが零れてしまう。望めば新しい手袋を買うことだって、いとも容易くできてしまうのに、モノを大事にする姿勢にも好感を持っていた。


「私が繕っておきますので、手袋を持っていらしてください。アリシア様は、この後も午後に結界魔法の特訓があるでしょう?」

「いいの? 助かるわ、ナツメ!」


 そう言って破願するご主人様に、私はやはり随分と心惹かれている。少しでも自分がお役に立てれば、それでいい。そう思いながら、私はアリシア様の特訓の成果が出たとの報告を心待ちにした。

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