第6話 新聞部はお断り?
あれ? と首を傾げる奈子だったが、女子生徒に話しかけられたことで思考が途切れてしまう。
「ちょっと貴方。大丈夫? もしかして浮気に何かされた?」
「部長、その言い方は浮気に酷いんじゃないですか」
「でも、すっごい逃げ方だったわよ。浮気が起きてるってことは、触れはしてないみたいだけど」
立てる? と差し伸べられた手を取って、奈子は立ち上がる。女子生徒は奈子よりも身長が高いが、そこまで差はない。肩の位置で切りそろえた黒髪が揺れて、微かな桜の匂いがする。一方で男子生徒の方は篠原と同じくらい高身長だが、彼よりもガタイが良い。
男子生徒は、心配そうに奈子を見つめてから部屋の中の男へと視線を向ける。
「浮気。女の子に無理やり迫るのはよくないよ」
「無理やり迫ったわけではないですが……。そうですね、軽率な行動でした」
大木さんもすまない、と頭を下げてくる浮気くん。でも、顔を上げたあともジッとこちらを見てくる瞳に奈子は体をムズムズとさせる。先ほどから続くこの感覚は、一体何なのだろうか。
「で、大木さん、でいいのかな? 我が新聞部に何か用事?」
「あ、えと――」
「入部希望だそうですよ」
「え!? 本当にっ!?」
浮気くんの言葉に黒髪を跳ねさせた彼女に、奈子は小さく首を振る。
「まだ、入るとは決めてない、です」
「でも、迷ってるのよね!?」
「んむ……はい」
逃がさないとでも言うかのように、両手をがっちりと捕まえられる。確かに、わざわざ放課後にここへ来て、ハッキリとNOと言わない時点で奈子は迷っているのだろう。口に出されたことで、自分の感情の輪郭を掴んだ奈子を、2人は笑顔で勧誘する。
「じゃ、じゃあさ。今日、これから時間ってある?」
「あり、ます」
「じゃあ一緒に取材に行かない? これから丁度学内新聞のための取材に行く予定なの!」
「もし、用事があるなら正直に言ってね。無理にとは言わないから。でも、予定がないなら仮入部だとでも思って参加してみてほしいな」
黒い瞳をキラキラさせている女子生徒と、膝に手をついて笑顔で問いかける男子生徒。2人分の期待の目が、奈子に優しく絡みついてくる。
その視線に、優しい表情に、奈子はいつの間にか首を縦に振っていた。
「やった! そうと決まったら早速取材よ!」
「部長、先に自己紹介では?」
「はっ! 確かにそうね。私としたことが」
その場で足踏みをしていた彼女は、後輩からの指摘に足を止めて奈子を見る。そして片手を胸に当てて言った。
「私は長田花子。新聞部部長で、3年。んで、こっちが――」
「2年の越金恭二郎です。僕も去年部長に勧誘されて新聞部に入ったんだよ。よろしくね」
「……1年の大木奈子、です。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げた奈子に「おおきなこ、ねえ。私よりもちっこいけど」「部長、今時そういうのはハラスメントですよ」「何よ。このくらい後輩を可愛がる先輩の冗談の範囲でしょ」と小声で話している2人。
奈子には全て聞こえていたが、彼女たちが奈子を馬鹿にしているわけではないことを雰囲気でわかっていた。
「ま、そんなことはどうでもいいのよ! 入部候補も見つけたことだし、取材に行くわよ!」
「ですね。浮気も行くよな?」
越金の言葉に、奈子も部屋の中の浮気くんを見る。バチリと電気が発生したかのように合う視線に、やっぱりずっと見られてたんだなと思う。越金の問いにゆっくりと奈子から視線を逸らした浮気くんは、先輩たちに向かって笑みを浮かべた。
「――――勿論です」
「……浮気、貴方顔が気持ち悪いわよ」
「部長、それは言わないで上げてください。彼もお年頃で……色々あるんでしょうから。こういう場合上級生はそっと見守るべきです」
「面倒だわね。置いてく?」
「絶っ対に、ついて行きますから」
「必死ね」
「部長」
まあ、いいわ。行くわよ! と拳を掲げた長田に釣られるように、奈子は小さく拳を掲げた。
*
「……新聞部の取材? あーごめん、他当たって」
「取材……ですか。申し訳ないんですけど、先輩たちから新聞部の取材は受けるなって言われてまして」
「――――2度と来るんじゃねえっ! この疫病神が!」
勢いよく閉められた扉が、跳ね返る。その際わずかに出来た隙間も、すぐにピシャリと閉められた。
「……何したんですか。先輩方」
「私たちは何もしてないわよ!? 失礼な奴ね!」
――――どうやら、新聞部は他の部から嫌われているらしい。
「……もしかして、浮気くんのせいじゃ?」
「君も意外と失礼だな」




