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第14話 困ってないよ?

「――――ということなんだけど、浮気くんに浮気してもらうにはどうすればいいかな?」


「ごめん、奈子ちゃん。タイム」


 昼休みの中庭。お弁当を広げる生徒たちで賑わう中、奈子の問いかけに、早苗がパンを食べる手を止めた。


 両腕でTの字を作る早苗に、奈子は頷いて菓子パンをかじる。今日買ったのはメロンパン。口の中がパサつくが、美味しい。奈子は、パックの牛乳をストローで吸った。


 浮気くんに浮気をさせるにはどうすればいいのか。アドバイスが欲しくて話したのだが、早苗は混乱しているらしい。


「え? あれ? 浮気してほしいっていうのは諦めたんじゃなかったの? だから、浮気の告白に頷いたんじゃ」


「豹我くんが、付き合ってからイイ女を用意して浮気させればいいって」


「誰よ、その男!?」


 早苗の叫びに、奈子は首を傾げてから豹我のことを思い浮かべる。どんな人かと言えば……。


「……ファミレスで女の人に水を掛けられてたヒモ男?」


「なんで、そんな男の言うこと信じちゃうの!? 奈子ちゃんの思考回路がわからん! そんなところも好きだけども!」


「私も早苗ちゃんのこと、すき」


「うわぁん! 可愛いよおお! 私も大好きいいいいっ」


 抱きしめてくる早苗を抱きしめ返した奈子は、先ほどからこちらを見ている藤堂に言った。


「ヒカルちゃん、面白がってるでしょ」


「あ、バレた? ごめん、ごめん。だって面白いことになってるんだもの」


「愉悦の表情、してる」


「ふ、愉悦って、そこまでじゃあないよ? ただ好奇心が刺激されるというかね? でも、本当に1組でよかったよ。全然退屈しないし」


「…………ヒカル。もしかしてあんた、バレーでのポジションってセッター?」


 奈子を撫でながら早苗が問う。彼女の口元少を見ると、少々引くついていた。


 セッターというのは、トスを上げるポジションだったような。それと今の話に何か関係があるのだろうか。


「よくわかったね。うん。バレー始めた時からセッターだよ」


「やっぱり……。セッターには腹黒い奴が多いのよ」


「あははは。酷いなあ。でも、確かに司令塔とか言われるポジションだからね。腹が黒い人は多いかも。それにしても早苗、バレーに詳しいんだね?」


「……詳しくはないわよ。中学まで篠原がバレーしてたから、ちょっと知ってるってだけ」


 早苗の答えに、藤堂は「ふうん?」と片眉を上げて意味ありげに笑った。


 それに対して早苗は先ほどよりも低い声で言う。


「……なによ?」


「いやいや、なにも?」


「…………そう言えば、浮気くんが中学のバレーの授業で、何度もボールをキャッチしてコートから追い出されたことがあるって」


 奈子の言葉に、2人の視線が向く。その表情はいつも通りの2人のもので、奈子は小さく息を吐いた。


「……ぶっ、あ、あいつ、確か運動音痴だったわね。スポーツテストでも話題になってたわ、そう言えば」


「悪い意味でね。ふふ、バレーでキャッチしたら即相手側の点数だからね。そりゃあ追い出されるよ」


 ピリリとした雰囲気が消えていく。無意識のうちに固まっていた身体から、奈子は力を抜いた。


 気を逸らせそうな話題が、浮気くんの運動音痴話しかなかったのだ。笑いの種にした浮気くんには、心の中で謝っておく。


(ごめんね、浮気くん。あとで早苗ちゃんに揶揄われるかも)


「はー本人がいないのに笑っちゃって、浮気には申し訳ないね。……あと、早苗もごめん。好奇心でつい突きたくなっちゃってね。今後はほどほどに、地雷を踏まないように気を付けるよ」


「…………あんた、本当にそういう所よ。……ま、別に怒ってないからいいけど」


「奈子も、気をつかわせてごめんね」


「ううん。大丈夫。……だけど、2人が仲良しだと私も嬉しい。別に強制したいわけじゃあ、にゃいけど」


「ぶふっ! …………いかん、いかん、また鼻血が」


 鼻を抑える早苗に、藤堂がティッシュを手渡す。それを素直に受け取った早苗は、丸めて鼻に詰める。


「はは。私も奈子と早苗のやり取りを見てると癒されるよ」


「面白い、の間違いでひょ」


「そうとも言うね。それで? 話を戻すけど、浮気に浮気してほしいんだっけ」


 藤堂の言葉に、奈子は頷いた。


 そう。奈子は浮気くんに浮気してほしいのだ。そのためにイイ女を用意したい。


「そもそも奈子はなんで浮気の告白を受けたわけ? 浮気してほしいのに」


「…………ある人に、言われたの。沢山の男の人に愛を貰いなさい。貴方は愛を貰えない子供だから、貰えたら大人になれる、って」


「……それは、誰に言われたかは聞いていいの?」


 なんだか表情がまた固くなった2人に、奈子は目を瞬きながら言う。


「言ったのはお母さん。でも、私ずっと意味がよくわからなくて……。でも、浮気くんに告白されて、もしかしてって思ったんだよ。お母さんも、いつも色々な男の人と一緒にいたから」


 反応が返ってこないことに首を傾げながら、奈子は続けた。


「でも、自分がそれと同じことをするのは……なんだか面倒だなあって思って。なら、相手にしてもらえればいいのかなあと。ヒカルちゃんも、経験は大事って言ってたし」


「ちょっとヒカル! 何てこと言ってんのよ!?」


「……いやあ、さすがにこれは予想できないって。あと、これは絶対私の言葉だけが原因じゃない」


 藤堂の胸元を掴んで揺らす早苗。藤堂も眉を下げてどことなく申し訳なさそうというか、困っている雰囲気だ。


(あ、もしかして――――)


「うーん。私ね、お母さんに捨てられたけど別に困ってないよ」

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