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敗戦処理

 保健室でとりあえずの応急処置をする。鼻血の跡が痛々しい。


「水地さん、病院行くよね?一緒に行くよ」


「もういいから、放っておいてよ。あんたらほんとにおかしいから。関わりたくないから」


 無理もない。けど、放っておける状態ではない。


「いや、許しません!」


「生駒ちゃん!」


「犬神はどこにやったの!?犬神で仕返しするつもりでしょ!早く出しなさい!」


「はあ?もうあんたに憑いてるから」

 意外なことを言う水地。


「えっ!そうなの?力が湧いてくるこの感覚、これが犬神」

 ずっとズレている生駒。


「ちがうよねw憑いてるっていうか、懐いてるね」

 場違いな成川。


「あんたがおかしいからよ。普通は半狂乱になって廃人になるのに。ていうか、星野さんもわたしに対抗するためにわざわざ犬神作ってきたんでしょ。もう降参、謝るから、家に帰らせて」


 水地は何かを勘違いしている。犬神なんて、そんなにおいそれと作れるようなものではないはずだ。

「はあ?そんなわけないでしょ」


「この子のこと?これはコンちゃん。犬神なんかじゃなくてキツネだよ。私のお友達」


「わけわかんない。わたしの犬神のせいで、精神やられてた人達はもう元に戻ってると思うから。お願い許して帰らせて」


「生駒さん、もういいでしょ。るうちゃんも。君たちはもう帰って。お引き取りください」


 今日の生駒さんは明らかにおかしい。一旦引き離した方がよさそうだ。


「ダメです。私に憑いた犬神を外してください」


「それは無理。もうその子わたしの言うこと聞かないから。たぶんこれからずっとあんたに憑いたまま」


「えっ?」


「そんなパターンあるんだ」


「わたしも知らないし。こんなの初めて。でもその子はあんたとずっと一緒にいるって言ってるから」


「そうですか。じゃあしょうがないですね。変に暴れ回られるより、自分でしっかり管理した方がましだわ」


「いいんだw生駒ちゃんはその子は見えないの?」


「はい。何も見えません」


「そっかw見た目はけっこうかわいいよw」


「水地さん、行こっか。じゃあ、るうちゃんまたね」



 埒が明かないから、水地を促して保健室を出る。窓の外はもうすっかり暗くなっている。


 自転車置き場で、自分の自転車を拾って押して歩く。水地は徒歩通学のようだ。


「水地さん、なんていうか災難だったね、自業自得ではあるけど」


「⋯⋯」


「生駒さんはおかしいよね、あの人。いきなり殴るとかありなの?でも意外に傷は大したことなくてよかったよ。鼻血がいっぱい出た割にはね」


「⋯⋯」


「犬神なんて信じてなかったけどさ、ほんとにいるんだね。そんなのどこで知ったの?」


「⋯⋯」


「一緒に卓球続けてればよかったね。あの5人こそさ、犬神なんかに頼らないで、ふつうに殴ればよかったんだよ。生駒さんみたいにさ」


「バカじゃん」


「そうだねwでもその方が楽なんじゃない?生き方としては」


「星野さんもバカじゃんか。もう放っておいてよ。今さら何なのよ」


「うん⋯⋯。ちょっと後悔してるんだ⋯。自分には卓球の才能があるって思ってた時期があったのね」


「⋯⋯」


「でも、上には上がいるでしょ?それこそ生駒さんだってすごい才能だし」


「⋯⋯」


「そのうち気付いちゃうよね。自分には才能がないってことにさ。でも卓球好きだから、そんなこと認めたくなくて。怪我のせいにしてさ、水地さんのせいにしてさ、それがダメだったのね」


「⋯⋯」


「関係ないから別に。才能がどうとか。卓球好きならそのまんま素直に卓球やってればよかったんだよ。それでいいんだ。だから謝りたかった。水地さんのせいにしてたの。ごめんね」


「謝らないでよ」


「うん。ごめんね。あっ⋯」


「そっか⋯、好きなら素直にやればよかったのか⋯」


「そうだよ」


「わたしは星野さんに憧れてたから、星野さんに負けたくなかったし、星野さんに認められたかったんだ。だから苦しいと思ってた。でも違うね。今さらわかったよ。ほんとは星野さんと一緒に卓球がしたかっただけだ。ただそれだけだ」


「うん」


「あいつらにイジメられた時も、星野さんに手伝ってもらって殴ればよかった」


「うん」


 水地が急に立ち止まる。


「もう、ここでいいから。一人で帰れるから」


「そう」


「明日さ、わたしのせいで病気になってた人みんなに謝りにいくよ。それで学校辞める。最後に星野さんと話せてよかった。ありがとう」


「うん」


「あっ、ラケットどっか投げちゃったけどさ、もし見つかったらもらっといて」


「うん。また今度、卓球しようね」


「うん」


「さよなら。元気でね」


「バイバイ」








 もう二度と会えない気がして少し寂しくて泣いた。

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