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卓球しょっか?

 誰もいない体育館で一人待つ。うちの高校は定期テストの一週間前から部活が禁止になるのだ。いつもは複数の運動部で一緒に使うから異常に狭く感じるが、人がいないと案外広いことに気づく。真っすぐな道で寂しいって言ったのはだれだっけ、だだっ広い体育館も寂しい。


 床から3メートルくらい上の壁の隙間に、バドミントンのシャトルが突き刺さっている。どうなったらそこに刺さるんだろう。この学校に入った時からずっとそこにあった。入学式の時に気づいたけど、卒業式の時も、たぶんその先もずっとそこにあるのだろう。


 パタン。開いた体育館の扉から外の光が差し込む。西日が眩しい。


「久しぶり。来てくれたんだね、水地さん」

 音もなくすっと水地が入ってきた。


「わたしはあんたに用はないんだけどね」


「そうなの?ちょっと話さない?打ちながらさ」

 

「話すことなんてないよ」


「じゃあラリーだけ」

 ラケットを差し出す。水地が退部する時に置いていったやつだ。


「これ返すね。たまに使わせてもらってたんだ。勝手にごめんね。シェイクの持ってないからさ」


「もういらないから。あげる」


「ありがとう。とりあえず、はい」


 水地はラケットを受け取って、感触を確かめながらくるくると回す。

 

「それルーチンだっけ?懐かしいね。いつぶり?」


「1年ぶり」

 コーンコーンと小気味の良い音が広い体育館に響く。


「こんなに音がするんだね。誰もいないと」

 コーンコーン。コーンコーン。


「もう帰っていいかな?」

 コーンコーン。困った顔の水地。


「水地さんさ、今さらだけど、何で卓球部やめたの?」

 コーンコーン。


「そんなのわかるでしょ」

 コーンコーン。


「才能がないから?」

 コーンコーン。


 ポトリ。

「殴っていい?」

 ニヤリと笑う。コーン。


「もしかしてさ、わたしを怪我させたことを気にしてる?」

 少し回転をかけてみる。順回転。ギュン。


「うん。でもあんたが悪いのよ。あんたの才能に嫉妬してた」

 ギュイン。シュートドライブで返ってきた。痛めた膝の方、取れない。コンコンコン⋯⋯。


「わたしも才能なんてないから。見たでしょ?もう見てないか。今年の県大会の決勝、1ゲームも取れなかった」

 ボールは遠くに行ってしまった⋯⋯。


「無様ね。あの伝説のぺんぎん様が」


「水地さんの2年の時の決勝と同じ相手だよ。水地さんは1ゲーム取ったじゃん」


「それがどうしたの。負けたら同じでしょ」


「うん。あのさ、水地さん、あの5人に何をしたの?廃人になるまで追い込む必要はあったの?」


「何のこと?わたしは関係ないから」


「頭から水かけられてたでしょ。他にも何かされてたんじゃないの?」


「うるさいな」


「わたしがもっと関わっておけばよかっ⋯⋯」


「だからうるさい!あんたに何がわかるのよ!いっつもいっつもえらそうに。あんたも今日同じ目にあわせてやろうと思って来たんだけど、それはなに?あんたもわざわざ犬神作ったの!?信じられないんだけど!」


「は?なんのこと⋯」


 バターン!


「ぺんちゃん!大丈夫?」


「えっ!るうちゃんと生駒さん、どうして⋯」


 生駒が無言でものすごい勢いで走ってきて、その勢いのまま水地に殴りかかる!


「はぁ!?なにいきなり、へぶっ。お前頭おかしだろ!」

 顔に一発もらったものの、ひるまず水地も生駒に掴みかかる!


「キャー、生駒ちゃん、いきなりなにしてんのよ!女の子の顔はだめでしょ!!」


 水地はゼロ距離から膝蹴りで冷静に生駒の下腹部に当てていく。


「関係ない!」

 組み付かれて腕を塞がれた生駒は、身長差を活かして水地の鼻面めがけて頭突きをお見舞いする!ドーン!クリーンヒット!水地は膝から崩れ落ちて戦意を喪失。鼻血で床が赤く染まるっ!


「だから何なのよ⋯。こいつまじで頭おかしいじゃんか⋯」


「よしっ!勝ったー!!」

 生駒勝利の雄たけびっ!


「はぁ?生駒さんなにしてんのよ!生徒会長なのにこんなことしていいの!?水地さん大丈夫?なわけないか。とりあえず保健室行こう」


 手を貸そうとしたその手を振り払い、水地は床に落ちていたラケットを生駒に向かって思いっきり投げつける。

 

「無駄!」

 生駒はかわして無慈悲に追撃の蹴り。オーバーキル。


「生駒ちゃん、あほか!」

 ポコ。成川が生駒の頭を叩く。

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