表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
晴霞の王  作者: 瀬戸榛名
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/11

第7話 追い詰める者


 リュグルスに戻ったリヴェルは、謁見の間でロゼルトを待ちながら、ひとり思案していた。

 あいつを捉えるのはなかなか骨が折れそうだ。次に会う時は、どうするか。

 考えるリヴェルの口元は本人も気付かぬうちに緩んでいた。


「……戻ったか」


 低く落ち着いた声が響く。リヴェルはその声を聞いた瞬間、膝をついた。

 豪奢でありながら、どこか冷たい雰囲気をまとった謁見の間。中央の高座に腰掛けたロゼルトは、静かにリヴェルを見下ろす。


 王の表情はほとんど変わらない。その姿は、まるでこの城そのもののように冷たく、美しかった。


「あの女に、会ったか」


 ロゼルトが静かに問いかける。リヴェルはわずかに目を伏せ、肯定した。


「はい、セフィリア。確かに彼女は、桁違いの魔力を持っているようです。しかし──私にも、何も()()()()()でした。こんなことは初めてです」


 そう言いながら、リヴェルは、彼女の青い瞳を思い出していた。深い静寂が広がる澄んだ瞳。あの瞳は何を映していたのか。

 珍しく少し楽しげなリヴェルの様子に、ロゼルトはわずかに目を細める。


「そうか、やはり彼女は特別か」


 静寂が広がる。ロゼルトは目を閉じ、考え込むように指先で椅子の肘掛けをなぞった。


「お前は、どう思った?」


「一筋縄ではいかないでしょう。あの魔力量を完全に支配下に置いているとは。常人ではとても考えられません。正面から攻めても力を奪うことは難しい。しかし──」


 リヴェルは一瞬、躊躇(ためら)う。彼女の魔力に覚えた違和感。それを正確に捉えられているとは言い難かった。


 彼女の魔力は圧倒的で、異質だった。干渉を許さず、何の色も持たない。ただそこに()()。しかし、あれはただ良く制御されている、というには──


「あまりにも何も、見えませんでした。さすがに不自然です。あれは──あれは何かを()()()()()

おそらく本人も明確には自覚していないでしょう。その辺りを揺さぶれば、あるいは」


「なるほど、面白い」


 そう呟く彼の声には愉悦が滲んでいた。


「では彼女を、とことんまで追い詰めてやろう」


 ロゼルトは微かに笑みを浮かべ、リヴェルを見下ろす。その表情には、絶対的な確信があった。


「あの女は、我々の求める、『鍵』だ。必ず手に入れる。

──お前が彼女を導け、リヴェル」


 リヴェルはその言葉にわずかに目を見開く。かすかに口の端に浮かびそうになる笑みを消し去り、すぐに頭を垂れた。


「御意」


 冷たい謁見の間に、忠誠の誓いだけが響いた。


***


 夕暮れの城に、風の音が微かに鳴っている。雨が静かに降り始めていた。


 サテルから帰還したセフィリアは、自室の椅子に腰掛け、外を見ていた。窓の向こうには、王都の街の灯がちらちらと揺れている。


 指先に残る微かな痺れ。戦いの余韻。けれど、それ以上に、彼女の心に残っていたのは、あの声。



『またすぐに会いにくるよ。——もっとお前のことを知りたくなった』



 リヴェル。あの黒衣の男の姿が鮮明に脳裏に浮かぶ。

 胸の奥に残っているのは警戒心か、それとも。

 セフィリアはゆっくりと息を吐く。

 と、そのとき、ふと、白百合の香りが鼻をかすめた。


 周囲に花はない。けれど、それはたしかに、あの庭の匂いだった。白百合が咲く、奥庭。母の眠る場所。

 静かに、セフィリアは立ち上がる。


「……もう、そんな時期か」


 雨の匂いが、遠くから忍び寄ってくる。その匂いに溶け込むように、静かに、彼女は奥庭へと向かう。


 降り始めの雨が、王都を静かに濡らしている。しっとりと湿った空気の中、セフィリアは王城の奥庭に立つ。


 白百合が咲き誇る庭の先、母レティシアの墓は静かに佇んでいる。

 大理石で作られたその墓碑には、『ウェルリスを統べし光の女王』と刻まれていた。


「——母上」


 セフィリアはそっと手を伸ばす。指先で墓碑をなぞると、ひんやりとした感触が伝わってきた。

 今のこの国を見て、自分を見て、彼女はなんと言うだろうか。セフィリアはぼんやりと問いかける。


(……私は、どのように生きれば良いのでしょうね)


 答えはもちろん、ない。


 母が命を落としてから、もう十一年。あの日の光景は、いつまでもセフィリアの頭から離れることはない。


 どこまでも青い空の下で、最期に母が浮かべた微笑みは、今も瞼の裏に焼き付いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ