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晴霞の王  作者: 瀬戸榛名
第1章

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第6話 邂逅


 降り立ったサテルの街はひどい有様だった。建物は崩れ、土煙がもうもうと立っている。


「これは……」


 言葉を失って立ち尽くすライトに、セフィリアは住人を街の外へ逃すよう指示を出す。

 同時に自分は辺りを見回し、魔力を発している主の様子を探る。


 あたりの空間が歪んでいるかのようだ。離れていても、押しつぶされる感覚を覚えるほどの強力な力。かなり強い、とセフィリアは改めて警戒を強める。


 どうやら街の中央に陣取っているらしい。瓦礫の隙間を縫い、魔力の発信源に向けて歩みを進める。近づくごとに、セフィリアを刺し貫く魔力は強まっていた。


 ふいに、一陣の風が吹き抜ける。生ぬるい風。重く憂いを纏った、どこか春の風のような香りがセフィリアの嗅覚を掠めた。誰かの気配がすぐそばを通り過ぎたような錯覚を覚える。


 土煙が晴れ、崩れかけた建物の上に人影が見えた。刺すように冷ややかな魔力を纏った、黒衣の男。

 彼はセフィリアを認めると、静かに尋ねた。



「……お前が、セフィリアか?」



 男は頭からつま先まで品定めするようにセフィリアを見回す。彼の魔力が、探るようにセフィリアにまとわりつく。彼は訝しげに漆黒の瞳を僅かに細めた。


 セフィリアは鋭い目で睨み返す。彼の発する魔力から、この街を破壊したのが彼であることは明らかだった。

 だが今のところ、すぐさま攻撃してくる様子はない。目的がわからない。セフィリアは静かに応える。


「ああ、そうだ」


 ふたりは互いを警戒し、距離をとって様子を探る。彼女は慎重に会話を続ける。


「お前は、誰だ?」


 只者ではない、というのは確かだった。


「──リヴェルだ。リュグルスから、お前に会いにきた」


 彼もセフィリアの観察を続ける。なるほど、面白い。強力な魔力の持ち主とは聞いていたが、いくら触れても、何も感じ取れない。

 強力な防御魔法を使っているものかと思っていたが、あるいはこれは──


 リヴェルは前触れなく、あたりの空気を掻き集め、突風と化した塊をセフィリアに叩きつける。


 セフィリアは黒い圧力に押しつぶされ地に膝をつく。凄まじい圧力が全身を締め付け、肺から息が絞り出される。


 そのまま鋭い刃となった風は、辺りの草を巻き上げ、セフィリアの服と肌を引き裂いた。赤い血が飛び散り、俯いたセフィリアは大きく上下に肩を揺らす。


 とてつもない魔力だ。しかしリヴェルは涼しい顔でセフィリアを見下ろしている。 


(なるほど、まだ何も()()()()か)


 リヴェルはセフィリアの姿を観察する。やはり防御魔法を使っている様子は感じられなかった。


(もう少し、様子を見るか?)


 リヴェルはさらに攻撃を仕掛けようとセフィリアに向けて腕を上げる。


 その瞬間、セフィリアは、顔をあげ、垂れた髪の隙間から、青く輝く目でリヴェルを睨みつける。


 セフィリアの足元から魔力が弾け、眩いばかりの銀色の光とともにあたりの空間全体を揺るがす。


 リヴェルは後ろへと吹き飛び、地面に叩きつけられると、額から血を流す。

 顔を上げたリヴェルは、僅かに驚いた顔でセフィリアの方を見る。セフィリアの足元では、巻き起こる風が草花を力強く揺らしていた。


「なるほど」


 あの一瞬でこの出力か。状況を理解したリヴェルは、徐々に落ち着きを取り戻し、セフィリアを見つめ返す。

 ここまで強力な魔力を持ちながら、ここまで負荷をかけても何も()()()()



──お前の心は、どうなっている?



 険しい瞳とは裏腹に、リヴェルはどこか楽しそうだった。


「面白いな。──もっとお前のことを知りたくなった。またすぐに会いにくるよ」


 そう言ってリヴェルは姿を消した。



「セフィリア様!」


 手出しできず、事態を遠く見ていたライトは、セフィリアに向かって駆け寄ってくる。


「追いましょう! 間も無く城から応援が来ます!」


 セフィリアは逡巡(しゅんじゅん)する。確かに彼は異質だった。


「何を迷っているのです? あれほどの男を、このまま逃すわけには」


 セフィリアは、彼の纏う気迫と、彼の圧倒的な魔力を思い出す。それに彼は、まだ本気を出してはいない。狙いも分からなかった。


「いや、今日のところはやめておこう」


「しかし! ──私だけでも向かわせてください」


  ライトは今にも転移しようとする。


「だめだ」


 セフィリアはピシャリと撥ねつける。

 今から追ったとて、彼を捉えられるとは思えなかった。


「あいつはもう立ち去った。闇雲に追ったとて、どうにもならないよ。戦いより、この街の復興に力を使おう」


 そう言って瓦礫の山になった街を見渡す。


「……分かりました。でも、次は必ず」


 ライトはなおも不服そうな表情だったが、住民の元へ向かうセフィリアに渋々従った。


 セフィリアは傷を負った民の話を聞いて回る。幸い、破壊された街の状況に反して、住民への被害は少ないようだ。

 それでも胸の奥では、あの黒い瞳に突き刺された感覚が、未だ消えずに残っていた。


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