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晴霞の王  作者: 瀬戸榛名
第1章

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第5話 見えない呼び声


 セフィリアが執務室で机に向かっていると、軽快なノックの音が聞こえた。


「どうぞ」


 扉が開き、エレニアが姿を現す。


「調子はどう? あまり根を詰めないでよ、セフィはいつも働きすぎるんだから」


「──ああ、それより、何の用だ?」


 机から顔を上げることもなく、短く答えるセフィリアに、エレニアは呆れた顔をする。


「本当にあなたは相変わらずね。たまには休んだほうがいいわ」


「そうだね」


 そう答えながらも、資料を読む目は止めない。


「……全く、いつも口だけなんだから」


 エレニアは諦めたように首を振る。


「気にしないで。もうすぐ会議だから、様子を見がてら声をかけに来たの」


「そうか、ありがとう」


 なおも顔を上げないセフィリアにため息をひとつつき、先に行ってるわよ、と部屋を出る。


 会議室には、少しずつ貴族たちが現れる。

 全ての席が埋まるころ、セフィリアは部屋に入り、席についた。


「揃ったかな。じゃあ始めよう」


 会議はいつも通り、淡々と進む。目の前に置かれた書類には、税制改革案、土地の割り当て、貴族との新たな取引案が並べられている。これらはどれも重要で、時間をかけて慎重に決めるべき問題だった。


「この案では、商人への課税が重くなりすぎませんか?」


 一人の貴族が声を上げると、別の貴族がすぐに反論する。


「重くせざるを得ません。国の運営にはこれくらいの負担は必要です」


 セフィリアはその様子を静かに見守りながら、時折考え込むように目を閉じる。議論はなかなか結論が出ず、膠着した空気が流れていた。

 そろそろ自分も口を挟むか、と息を吸ったセフィリアは、突然息を止め、何かに引き寄せられるように視線をあげる。


 側に控えていた近衛兵の青年は、それに気づき不思議そうにセフィリアに声をかけた。


「どうかされましたか?」


「ああ、ライト。いや、なんともない、なんともないが……」


 セフィリアの頭は、自分の感じた違和感の正体を探っている。どこか空間が歪むような、微かな違和感。



──魔力、か?



 巧妙に存在を隠すかのように、その力はセフィリアの意識をすり抜ける。あまりにも捉えどころがない。だが、この感覚は──



(……呼ばれている?)



 その感覚に、心臓がほんの少し早く脈打つのを感じた。


 セフィリアは思わず椅子から立ち上がると、周囲を見渡し、視線を再び先ほどと同じ方角に向ける。


 今度ははっきりと、魔力の感触が、強烈に彼女の体を突き刺した。なるほど、向こうはこちらのことを補足しているらしい。


 貴族たちは不思議そうにセフィリアへと視線を向ける。セフィリア以外の誰も、この気配を感じていなかった。


 エレニアが心配そうに見つめているのが目の端に見えたが、セフィリアはその視線を受け流し、口を開く。


「ライト、今すぐ出られるか?」


 その声は冷静だが、どこか焦りも感じさせる。


「申し訳ない、この会議は一旦中断する」


 周囲の貴族たちは、何が起きたのかと尋ねるが、セフィリアは振り返らずに歩き出す。ライトは戸惑いながらも慌てて後を追いかける。


「理由は追って伝える。悪いなエリ、あとは任せた」


 ちょっと、と不満げに声をかけるエレニアを無視し、部屋を出た。


 会議室の扉を閉めた後、彼女はライトに簡潔に言葉をかける。


「サテルだ、急ぐ」


「サテルですか? 一体何が?」


「分からない。だが、誰かがいる。この感覚──並の魔力ではない」


 間に合う、か? セフィリアは足を速める。こんな魔力は今までに感じたことがない、だが確かに私のことを──


 何かの罠かもしれない、とも感じていた。ライトは置いて一人で行くべきか? しかしこのままサテルを放っておくわけにはいかない。迷っている時間はなかった。


 二人の足元に浮かんだ魔法陣が淡く光を放ち、次の瞬間、冷たい風が頬を撫でた。


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