第45話 ひとりで立つ王
「エリ!エリ!無事か?」
城に戻ったエレニアに、セフィリアが駆け寄る。
「どうしたの、慌てて?」
「いや、ロゼルトの気配がした、と思ったんだが……エリのところだと思ったが、なんともなかったか? 結界はすぐに張り直したが、お前が心配で」
「……ええ、なんともないわ」
エレニアはそう応える。
「それならいいんだ。何かあったらすぐに言ってくれ」
セフィリアはエレニアの全身を確認すると、安堵した様子でひとつ息をつく。エレニアが自分に嘘をつくなど、考えてもいなかった。
「ねえセフィ、また寝ずに働いてるんじゃない?」
エレニアはそんなセフィリアに声をかける。
「少しくらい寝なくても、私なら大丈夫だよ」
「そういう問題じゃないわ。あなたのことが心配だ、って言ってるの」
しかしセフィリアは意に介さない。
「……ねえ、セフィ」
「どうした?」
「この戦い、いつまで続くのかしら」
エレニアがこの疑問を口にしたのは、これが初めてだった。国民の誰もが思っていること。セフィリアの顔が曇る。
「どうすれば、戦いは終わるのかしら。ロゼルトを倒したら? それとも、私たちが負けを認めたら?」
「……どう、だろうね」
「ねえ、あなたは何を考えているの? みんな、あなたの考えていることが分からないのよ。だから怖い、不安なの。
私にくらい、相談してくれてもいいでしょう」
「ごめん、エリ——でも心配ないよ、必ず私が何とかする。必ず」
セフィリアにはそう答えるのが限界だった。もう、日々の戦いから、人々の生活を守るので精一杯だった。
エリに負担をかけたくはない。いや、そうではない。
一滴でも、弱音など漏らしたら全てが崩れてしまいそうだった。彼女はそれを自分に許すことはできなかった。
「……そう。分かったわ」
エレニアはそれ以上は聴かなかった。もう、無駄だと、思った。私が何を言っても、この人には届かない。この人はどこまで行っても、ひとりなんだ。孤高の、王だ。
彼女は、強すぎたのだ。あまりにも、強い。
エレニアの心の中で最後の迷いが、消える。自分がこの国を導く。そのためにやるべきことを、考える。まずは国民の支持を集めなければ。
(もし、あの人がもう少しだけでも弱さを見せてくれていたら——それでも、私は同じ決断をしただろうか)
セフィリアはエレニアのその決意を、知る由もなかった。




