第39話 閉ざされた声
ウェルリス王都。建国祭から、二月ほどが過ぎた。朝の空は晴れていたが、街の人々の表情はどこか浮かない。
「ハルシャからの報せが、途絶えております」
伝令役の報告に、執務机の前のセフィリアはペンを走らせる手を止めた。
「──いつからだ?」
「昨夜未明より。連絡用の魔法通信も、遮断されています。
今朝様子を見に向かわせたのですが、誰も街に入ることができません」
「遮蔽結界か?」
「はい、おそらく。ですが内部からの発信が完全に途絶えており、確かなことは……」
セフィリアは自身が国に巡らせた結界を探る。どこにも、違和感は、なかった。破壊された様子も、攻撃された様子も感じられない。しかし確かに、ハルシャへの干渉は阻害されていた。
(私も鈍っているのか──あるいは)
セフィリアは無言のまま立ち上がる。
「ゼドを呼べ」
呼ばれたゼドはすぐに執務室に現れた。セフィリアは状況を簡潔に伝える。
「ハルシャへ行かれるのですか?」
「いや、拒絶されている。わたしもハルシャへは入れないようだ」
セフィリアの声に焦燥感が滲む。
この気配のなさ。この魔力の空白。間違いない、彼だ。なぜ、今まで気づけなかったのか。
「何が、起きているのでしょう」
「分からない。ただ、状況は良くないだろうな」
セフィリアは兵の招集を命じ、ハルシャへの転移の準備を進めさせる。
しかし、中で何が起きているか全く分からない。こんなことは初めてだった。
考えている内に、エレニアが部屋に着く。彼女が口を開くより早く、セフィリアは彼女に声をかけた。
「エリ! 救護班に余裕はあるか?」
「余裕? そんなものはないわよ、最近はいつもいっぱいいっぱいで……」
「なんとか人員を集めておいてくれ、おそらく大きな被害が出る。
ハルシャへ向かわせられる手練を……そうだな、せめて十人ほどは──」
「待って、状況がわからないのよ、なに? ハルシャに何かあったの?」
戸惑うエレニアに、ゼドが横から状況を説明する。セフィリアはそれに口を添える。
「何が起きているかはわからない。ただなんとなく、嫌な感じがするんだ……あいつの狙いは、なんだ?」
彼女は考えながら、コツコツと一定のペースで机を叩く。
やはり誰も、ハルシャへは手出しできないようだった。セフィリアは、迷いながらもできる手配を粛々と進める。
(──自分の国に、入れないなどと)
珍しく苛立ちを滲ませ、どん、と机に拳をぶつけた。
そこに、突如として空間が揺れるような音が響く。まるで耳元で誰かが囁いたかのような、異様な声。
『聞こえているか、セフィ?』
ゼドも、エレニアも、執務室の空気すべてが一瞬にして凍りついた。
その声は、国中に響いた――リヴェルの、明らかな挑発だった。




