第37話 エリとセフィ(2)
エレニアとセフィリアが初めて出会ったのは、二人が六歳の頃。
ロゼルトによる侵攻の翌年、セフィリアの教育係を務めていたゼドが、親族であるエレニアを城へと連れてきたのだった。
レティシアの従妹弟にあたる彼女の両親も、先の戦いで命を落とし、エレニアもまた遠縁の親戚の元に預けられていた。
そんな彼女たちが、良き話相手になればというゼドの思いだった。
王城の庭園。生い茂る木の間、エレニアはゼドに連れられ、中庭へと続く小道を歩いていた。
緊張しつつも、彼女は背筋を伸ばす。
視線の先、庭の中央には、白銀の髪を持つ少女が一人、すっと立っていた。
「あなたがエレニア?」
庭に立つ少女は、エレニアに静かに問いかけた。
セフィリア。初めて会う彼女は、次代の女王として生まれ、母レティシアを失った今は、王位を継ぎ、壊れた王城に、独りで暮らしていると聞いている。
エレニアは、両親の訃報を受け、泣き暮らしていた少し前の自分を思い出す。
こんなところに一人きり、それはどんな気持ちだろう?
「そうよ。あなたはセフィリアね?」
「……ああ」
セフィリアはエレニアを見つめる。
瑠璃色の、綺麗な瞳。しかしその目は、どこか冷たい雰囲気を宿していた。
(なんだか……大人みたい)
同じ年のはずなのに、セフィリアは落ち着きすぎている。その不思議な感覚に、エレニアは興味を持った。
少し戸惑うものの、気にせず一歩近づく。
「ねえ、友達になりましょう!」
「……友達?」
セフィリアの瞳がわずかに揺れる。そんな言葉は、自分には関係のないものだと思っていた。
「私には、分からないんだ、友達というのがなんなのか」
エレニアは驚いて目を丸くする。
「セフィリアは、今まで友達はいなかったの?」
セフィリアは、ゆっくりと首を横に振る。
「友達って……一緒にお話したり、遊んだり、助け合ったりするものよ!」
「遊ぶ?」
「そう! じゃあ、私があなたの初めての友達ね!」
エレニアはにっこり笑って、セフィリアの手を取った。
この落ち着いた新しい友人のことが、もう好きになりつつあった。
セフィリアは驚いたようにエレニアの顔を見つめる。ゼドはその様子を、少し離れたところから微笑ましく眺めていた。
「でも私は、遊んでなんていられない」
セフィリアはなおも険しい顔を崩さない。
遊ぶ時間があったら学ぶようにと、言い聞かせられてきた。
それに今、この国はぼろぼろだ。城も政治も、立て直さねばならない。遊んでいる暇はない。
「何言ってるの、私と遊びましょう!」
エレニアは気にせずにセフィリアの手を引いた。
「まずはかくれんぼ! 私が鬼ね! セフィリアはどこかに隠れて!」
セフィリアはまだ少し戸惑ったような表情をしていたが、やがて小さくうなずいた。
「……分かった」
それが、二人の始まりだった。
以来、エレニアはたびたび城を訪れ、二人で多くの時を過ごした。エレニアの明るい性格にセフィリアは次第に心を許すようになる。
同じ歳の二人は、瞬く間に仲良くなった。
十年間、エレニアは、いつも一番近くでセフィリアを見てきた。国を背負って戦う彼女の姿を、見守ってきた。
二人はお互いに一番の友人にして、一番の相棒。そして孤独な王であるセフィリアにとって、彼女の存在は、大きな支えだった。
彼女はセフィリアの心の唯一の光。守るべきこの国の象徴、一番の指針。
セフィリアは、隣を歩くエレニアの横顔を盗み見る。
今でも、戦いから城に帰って彼女の顔を見るたびに、彼女は国を守る決意を確かにする。




