第32話 リヴェルとロゼルト(後)
それからは、リヴェルの能力の研究と訓練を重ねた。国の人間を利用して実験を行い、魔力を奪い、利用する術を身につけてゆく。
リヴェルの力はロゼルトの期待通り、徐々に洗練されていった。
そして、ロゼルトにとって喜ばしいことに、その特異な能力以外の面でも、リヴェルは彼にとって、良い生徒であった。
何を学ばせても覚えが良い。余計な感情を持たない彼の術は無駄がなく純粋で、ブレも隙もなく強力だった。ただ真っ直ぐに、受けるものを貫く。
ロゼルトは、次第に、彼を息子のように付き従え、自身の知識と技を伝えるようになった。
「まったく、いい拾い物をしたものだ」
十六になる頃には、彼は並ぶ者のいないほどの重臣として重用されるようになっていた。
「やはり私の目に狂いはなかった。他の者のことなど気にする必要はない。これからも私を支えてくれ」
リヴェルは無言で彼の前に跪く。
その若さ、無愛想さとロゼルトからの寵愛ぶりに、他の臣下にはリヴェルのことを好ましく思わないものも多かった。
ロゼルトの手前表立って不満を述べるものはいないが、みなどこか距離を取り、あわよくば失脚を望んでもいた。
リヴェルはそのような扱いなど意に介さないが、面倒には感じていた。
「お前もかなりの力をつけた。そろそろ、良い頃合いだろう──お前は、どのくらいできそうだ?」
問われた彼は、考え込むような表情をする。
「人には、核と器があります」
リヴェルは無機質な口調で語り出す。
「例えるなら、魔力の泉と水槽のようなもの。泉から湧き出した魔力を水槽に貯め、そこから汲み取って自身の魔法として利用する。
その水槽から溢れた魔力なら、熟練した術者であれば誰もが多少なりと自由に扱えます。
しかし、器の内側──すなわち、他人の制御下にある魔力に干渉するとなると話は別です。これがおそらく私の能力の特異性」
「なるほど、間違いない。私もこれまでお前を見てきて、その特異性はある程度理解している」
リヴェルは頷く。
「私の力であれば、魔力の保持力が弱い者の魔力はある程度手に入れられます。民間人程度であれば、問題にはなりません。
ただ、熟練者となると力を奪い取るのは難しい。例えば──」
リヴェルはふっと目を細め、静かに言葉を継いだ。
「あなたのような人の魔力には決して手を出そうとは思えませんね。
そんなことをすれば、こちらが引き摺り込まれる」
「ふっ、おだてなくて良い」
リヴェルは軽く目礼して続ける。
「セフィリアという女のことはよく知りませんが、あなたの見立て通りであればおそらく、直接その者から力を奪うというのは、現実的ではないかと」
ロゼルトは腕を組み、リヴェルの言葉を吟味する。計画の達成のためには、長期的な視点も必要だ。
「ならば、まずは適当な辺境の前衛に同行せよ。お前が奪える限りの魔力を集めてこい。ニナに同行を命じておこう。
──お前の能力は、私の魔力を取り戻す鍵だ。期待している」
「かしこまりました。あなたのために、必ずや、戦果をあげて参りましょう」
リヴェルは淡々と答える。その瞳はいつものように静かな光を湛えていた。




