表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
晴霞の王  作者: 瀬戸榛名
第2章|揺れる世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/51

第27話 必ず守る


「待たせたな、そろそろあいつも来るだろう」


 ハレからリュグルスに戻ったリヴェルは拘束したエレニアにそう呼びかける。彼女は力を奪われ、ぐったりと項垂れていた。


「先に殺しておくのもいいか? その方が面白いだろうか。あいつは怒るかな」


 先ほどの、暗い凪のような彼女の瞳を思い出す。


 リヴェルは大股でエレニアへと歩み寄り、その瞳を覗き込んだ。エレニアの魔力をその目が捉える。

 リヴェルの目には、エレニアの心のうちに宿る感情がはっきりと映る。


「いや、お前はまだ使い道がありそうだ」


 それは、リュグルスの街でもよく目にする、ありふれた感情。劣等感、自尊心、それに少しばかりの野心。

 面白みもない。面白みもないが、ささくれだって、触れるたびに見るものに小さな負荷を蓄積する。自分をいつも辟易させる、この色の感情がリヴェルは嫌いだった。


「こんなつまらない女のために、あいつも馬鹿だ」


 エレニアのことを目に映していても、彼女のことなど眼中になかった。リヴェルが興味のある人間は、セフィリアただ一人。


 少し離れると乱暴に椅子に腰掛け、拘束したエレニアを気まぐれに魔法で弄ぶ。


「こんなことをしてもセフィは来ないわよ」


 エレニアは気丈な声でリヴェルにそう言う。


「いいや、必ず来る。お前もよく知っているだろう? あいつが一番嫌いなのは、自分のために誰かが犠牲になること。

ましてそれがお前だなんて、無視できるはずがない」


 リヴェルの言う通りだった。セフィリアが必ず自分を助けに来ると、エレニアは確信していた。


(――まただ。何度もこうして、わたしは守られてばかり。こうやって、セフィの足手纏いになる)


 エレニアは歯を食いしばる。役に立ちたいのに、何もできない。必死で言葉を尽くしても、セフィリアは決して聞き入れてはくれない。私が、弱いから。


 転移の光が、青白く光った。


「なんのつもりだ」


 セフィリアが、二人の前に現れる。


「遅かったな。苦戦したか? 待ちくたびれたよ」


 リヴェルは立ち上がると、流れるようにエレニアに攻撃魔法を打ち込む。

 雷の槍がエレニアに向かって放たれ、空気が弾けるような音が響く。それをセフィリアの障壁がかろうじて受け止める。


 街での戦いで消耗した魔力では防ぎきれず、吸収した攻撃はセフィリアへと蓄積される。


「さすがの反応だ。さてここからは消耗戦だな、お前にはもうほとんど体力は残っていないだろう?

ここは俺のホームだ、こちらはいくらでも続けてやるよ」


 リヴェルが魔法を打つたび、セフィリアは防御を張る。次第に体力は削がれ、魔法の精度は欠いていく。

 衝撃が体内に溜まり、四肢の感覚が次第に鈍くなっていく。脇腹の傷が開く。視界が霞み、呼吸が浅くなる。指先に力が入る。


「セフィ、もうやめて! お願い、このままじゃ死んじゃう!」


 しかしセフィリアは、一瞬も目を逸らすことなく魔力を送り続ける。エレニアの声は耳を通り過ぎる。


「ねえ、セフィ! 私なら大丈夫だから、ねえお願い、私の話を聞いて!」


 セフィリアの頭には、思考など、もはやなかった。ただ、祈りだけがそこにあった。エレニアには、どうか、この世界に存在していて欲しい。


「ああ、美しいね。これじゃもうお前が攻撃を受けているのと変わらないじゃないか。いったいあと何発持つ? 数えてみようか?」


 セフィリアはもう声を出すこともできず、リヴェルの攻撃を防ぎ続ける。瞬きもせず鋭い目で二人を睨みつける。右手をぐっと握る。


「もうそろそろ諦めたらどうだ。どうせお前が倒れた後で、こいつも殺してやるだけのこと。お前がここまで体を張っても無駄死にだよ」


 余裕の表情で語りかけながらも、攻撃魔法を打ち込む手は緩めない。セフィリアはついに片膝をつく。

 それを見たリヴェルは口元を緩めた。


「そろそろ、終わりにしようか」


 そう言って一度攻撃を止めると、腕を伸ばしセフィリアに向けて構える。


「ラフェル」


 リヴェルの手のひらには黒い電流が収束し、空気が震える。リヴェルの眼差しはセフィリアに向けられていた。

 ——が、次の瞬間、不意にその腕は角度を変え、エレニアへと狙いを向ける。

 それを見たセフィリアの体は、反射のように動いた。


 彼の放つ魔法が、スローモーションのように見える。セフィリアがエレニアの前に転がり込むと、黒い電流の波が轟音と共に彼女に襲いかかる。彼女は全身で全ての攻撃を受けとめた。


「さすがだよ、お前ならそうすると思った。いくらお前でもこれを正面から受けたらもう動けないだろう?」


 その言葉通りセフィリアはその場にうずくまり、体を動かすことができずにいた。


「さて、この女をどうしてやろうか」


 リヴェルはカツカツと靴音を鳴らしながらエレニアの元へ近づく。


 地に伏したまま、セフィリアの指先が微かに震える。震えた指先に、魔力が収束する。リヴェルの攻撃を受けながら、目を盗んで組み集めていた術。


 人差し指でとん、と地面を叩くと、その瞬間、淡い光の波紋が広がった。

 エレニアに伸びかけていたリヴェルの腕が、弾かれる。二人の間に光の膜が降りた。

 エレニアはセフィリアの魔法によりウェルリスへと転移され、その場から姿を消した。


「ありえない! よりによって転移だと? どこにそんな量の魔力が残っていたというんだ。バカにしやがって」


 リヴェルは呆れた声でそう言う。

 セフィリアはそれ以上指一本動かせず、横たわっている。薄い呼吸の音だけが小さく響いていた。


 彼はセフィリアを魔法で拘束し、地下牢へと運ぶ。金属の格子で閉じられた石造りの部屋に、乱暴に投げ入れる。

 セフィリアはぐったりと、ただ冷たい床に横たわった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ