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晴霞の王  作者: 瀬戸榛名
第2章|揺れる世界

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第26話 灰色の勝利


 撤退していくリュグルス軍を見送りながら、誰かが、低く呟いた。


「勝った……のか……」


 セフィリアは、灰色の雲と煙に覆われた空を見上げる。


(エリは、大丈夫だろうか)


 視界がかすみ、足元がぐらりと揺らめくように感じる。裂けた脇腹からの出血がひどい。保持量以上の魔力を無理に使ったせいで身体中がさらに重かった。


「すまない、私はセレナスに戻らねば。エr……レオンに伝えて手当と復興の人員を回してもらってくれ」


 それでも、静かな声で近くにいた守備兵に伝えると、セフィリアはまたセレナスへと転移した。



 瓦礫と血煙の中。遠巻きにその光景を見ていたリヴェルは、目を細める。


──見事だ。


 見たことのない量の魔力。それをなんの感情も漏らすことなくただ操っていたセフィリア。

 リヴェルが感じたのはただの感嘆ではなかった。胸の奥底をざらりと撫でるような感覚。


(やはり、この女は……常軌を逸している)


 どこまでも冷静で、どこまでも淡々と、こんな力を振るっても、何の誇示も、感慨もない。

 敵を殲滅した後の興奮も、達成感も、彼女には微塵もない。ただ、そこに立ち続ける。血に濡れ、割れた石畳、煙を吐く街をただ見つめる。

 唐突に気付く。


 ──俺は、あの目を知っている。


 あれは、戦いに勝った者の目ではない。何かを失った者の目だ。己を削って、削って、何もかもを諦めた者の目。それは何度も何度も、鏡の中に見つけた目。


 喉が、乾いていた。


***


 転移の光が、セレナスの砦の一角に弾けた。


「セフィリア様――!」


 真っ先に気づいたのは、見張り台の兵士だった。彼の叫びに、ウェルリス兵たちが一斉に振り返る。


 砦の瓦礫の上に、セフィリアは現れた。

 鎧は所々ひび割れ、血に濡れた脇腹を押さえながら、彼女は、それでも毅然と立っていた。辛い様子など、まるで感じさせない。


「セフィリア様……!」


  リセルが駆け寄ろうとする。だが、セフィリアは片手を上げてそれを制した。


「セレナスは、無事か」


  毅然とした声で問いかける。


「はい、なんとか持ち堪えました。被害は甚大ですが……」


 安堵と共に、セフィリアは静かに頷いた。ほんの一瞬、彼女の膝が崩れかけたが、すぐに踏みとどまる。


「……ハレの軍勢も、追い返した」


 その言葉に、砦の兵たちの間に歓声が広がった。


「やったぞ!」

「女王陛下万歳!」


 誰かが叫び、次々と声が上がる。砦に、久々の希望の光が差し込んだ。


 勝利の声がこだまする中、セフィリアの視線は、遠く地平を見つめていた。

 空は灰色に曇り、地には血と瓦礫と、疲れ果てた兵たちの影。

 彼女は知っている。この勝利は、ただの延命にすぎない。街は傷つき、国もまた、消耗しつつあった。


 セフィリアは表情を変えることなく立ち続ける。しかし、ゼドは見ていた。 わずかに震える指先を。砦の石畳を踏みしめるたび、ひそやかに滲む苦痛の気配を。


(……セフィリア様)


 ゼドは心の中で、呼びかける。しかしそれを声に出すことはない。


「ゼド、ここは任せた。私はこのままリュグルスに向かう」


 セフィリアはただ静かに指示を出す。


「ハレとセレナス、両方の復興を急げ。住民の避難と、負傷者の手当を最優先に」


「……承知しました」


 そんなセフィリアの痛みに気づいていながらも、ゼドはそう応えることしかできなかった。今のこの国には、どうしても彼女の力が必要だ。彼女の痛みに、目を瞑るほかない。


 ゼドの返事を聞くとセフィリアは姿を消し、エレニアの元へと転移する。彼の気配を感じていた。


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