第20話 政務官、レオン
エレニアが、自室で書類を確認していると、来客があった。
身なりの整った、貴族の青年。育ちのいい人間特有の、自分への確かな自信を写すように、爽やかな笑みを浮かべ、背筋を伸ばした立ち姿。彼ははっきりとした口調で挨拶する。
「エレニア様、初めまして。レオンです。本日から配属されました。
こちらをお訪ねするように、と」
「あら、あなたが?」
彼が以前セフィリアが話していた青年か、と思う。
今日から、という話は聞いていた。なるほど確かに好感を与える見た目を持っている。なかなかの美青年だ。
「これからよろしくね。じゃあ……まずは、城の案内をしましょうか」
「はい、よろしくお願いします。エレニア様はお若いのに優秀だと聞いています。そんな方の元で働けて、僕は幸せです。
──それに、こんなに美しい方の元で働けるなんて」
「何よ、それ。まあ、お褒めいただきありがとう。今すぐ行ける?」
エレニアは苦笑する。
「もちろんです」
*
二人は連れ立って城内を歩く。レオンは珍しそうにキョロキョロと辺りを見回している。
「あなたは、城内に入るのは初めて? 貴族でしょう?」
「父に付いて何度か。でも、こんなところまで来るのは初めてです。素晴らしいお城ですね。どこもかしこも、穏やかで、美しい」
「この城はね、セフィリアが再建したのよ。十一年前に、ほとんど崩れてしまったから。
そして彼女の守護の魔法がかけられている。いつでも彼女の魔力が張り巡らされていて、少しでも異常があれば彼女はすぐに気付くし、並の魔術師じゃ入るどころか触れることもできない。
だから城の中にいる私たちは、常に彼女に守られている、ってわけ」
十一年前、セフィリアは破壊された城を一年で建て直した。まだ年端もいかぬ子供であったが、その落ち着いた振る舞いと指示の的確さに、周りの大人は圧倒されていた。
幼い彼女が一人の王として周りから認められたのは、その経緯があったから、というのも大きい。
彼女には、どこか有無を言わせぬ威厳があった。そしてもちろん、圧倒的な魔力も。
絶対に誰にも壊させはしない、という彼女の強い意志が生んだこの城は、以来一度も敵の侵入を許すことはなく、王都の中心に鎮座し、国の守りの要として機能している。
この城は、彼女にそっくりだった。たくさんの装飾がなくとも、人の目を惹きつけて離さない美しさも、周囲の何物も寄せ付けない堅牢さも。
そして、エレニアは、この城の中にいるといつも、彼女の魔力をひしひしと感じる。
「セフィリア様にも、ご挨拶できるでしょうか」
「きっとすぐに会えるわ。でも、あの人は気まぐれだから、いつになるかは」
エレニアは困ったようにため息をつく。
「さて、私たちの仕事だけれど」
「はい」
「これがね、特にこれと決まってはいないの。セフィリアから頼まれたことには基本的に対応することになってる。いわば何でも屋ね。
比較的経済政策の調整が多いかしら。人員を調整して、仕事を割り振る。最近は戦闘の後の復興の人員調整がかなり多くて、通常業務が滞りがちなのよ。
あなたにはそのあたりのサポートをお願いしたいわね」
エレニアは歩きながら業務の説明をする。
なるほど確かにこの青年は優秀だった。理解も早く、質問も的確。セフィリアが見どころがある、というだけあるわね、とエレニアは感心する。
彼女はさっそくこの気さくな青年のことを気に入っていた。
「じゃあ、案内はこれくらいかしら、執務室に戻りましょうか」
そう言って部屋に戻ろうとした時、伝令がエレニアに駆け寄ってくる。
「エレニア様、セフィリア様が、サトの様子を教えて欲しいと。お時間ございますか?」
「今から? ええ、わかったわ、セフィの執務室に行けばいいかしら」
「はい」
「ごめんね、レオン。女王様がお呼びだわ。先に戻っててくれる?」
「わかりました」
一礼すると踵を返す。エレニアはそのまま二、三歩歩くとふと立ち止まり、レオンを振り返る。
「あ、やっぱり一緒に来る? ちょうどいいから紹介するわ、挨拶するくらいになるだろうけど」
「ありがとうございます!」
二人はセフィリアの執務室へと向かう。




