第19話 壊れないための嘘
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「よし、もう立てそうね? 怪我は酷くないようでよかったわ」
エレニアは、サトの兵士たちの治療を行っていた。
「……何があったの?」
概ねの処置が終わったところで、彼女はサクラに尋ねる。サクラはゆっくりと答えた。
「いつも通り街の見回りをしていたら、あいつが現れました。
街への攻撃に応戦を試みたのですが……目が合った瞬間、悪寒がしたと思ったら、突然、頭が真っ白になって……」
「真っ白に?」
「はい、気が付いたら、あいつが目の前に。とにかく反撃しなければ、と思ったのですが……何度攻撃しようとしても、だめでした。魔法を使う前に魔力が消えてしまうような……」
サクラはその時のことを思い出したように自分を抱きしめ、ぶるりと震える。
「みんな同じでした。何度試しても同じ。
あいつ、言ったんです。『無駄だよ』って。『その程度の意思では、俺には勝てない。残念だが、お前達が恐れれば恐れるほど、俺は強くなる』。そう言っていました」
「強くなる……」
エレニアは考え込む。その背中に、セフィリアの明るい声が降ってきた。
「待たせたね」
戦いを終えたセフィリアは、軽快な足取りで彼女達の元に歩いてくる。
「セフィリア様……!」
「申し訳ありません、私たちのために。……私、何もできなくて」
兵士たちは口々にセフィリアに声をかける。
「このくらい私はなんでもないよ。みんなが無事でよかった」
全員の顔を見渡すと、笑顔でそう言った。
「危険な目に合わせて、ごめんね」
囲まれるセフィリアに、エレニアがさっと近づく。彼女は事務的な口調で告げた。
「セフィ、早速悪いけど、城に戻れる? 今回の件についてちょっと話がしたいの」
「待ってください、セフィリア様は今戦ってくれたばかりで、話なんて今でなくても──」
サクラがそう言いかけるのを、左手で軽く制して、エレニアの方に向き直る。
「もちろんだよ、エリ」
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「毎度毎度、馬鹿なの? こんなんじゃ命がいくつあっても足りないわ。見栄を張るのも大概にして」
城に帰り着くとすぐに、セフィリアを自室のベッドに座らせ、慣れた手つきで頭から順に治癒魔法をかけてゆく。
「いつも悪いね、このくらいちょっと休めば治るさ。それに私が強くないと、みんな不安がるだけだろう?」
「だからって、限度があるでしょう。あなたが死んだら元も子もないんだから。
いつもぼろぼろのあなたを見せられる私の気にもなって」
エレニアの声には、呆れと怒りが滲んでいた。
彼女はいつも、自分の身を削って国のために尽くしてしまう。自分にできることが、この程度しかないことがもどかしかった。
「エリにはいつも感謝してるよ。こんなところ見せられるのは、お前だけだ」
「そう言ってくれるなら、私の前でくらい強がらずに、素直に苦しいと言って欲しいものね」
セフィリアはそれには答えず、涼しい顔で窓の外を見る。それを見たエレニアは小さくため息をついて、立ち上がった。
「とにかく、しばらくは部屋から出ないで安静にしてなさい。
幸い被害はあまり大きくないみたい。話はあとよ。私は街の人の治療に戻るわね、あとは私に任せて」
「そうだね、そうするよ。ありがとう、エリ」
エレニアは最後に治癒魔法をセフィリアの全身に纏わせると、名残惜しげに部屋を出た。
扉が閉まると、セフィリアはそのままの体勢で意識を巡らせる。自分がエレニアの感知範囲外まで離れたことを確認すると、ベッドに倒れ込んだ。
静寂が、部屋に満ちる。
セフィリアはベッドにうずくまり目を閉じると、整った顔を歪ませる。誰もいない部屋に、苦しげな吐息が小さく響いた。




