表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
晴霞の王  作者: 瀬戸榛名
第1章|霞の王

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/23

第16話 剣戟の音の下で


 剣戟の音が遠くから響いてくる。訓練場では若い兵たちが汗を流していた。

 ゼドはその脇にある簡素な休憩所で、書類を手にぼんやりと遠くを見ていた。


 と、背後から聞き慣れた声がする。


「ゼド、相変わらず若者の指導か?」


「ああ、ハルカ、来てたのか。ずいぶんお疲れのようだな」


「そう見えるか? 全く、お前には敵わないな。確かに、今回はなかなか厳しい戦いだったよ。

──ところでゼド、お前のほうこそ最近どうなんだ?」


「どう、とは?」


「セフィリア様は連日、前線に政務に働き詰めだろう。付き合うお前も忙しいんじゃないのか」


「彼女に比べれば私の働きなど、大したことではない。彼女を支え国を守るのが私の務めだ」


「お前は相変わらず真面目な男だな。

そうは言っても、俺たちはあの超人のセフィリア様とは違うんだ。お前もたまには休めよ。またあの酒場に飲みに行こうぜ」


「……超人、か。そうだな。確かにあの方は特別だ。私たちとは違う」


 ゼドは何か言いたげな表情で短く答える。確かに彼女は、自分たちとは比べ物にならない力を持っている。その力で、涼しい顔をして戦い、国民を守る。しかし──

 幼い日の無垢な笑顔が一瞬、ゼドの脳裏を過った。だがすぐに、今の完璧な女王の姿がそれを塗り潰す。


 黙り込んだゼドの様子を見たハルカは肩をすくめる。


「まあ、俺には城のことはわからんが……。お前はよくやってるよ。

最近はリュグルスの動きもきな臭いだろう? あのリヴェルとかいう男、あいつは本当に曲者だ。何を考えているか分かったもんじゃない」


「そうだな、あいつはなかなか切れ者だ。それにあいつは妙にセフィリア様に執着している。そして、セフィリア様も──」


 ゼドは僅かに口ごもり、視線を落とす。


「セフィリア様がどうかしたか?」


「……いや、なんでもない。忘れてくれ。

とにかくあいつは厄介だというのは同意見だ。またお前の手を借りるかもしれん」


「他ならぬお前の頼みなら、いつでも応じるよ──俺たちは戦友だろう?」


 ハルカは軽く笑い、肩を叩いて去っていく。その背を見送ったゼドは、ふと空を仰ぎ、小さく息を吐いた。


 微かに汗と土の匂いが風に乗って漂ってくる。剣戟の音は絶えず、若者たちの声がいくつも重なっていた。


「……さて、私も戻るか」


 手に持っていた書類を片付け、ゼドは立ち上がる。足取りは重くもなく、軽くもなく、馴染んだ土を踏みしめて訓練場へと向かう。


 広場では、木剣を交える音と掛け声が飛び交っていた。幾人かの兵が、額に汗を浮かべながら打ち合っている。


「ライト、だいぶ良くなってきたな」


「はい、ありがとうございます」


「──少し右にぶれる。肩の力を抜け。いつも全力なのはお前の長所だが、冷静さも必要だ」


 ゼドは兵達の間をゆっくりと歩きながらそれぞれに声をかける。


「どうした、リセル。考え込み過ぎるのは悪い癖だぞ」


 その声に、彼はびくりと肩を揺らした。


「すみません」


「謝ることじゃない。誰にでも迷いはある。だが、それでも動けるのが兵士だ。正解を待っているうちに、戦場では命が消える」


 ゼドは決して怒鳴らない。その声は、ただ低く、真っ直ぐに落ち着いて響く。


「動くことでしか掴めぬものがある。判断を誤ったときは、その場で正せばいい。お前たちはまだ若い」


 ぱん、と手を叩くと、周りの兵たちの動きが止まった。


 ゼドは手に取った木剣を片手で軽く構えると、正面の訓練兵たちにに声をかける。


「漫然と剣を振るな。ただ剣が振れるというだけでは意味がない。

戦場では何が起こるかわからない。お前たちは国民を守るために戦場に立つんだ。

よし、 一度、私と手合わせしてみるか。全力で来い」


 兵士たちは息を呑む。

 そして、やがて一人が名乗りを上げ、まっすぐゼドの前に立った。


「よろしくお願いします!」


 剣が交わる。響く音は一瞬。だがその一閃は、若者たちの胸に確かな熱を残していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ