第12話 影の男、リヴェル
ロゼルトの指示を受けたリヴェルは、謁見の間を辞し、城の地下へと向かう。
何か考え事があるとき、彼は引き寄せられるようによくここを訪れた。ここを訪れたということは、自分は今何か気掛かりなことがあるのかと、思い当たるくらいだった。
(俺は、いま何を考えているんだろうか)
彼の前には、古びた石碑。ゆっくりと手を伸ばして、撫でる。いつもと同じ。空っぽだ。
何かが押し込まれたような禍々しい圧を発しながら、彼に映るその中身は、空っぽだった。
だがその空っぽが、妙に気になった。自分の心に引っ掛かるその何かを確かめたくて、いつも彼はここを訪れる。しかしその答えも、自分の考えも、いつもあと少しのところで掴めなかった。
(いつか、分かる日が来るだろうか)
彼はゆっくりと、その場所を後にした。
***
城の裏、詰所前にたどり着くと、次の戦いに連れて行く兵たちを呼び集める。
ばらばらと兵たちが現れ、数分もすると全員が並び揃った。
リヴェルの姿を見た兵士たちの間にわずかなざわめきが広がる。
「今回の指揮官はあの人だって?」「おい、聞こえるぞ」 声を潜めた、不満と、恐れの入り混じるざわめき。
しかし、リヴェルがゆっくりと視線を向けると、一瞬にして沈黙が訪れた。
視線が合った兵士の一人が、後ずさる。まるで背筋をなぞられたような感覚が走り、彼は身震いする。
「俺が怖いか?」
低い声で尋ねる。感情の一片も混じらない、抑揚のない声。誰もその問いに応えることはなく、息を呑む音だけが聞こえる。
「文句があろうとどうでもいい。第一、部下を引き連れるのは好きじゃないんだ。
お前たちは、ただ求められた働きをすれば良い」
リヴェルは興味なさげに言い捨てる。空気は凍りついたように動かない。
その緊迫した空気を、場違いに朗らかな声が打ち破った。
「おいおい、そんな言い方ねェだろ? もう少し優しくしてやれよ」
ウェルリス北部の小村、リュートとエルベルでの制圧戦から帰還したディオンとニナが、ちょうどその場に顔を出したところだった。
なあ、そうだよな? と、固まっていた兵士たちの肩を叩く。彼らの緊張はわずかに解ける。
「そんなんだからお前は人気がねェんだよ、俺と違って、な」
そう言う彼は、リヴェルの同僚でリュグルスの将軍の一人、ディオン。
「ウェルリスのやつらは思ったより手強かったが、まあ今回も大したことはなかったな。少なくとも、お前がこいつらを睨みつけるその目よりはマシだったぜ」
ディオンは肩を回しながら豪快に笑った。
「別に人気などいらん、俺はやるべきことをやるだけだ」
「お前はいつもそうやって、気取ってて気にいらねェな」
「ディオン、もうやめにしたら? そうやっていつも絡んでるから嫌われるのよ。
……まあ、正直私も、何もかも見透かしているとでもいうような、あなたのその態度は気に入らないけれど」
ニナがリヴェルの方をチラリと見てそう言う。
「──もういいか?
俺はお前たちに好かれようが嫌われようが、どうだっていいんだ」
リヴェルは肩をすくめる。
「おうおう、もう行くよ。
──お前ら、せいぜい頑張れよ、こいつの愚痴なら後で俺がいくらでも聞いてやらァ」
ディオンはリヴェルの前ですくんでいた兵士たちに向かってそう声を掛ける。彼は日頃から面倒見がよく、兵たちからも好かれていた。
自分とは関係ない。談笑しながら立ち去る二人を見ながら、リヴェルは思う。
彼らのように他人から好かれたことはない。それについて特に不満もなかった。彼にとって、それはただの事実だ。
リヴェルは淡々と兵たちに指示を出した。一言も無駄がなく、要点だけを的確に伝えるその口調に、誰一人逆らうことはない。翌日の作戦の全てを話し終えると、無言でその場を立ち去った。
リヴェルが立ち去った後の広場には、張り詰めた糸が緩むように、自然なざわめきが戻った。




