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晴霞の王  作者: 瀬戸榛名
第1章

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第9話 11年前 - 始まりの日(2)


 城の中で、セフィリアは男と対峙していた。


「こんな子供を連れ帰れなんて、面倒な役目を押し付けられたものだ」


 男はぶつぶつ呟きながらセフィリアの方へと近づく。


「セフィリア様、お逃げください!」


 男は目の前に立った城の衛兵を、何気ない仕草で薙ぎ払う。

 衛兵は声を出す間も無く壁に打ち付けられ、血を流して床へと崩れ落ちた。


 城の壁は崩れ、多くの人間が瓦礫の間に倒れていた。

 城の侵入者からセフィリアを守ろうと、立ち向かった城の者たち。彼らの流した血が、床の絨毯を真っ赤に染めていく。


 数分前とは変わり果ててしまった城の姿。舞う砂埃に視界が霞んだ。

 あたりに充満する鉄の匂いが鼻をつき、セフィリアの頭は締め付けられる様に痛む。


「セフィリア様に手を出すな!」


 セフィリアを庇い、家臣たちが男の前に立ちはだかる。しかし彼は手から魔力の波を放ち、瞬きするうちに彼らは床へと倒れた。


「ティナ! レント!」


 セフィリアは倒れた家臣たちの名前を呼ぶ。目の前で動かなくなった彼らの姿を見たセフィリアは、視界が霞む様に感じる。平衡感覚を失いそうになる。


 死体に溢れた城内は、異様な静けさを放っていた。もう、立っている者はセフィリアしかいない。ただ耳鳴りの様な不快な音が、彼女の頭の中に鳴り響く。


「お前のせいでこいつらは死ぬんだ。お前も、殺されたくなければ俺についてこい」


 セフィリアは黙ってその男の目を見つめる。怒りも、悲しみも、心には浮かばなかった。ただただ頭が警報の様にわんわんと鳴っている。


「声も出ないか? かわいそうに」


 話しかけながら少しずつ歩み寄る。まだ幼いとはいえ、大魔術師として名を馳せるレティシアの娘、男は警戒しながら少しずつ魔力を近づける。


「これ以上怖い思いをしたくなければ、素直に俺について来い」


 セフィリアはなおも動かない。


「……ああ、違ったかな」


 男は少し笑う。そして低い声で続ける。


「これ以上お前のために、人が死んでも、良いのか?」


 セフィリアの瞳が揺れる。セフィリアの頭はガンガンと、割れんばかりに痛んだ。今にも、男の魔力が、彼女に触れる──



 どん、と城中が揺れた。



「なんだ?」


 とっさに、警戒していた男の魔力が僅かに弱まる。その瞬間セフィリアの瞳がきらりと光り、男は背後に吹き飛んだ。


「どうした? なんだこの力は? 魔法か?」


 男は自分に起きたことが理解できず混乱する。

 正面にはセフィリアただ一人。魔法を使うそぶりなど見えなかった。それ以外にどこかから狙われている様子もない。

 そもそも、魔法をかけられたということが感知できていないのに、身体が吹き飛んでいた。


 ぶつかって壊れた石壁の破片がポロポロと肩にかかる。


「どういうことだ? お前が……?」


 なおも自分を見続けるセフィリアに向かって問いかけるが、返事はない。


 男はセフィリアにふたたび魔法を仕掛ける。しかし魔力を溜め腕を上げるその一瞬の間に、男は爆音と共に城の壁ごと吹き飛んだ。


 部屋の北半分が吹き飛び、城前の広場と繋がる。その場で向かい合って対峙していたロゼルトとレティシアは、音が聞こえた瞬間城の方を振り返った。


「これはすごい、お前がやったのか小娘」


 ロゼルトは爆音と共に姿を現したセフィリアを見て満足げに笑みを浮かべる。


「想像以上だ、ますますお前のことが欲しくなった」


 ロゼルトは自分たちの周囲にかけていた結界を開き、セフィリアに近づく。


「セフィリア、逃げなさい!」


 レティシアはそう叫んでセフィリアに防御魔法をかけた。ロゼルトはそれに対抗して攻撃の魔法を打ち出す。


 ふたつの魔法がぶつかり火花を散らした。両者の強大な魔力は完全に均衡し、激しくぶつかり続ける。その間にセフィリアはあとずさりを始める。


「待て」


 ロゼルトはこの場を離れかけたセフィリアに向かって、低く太い声で呼びかける。


 このままレティシアの魔法を押し切ることはできないと判断したロゼルトは、一旦術を引き、レティシアへと攻撃魔法を撃つ。

 娘の防御を優先したレティシアは、自身の防御が間に合わず、ぶつかった魔法で左腕を損傷し、その場に崩れ落ちた。


 ロゼルトはセフィリアへ再度声をかける。


「お前ただ一人のために城中の者が死んだのだ、よもや母親まで見殺しにするつもりか?」


 それを聞いたセフィリアはぴたり、と足を止めた。


「セフィリア、私のことはいいからそのままゼドのところに行きなさい!」


 失った左腕を庇いながら、レティシアはセフィリアに呼びかける。しかしセフィリアは動かない。真っ直ぐにロゼルトを睨みつけている。


「うむ、いい表情だ。こっちにおいで」


 ロゼルトは満足げにセフィリアに呼びかける。


「悪いようにはしない。お前が私の元にくれば、母親にはこれ以上手は出さない。早くしないと、もうこのまま長くは持たないぞ」


 ロゼルトの魔法の力は、レティシアを完全に捉えていた。


「お前はこの国の王になるのです。私の命と、国の未来など比べる余地もない、迷わず国のことを選びなさい!」


 レティシアは、セフィリアにそう呼びかける。同時に、自らの魔術を組み上げながら、ロゼルトを見据えていた。


「あなたのことは、ここで私が止める」


 彼女の周囲に無数の幾何学模様が浮かび上がる。眩い光を放つそれらは、それぞれ異なる封印術式を刻んでいた。ロゼルトの表情が一瞬険しくなる。


 ロゼルトは即座にレティシアに魔法を打ち込み、防御魔法を展開するが、レティシアの魔力は彼のそれを上回る。彼女の全魔力を乗せた光の束がロゼルトを貫いた。


「ぐっ──!」


 ロゼルトの放つ魔力の流れが乱れ、その場に霧散する。彼はすぐにレティシアの術をを打ち消そうとするが、レティシアの封印術はすでにロゼルトを捉えていた。


 レティシアはそれを見届けると、力尽きるようにその場に崩れ落ちる。自らの命と引き換えに、魔力を封じる封印術。


 ロゼルトはセフィリアに向けて魔法を放とうとするが、うまく発動できない。こんなことは、初めてだった。彼は自身の魔力が、もはや自分の制御下にないことを悟っていた。


「封印──厄介なものを残してくれたな、レティシア」


 ロゼルトは苦々しい表情を浮かべ、撤退を決断する。彼は負け戦を続けるような馬鹿ではなかった。これまで立ててきた計画を見直す必要がある。


「──いずれ、必ずお前の力を私のものにしてやる」


 ロゼルトは、セフィリアの方をチラリと見て姿を消した。


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