コロチキにマルチから救われた話
ナ〇ルがなんとなく嫌いだった。
テレビに映るあれにモヤモヤする。
プライド高いのに打たれ弱い、めんどくさそうなところとか昔の彼氏を思い出す。
昔の彼氏がそのタイプでその機嫌の上下に足元を見られていた。
私は田舎から上京してきた人間だ。
バスと電車の本数の多さに度肝を抜いたし、ビル群にはあこがれを抱いた。
東京という町にはいまだになじめない部分も多く、なじみ切りたいと思っていた。
私は以前マルチ商会の一員だった。
なぜ入ったかというと、そもそもマルチの組織に加入した自覚はなかったからだ。
今回私が加入したのはオンラインサロン型のマルチだった。
当時、私の中のマルチと言えば浄水器や怪しいサプリメントなどを売るといった販売系のものだと思っていた。
知識がなかったとはいえ、警戒する場面はいくらでもあった。
今回は私の自戒も込めて、その時のことを振り返ろうと思う。
私を救ってくれたヒーローに関しても。
きっかけは大学卒業後、大学時代のサークル仲間から久しぶりにチャットがとどいたことから始まる。
正直、サークルは同じといえどあまり接点はなかった。
ここでは【相手】と呼ぼうか。
久しぶりという会話から始まって、会うまでとんとん拍子に話が進んだ。
この時、私はマルチであることを疑うべきだった。
仲のいい友人ならともかくサークル仲間程度のつながりで急な連絡は明らかに怪しかった。
だが、田舎者ゆえののんびりした性格のせいか、社会人になって交流が狭くなり
懐かしくなって連絡をいれてきたのだろうくらいにしか思ってなかった。
【相手】と会う当日は広い公園で会うことになった。
会ってみるとかなりフレンドリーでこんな仲良い感じだったかと違和感はあった。
まぁ卒業から4年経っていたのでもしかしたら多少記憶に間違いが起きているかもしれないとは思った。
会話自体は和やかに続いた。
卒業後の進路、仕事での悩み、他のメンバーの近況について等々
しばらくあっていないこともあってか、話題は途切れなかったし、相手の会話力が高いのもあって中々話が弾んだ。
ある程度、近況について語り終わった後、相手が夢はあるかと問うてきた。
私はないと、いうと、相手は自分には夢があって将来的に経営者になりたいと言ってきた。
そのために、実際の経営者、師匠の元で働いているという。
地元の友達で職人になりたくて、師匠となる職人の元で住み込みで働いている友達がいたことを思い出しちょっと応援したくなった。
それはいいことだ、ぜひとも頑張ってほしいと伝えると、本人はすごく嬉しそうだった。
そこからは、その夢の話が話題の中心となった。
単純に私も興味を持ったこともあった。その経営者の元では何をしているのかとか、収入の話とか色々聞いた。
経営者の元では、主に仕事を振り分けてもらってタスクをこなしていくらしい。
無報酬らしく、経営の道はそんなに厳しいのかと愕然とした。
収入に関しては新卒で入った会社を辞め、現在は派遣の仕事で収入を得ており
住まいは師匠の持っているマンションで同じ夢を持つ者同士でルームシェアをしているとのこと。
ルームシェアのおかげで比較的安めの家賃で済んでいるようだ。
そういった修行の日々について感心していた。
相手からは私もどうと、軽い感じで言われたが私は苦笑いで返した。
【相手】との久しぶりの邂逅後
それからちょくちょく連絡が来ており、師匠と会うことにもなった。
実際にあった感想としては少し若々しいおじさんといったところだ。
学生時代の起業の話や会社をたたんだ時の話が面白かった。
こういう世界もあるのだと。
そこからだ。興味がわいてしまったのは。
話を総合すると
大本の経営者がいて、そこから下に伸びていく。
下のものが同士を9人集めて、またその下にといった具合だ。
今考えると、どう考えてもマルチだった…過去の自分を殴りたい。
9人勧誘に成功すると、大本に目をかけてもらい、起業する準備やテナント物件の融通をしてもらえる。
勧誘成功の扱いは、相手がサロンに加入した場合に勧誘成功の扱いとなる。
で、勧誘方法はというと相手と交流し、サロンに入ってもらう。
交流方法は様々だ。過去の友達に片っ端から声をかける。街コンで声掛けを行う。趣味のサークルを作る。声掛けと言われるまぁナンパみたいなことをする。
結局、加入した。
そこから、組織の人間としての日々を送ることになった。
まず、加入したため、相手のリーダーとそのグループメンバーとの顔を合わせ、相手の師匠への挨拶を済ませた。
これらを済ませた後は、あとは勧誘かと思っていたが他にもやることがあった。
そこから課されたものがこれだ。
・毎日のほうれん草メール
毎日、師匠に今日の勧誘人数と気づきを報告する
・週1土曜日のスタートアップMTG
週1で全く同じ内容のMTGがある
・2週間ごとの個別MTG
リーダーと2週間ごとの勧誘結果についてのMTG
・時々ある他グループとの交流会
文字通り、他のグループとの交流会だ
・月ごとの全体MTG
関東・関西交互に全グループが集まるイベントへの参加
が課された。
加入時には聞いてないぞ…。
それから様々なMTGに参加し、いろんな人と交流したが、みんなどこか疲れている感じがした。
スタートアップMTGはいわば加入直前直後用のMTGだ。主な内容は社会人基礎とこの組織の概要だ。
大体1時間ほどの時間だ。それを同じ内容で毎週実施する。4回目を受け始めた時点で意味あるのか、と思い始めた。
これらをこなしつつ、日々勧誘を実施していく。結果として誰一人として勧誘はできなかったが。
そんな日々から1か月後、様々な違和感が出てくる。
・リーダーの勧誘人数と実際にMTGに出てくるメンバーに差がある
・メンバーがたびたび飲む謎のドリンク
主な違和感はこの2つ
リーダーとの初対面の際、すでに7人勧誘済みであることを自慢げに言われたのを覚えている。
なのにどのMTGでもその7人がそろわないのだ。来るのはいつも同じ4人のみ。残りの3人はいつまでたっても会うことはなかった。
ふと、【相手】にそのことを聞いてみると、気まずい雰囲気で今は加入直後で色々ありそのうち来るとのことだった。
なんだか誤魔化されたなとは思った。
MTGの参加方法は2種類ある。現地かリモートか
リモートの場合は、【相手】が住んでいる部屋に行って1つのパソコンで映像を見る。
リモートかどうかの判断はおそらく加入経過日によると思われる。
もちろん私以外にも加入する人がいる。若い順に現地参加させているのだろう。
リモートで部屋に行った際に、ドリンクがあった。そういえば、加入する際に師匠のお店のドリンクを買っているといっていた。
違和感はだんだんと増えてくる。そうした疑念が膨らんできた3か月目。
月ごとの全体MTGに行った。
場所は幕張メッセの1エリア程。売店などもある。結構大規模なMTGだ。
もはやMTGというよりイベントだ。
そこでは、大本の演説や各グループでの勧誘数による表彰、成績によるピックアップメンバーの座談会イベントがある。
時間としては9時から17時と長丁場だ。
また、外部からスペシャルゲストを呼んだりもする。
その回のスペシャルゲストはコロチキだった。
初めて見る芸能人にちょっと退屈気味だった私は興奮した。
軽快なトークが始まり、会場が沸く。
その際、〇ダルからこんな言葉が飛んだ。
「君たち、やばい集団かなんかちゃう?」
その言葉にドキリとした。
やばい集団じゃないと思っていたが否定ができないこの気持ちはなんだろうか…
トークが終わって休憩時間がやってきた。
その間、なんとなくコロチキでSNSを検索する。
すると、元メンバーと思われる人のアカウントが何人かつぶやいていた。
その内容に、心臓が跳ね上がり、手が急速に冷たくなる感覚があった。
今自分が所属している集団がマルチだと。
スマホを見ていると、メンバーが声をかけてきていったん確認するのはやめにした。
その後のプログラム内容はほとんど覚えていない。
SNSの内容がずっと頭の中をぐるぐるしていた。
【相手】と全体MTGの感想を言い合いながら帰路についた後
私は部屋で先ほどのSNSを確認した。
流石に今日のコロチキに言及しているのはもううちの集団のことしかないだろう。
そのアカウントと他のアカウントの内容をすべて確認し、まとめると
今所属しているのは
マルチ集団
事業家になるという体で会員を集めている
9人集めることは合っているが、その先がある
まず、勧誘には段階があり、1段階目は加入、2段階目は師匠のお店の商品を月15万分の商品を購入させること
謎のドリンクがその商品だったというわけだ
それとメンバーの差異について
加入については偽名でその分月会費を余分に払うことで1人としてカウントしていると。
人によっては2段階目の15万購入も出す人がいるらしい。
だが、そう簡単に15万を出す人がいるのか疑問に思ったが、それは日ごろ課せられたものが効いてくるらしい
できる限り相手の時間を奪い疲弊させることで判断力を奪い、同じMTGで自分は頑張っていると思わせ、刷り込みをかける。
普通では15万円分の購入は絶対にやらないだろう。
だが、洗脳された状態ではさらなる努力、負荷として考えてしまいやってしまう。
また、洗脳を強くするため、師匠のもつ部屋へルームシェアをさせ、外部からの意見を遮断する。
これを知ってしまうと、すべて思い当っている。
私はとんでもないことをしていた。
今日の帰り道で【相手】から来週の土曜日MTG後、今後について話があるといっていた。
おそらく、2段階目の件だろう。
次の週1MTGの日
集団を脱退することを【相手】に伝えると意外とあっさり承諾した。
正直もっと粘られると思った。
SNSにはかなり強引な引き留めもある例があったという。
【相手】にも聞いてみた。15万円のことを知っているのか、やめる気はないのかなど
15万のことはすでに知っており、承諾済みで支払っているようだ。
もちろんやめる気はないとのこと。むしろなぜやめるのかわかっていないようだった。
もうこの人とは違う世界にいるとわからされた。
その日からマルチ集団とは縁が切れた。
今では、普通の生活に戻ることができた。
あの頃は土日はMTG、日曜日は勧誘のために街コンに行くなどをして疲弊していた。
あの時、ナダルがいなかったら、あの場にあの声がなかったら今頃、15万円を毎月支払うという愚行を犯していたかもしれない。
テレビにコロチキがでた。
今日もナダルはいい芸をする。
思わず笑みがこぼれた。
前の自分に戻れた気がする。




