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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ドライなクッキー

作者: すっしー

 とにかく、俺は親父が大嫌いだった。愛していたはずの女に平気で手を出すような男を、その女が腹を痛めて産んだ、息子ともいえる存在を平気で痛めつける男を、なぜ親父と呼ぶ?

 あいつの奇行ともいえる悪行はまるで、腐敗そのものだった。俺が前に住んでいたあの場所には、酒と煙草の匂い。俺が物心ついたその時から、あの匂いの中心に親父がいた。

「お前なんていなけりゃよかった」

 そんな臭いあいつの吐く言葉に、幼い俺は酷く傷付けられた。若い感性ゆえに、よく泣いていた。その度に母が言いきかせる。

「だいじょうぶ、だいじょうぶだから」

 大丈夫、を魔法の言葉のように扱うその呼びかけに、結局救われることはなかった。便利な魔法も、同じものを使っていれば、いつかは不便になってしまうだろう?

 実際、大丈夫だと言われるべきだったのは母のほうだ。体のあざがメイク。絆創膏がネイル。つぎはぎだらけの洋服がその日のコーディネート。彼女の容姿と言えばそんなもんだ。哀愁漂うみずぼらしい恰好が、母の姿だった。

 また、俺にも「メイク」を付けられることはあった。でもそれは幼かった時だけ。俺があいつに体格で勝るようになってからは、母親に使う「ファンデ」の色が濃く、澱んでいったのは言うまでもない。

 俺にできるはずだった友達も、俺がボロ臭いという理由でできることはなかった。学校だって俺たちを邪魔者扱い。臭い奴なんかに手を出せば菌が移るからな。

 そんな生活の中、一度、たった一度。俺が成人した頃、あいつとケンカしたことがあった。内容はちっぽけでもう覚えていなかった。でも、あの時、唯一覚えていたのは

「大丈夫だ。どうせお前は俺には勝てない」

 なぜか、自然と体が動いていた。もう、理由なんて無かったのかもしれない。初めて使った俺の握り拳。母を守ろう、そう胸に決めていた拳は、約束を守れなかった。破っても俺は悪くない、この拳が悪いのだ。

 あの時、顔に向かって飛んでいった拳。最初はただ硬くて、汚らしい皮脂が付くだけだった。だが、次第に付き始めた生温かな赤。拳がぶつかっては離れる度に、鼻から、口から、目から、赤黒い糸を引く。歯並びの悪かったあいつの黄色い歯が拳に刺さっても、止めることはなかった。ずっと殴り続けていると、呻きを挙げていた親父の眼球はついに限界を迎え、破裂する音がした。次に殴ったときには、顔は顔と呼べなくなるほど、崩壊を迎えていた。こんな気持ちいい感触があったなんて今まで知らなかった。家で鳴らすにはあまりにも似つかわしくない水音が、テンポよく響く。気持ちいい、もっとだ。嫌いなやつを殴ることはこんなにも楽しいなんて。なんで早く教えてくれなかったんだ! そう思えたほどに。

 そこから後のことは詳しく覚えていない。母は死んだみたいに、生きていた。いや、「死んだみたい」なのは嘘になるか。俺があいつを殴り殺した後、笑っていたからな。心の底から安心したかのような表情をして、顔も手も血まみれの俺を、何も言わずに抱きしめてくれた。

そこからしばらくは、昔見た笑顔を見られたような気がした。でも、母の笑顔はすぐに曇ってしまった。そこから母は、「死んだみたい」に生き続けていた。

このクソだったものは遠くに運ぶための車も免許もなかったから、袋で包んで家の押し入れに放置していた。すると警官が来た。どこかに連れられ、知らない単語ばかりが右から左に流れていった。これを「捕まる」っていうことしか知らなかった俺。だだっ広い部屋の真ん中に立たされていたあの時、周りの知らないやつに見られていたあの時、母のうるさい叫び声が部屋にずっと蔓延していた。それだけは今でも覚えている。

「明日は、俺以外の看守が面倒を見る。指示にはしっかり従うこと」

 色々あって、初めて狭い部屋に放り出された時は正直ほっとした。いつまで経っても一人。臭くもない、うるさくもない、悲鳴も聞こえない。

 初めて、眠れる気がした。



「おい、起きろー」

 俺が乾く目を擦っていると、分厚い扉の向こう側にいたのは、昨日とは声が違う看守。すっきりとした顔立ちで、俺よりかなり老いている。母と同じ年齢だろうか。こんな場所なのに、明るいオーラがよく似合う看守だ。

「おはよう」

「っす」

「もっとマトモな挨拶しろよな」

 そう言いながら慣れた手つきでボードにペンを走らせる。一通り何かを書くと、近くの台車にあったトレイをこちらに渡した。乗せられているのは、ほわほわと湯気が上がる朝飯。口が洪水に襲われる。いただきますもなく口に掻き込んだ。冷めたコンビニ弁当より、美味しかった。

「食いながら聞いてくれ、俺はこれからお前の担当になる浅野だ。お前は──────」

 目の前でなんか言っているけど、どうせ面倒なことだろう。とにかく俺は、これを食うのに忙しいからな。

「──────てな感じだ」

「うっす」

「聞いてねぇだろ」

「いや」

「まぁいい、ほら、こっち」 

 俺が飯を食った後、半ば強制的に連れられた工場みたいな場所。ただの単純労働だったから、頭を使わない分そこまで苦ではなかった。さっきの奴は、遠くから欠伸混じりに俺を監視していた。ムカつく面をしていた。

 長い拘束時間を終え、またあの部屋に戻る。飯も食った後で眠れることもなく、畳の上で寝転がっているとまた、硬いものがぶつかる音が軽快に鳴らされた。

「よっ」

 鍵を開け、遠慮もなく入り込んでくる浅野? とかいう奴。壁にもたれるように座ると、男臭い足を伸ばし始めた。

「鍵、そのままにすんのか」

「まぁ、あんたなら逃げないだろうからな」

 魔が刺したのか、単なる好奇心か、こいつの目の前で思いっきり逃げようとした。だが、俺の顔に一瞬で飛んできた警棒。

「いっだぁっ!」

「無理無理。諦めな」

 余裕そうに笑う浅野。その顔を思いっきり殴ってやりたかった。あの時みたいに。

「ここ出ていっても、何もアテねぇだろ」

「……」

 さっきので抵抗する気も起きないし、しばらくこいつとは黙っていた。なんでこいつなんかと話す必要があるんだ、とっとと出ていけよ、そう思っていた。

 顔の痛みも引き、少し落ち着いてきた頃、浅野が俺に聞いてきた。

「お前、親父を殺したんだってな」

「あいつは親父じゃない」

 こいつも、母も、あいつを親父っていう。なぜなんだ、生きる価値のないようなあいつが、「親父」なんて言われる価値はないだろう?

「いろんな人を見てきたが、まぁお前もその一人ってとこだな」

 手遊びをするように、指の骨をポキポキと鳴らしている浅野。あの時感じた敵意はない、臭いもない。でも、やっぱり気に入らない奴だってことはわかった。

「だからなんだ」

「あ、そうだ。ほらこれ、お前にやる」

 そう言って尻ポケットから取り出したのは、一冊の本だった。カバーがついていてどんな内容かはわからない。

「文字ぐらいは読めるだろうから、これでも読んどけ」

「なんで」

「今日の賃金代わりだ」

 そう言い放つと、俺が出てけという前に扉の向こうへ消えていった。

 施錠の音があいつなりの挨拶みたいに思えてならなかった。



 俺がここの生活に慣れても、夜、あいつは何食わぬ顔でいつもの時間帯にやってきた。ここまで派手に動けばバレてしまうのではないかと思ったが、俺以外の周りの部屋も使われていないから囚人から通報されることもない。

 看守なんかと話すことは何もないと割り切っていても、あいつはしつこく話題を振ってきた。その話題はどれも耳障りのいいことばかり。好きな飯は? 競馬やったことあるか? タイプの女は? 全部ありきたりだった。

 なぜこんな時間に、毎日ここに来るのかを聞いたこともあるが、「サボりだ」なんて、舌を出してイタズラな笑みを浮かべた。どっかで聞いたことがあるが、職務怠慢というやつだった。



 あいつが俺の部屋に通い始めてから一か月が経ったある日。いつもの退屈な労働を終え、あいつからもらった本を読んでいると、扉が鳴った。

「うぃ」

「来んなよ」

「お、お前、その本読んでくれてんのか? ツンデレ野郎め~」

 俺の隣にどしんと座る看守こと浅野。今日は何やら持ってきているようだった。

「それ」

「あぁこれか? 手紙だよ。……お前宛てのな」

 その言葉を聞いてページをめくる手が止まる。途端に高鳴る心臓、俺の体は勝手に動いていた。こんな俺に書いてくれる人なんて母しかいない。

「見せろ」

「うぉっ!? ちょ、お前それはっ!」

 ほぼ強引に浅野から奪い取ると、中の文字を傷付けぬように震える手を動かしながら、そっと中身の紙一枚を抜き取った。

 おかしい。その手紙に使われていた文字は堅苦しく、公的な書類を連想させるものだった。その書面に刻まれていた文字。嫌でも目に入った文字。俺が実際に初めて目にする文字。


故 竹田 雅子 享年五十六歳にて死去致しました


 意味が分からない。なぜ、この紙切れに母の名が刻まれている? きっと何かの間違いだろう。同姓同名で母と同じ年齢の、別の誰かに違いない。

「これは、俺宛てじゃない」

「お前宛てだ、紛うことなく、お前宛ての知らせだ。そして、嘘じゃない」

「違う、ちがう!」

「本当だ。……本当なんだよ」

 叩き落された、とはこのことを言うんだな。今すぐにでもこの紙を破り捨てて、そんな恐ろしいこと、無かったことにしたい。でも、俺が唯一できたのは、綺麗なこの紙を濡らすこと。下唇を血が滲むほど噛みしめて、漏れそうになる嗚咽を我慢することだけだった。

 あの時から今までずっと、あのクソ野郎から母を守ったと思っていた。悔いはないと、そう思っていた。

今まで俺のことを「母」として育ててくれたのに。その「母」の責務を、母は捨てた。俺がいるのに、俺を捨てた。

「俺……おれ……っ!」

 そうか。これが罪を犯す、か。今まで大切にしていたものが崩れ落ちていく。そして、その崩壊する音に気付くこともないまま、ある時突然壊される。気づいた時には誰もいない。愛した人も愛してくれた人も、消えてしまう。まるで悪夢だ、質の悪い悪夢だ。

「ごめんも、言えねぇじゃねぇか……」

 もう遅い。何もできなくなった悔しさが、俺の涙を助長させる。紙はすでに水気を含んで、俺の握る力で今にも破れそうな程、脆くなっていた。

「っ……クソ……クソぉ……!」

 隣に浅野がいることすら忘れ、不格好な声になりながら泣きじゃくりまくった。クソ野郎に殴られ、蹴られ、散々いじめられたあの時よりも、塩辛い味だった。


「お前は、どうしたい?」

 少し落ち着いてきた頃、浅野が俺に問いかけた。訳の分からない質問だと思った。でも、頭のどこかにいる別の俺が、勝手に答えた。

「墓参りに……行きたい」

「そうか」

 そんな俺の答えを聞くと、柔らかな笑みを浮かべて、俺の頭を優しく撫でた。

「母ちゃん。きっと喜ぶな」

 浅野が俺に初めて投げかけた、母に似たあたたかい言葉だった。



 ここに来て、数か月が経っただろうある日、いつもの時間。鍵を回す音が鳴るこの時間。

「よぅよぅ」

「何度目だよ」

「今日はとっておきだぞ〜?」

 遠慮もなく隣に座る浅野の手にある皿。若干の甘い匂いが鼻に残る。

「じゃじゃーん」

「これって」

 薄茶色の小さなクッキーが大量に乗っていた。自慢するように見せつけて一人だけで食うのだろうか?

 そう思っていたのに、浅野は俺に皿を押し付ける。

「ほら」

「え?」

「誕生日だろ、竹田」

 そう言われて思い出した。今日は、俺がこんな世界に産み落とされた日。しょうもない世界に突っ込まなくちゃいけなくなった、そんな日。お祝いなんてしない、そう思っていた。だから今日も浅野はおかしい、はずだった。

「その、あざっす」

「うい、ちゃんと食えよな」

 恐る恐る齧ると、サクッと軽やかな音だけが鳴る。外にあるゴミ箱の中の腐ったお菓子とは違う。暖かくて、美味いクッキーだった。初めて食ったここの飯みたいな、そんなクッキーだった。そんなクッキーが、ぼやけていた。

「っておいおい、泣くなよ。男だろ?」

「え? あ……おれ……」

 泣いている? この俺が? 父を殺す時だって何の躊躇いもなかったこの俺が? でも、皿にあるクッキーは液体で濡れていた。俺から出ている赤じゃない、透明な液体がクッキーに染みこんでいた。

「どうした」

「これ食ってると、止まんねぇんだよ。っ……」

「そうか、そうだな」

 嗚咽混じりの声で喋っても、俺の声は心地よく聞こえない。汚ねぇ声で泣いても,口に掻き込んでも、これが治るわけじゃない。訳が分からなくなって、リスみたいに不細工なツラになってでも食った。気の済むまで食った。大量に口に入れては水で流し込む。ずっと繰り返した。

 昔、一度だけ母から誕生日祝いをもらったことがあった。その日はあいつが出張か何かで家におらず、母と二人きりだった日。金も大してない俺たちが唯一買えたのはスーパーにある市販のケーキ。そんな安っぽいケーキでも、あの時の俺は大層喜んだ。いつも冷めた飯と痛みを提供される俺が、初めて食べるケーキ。あのケーキは本当に、美味しかったんだ。

 俺が落ち着くまで、ずっと背中を摩っていた浅野。背中を摩るその手は、昔の母を思い出させた。暖かくて、大きくて、ずっと包まれていたくなるような、そんな手だった。また俺が母に泣かされることになるなんてな。そんな俺も同類か。

「少しはマシになったか?」

「あぁ」

 もし、あいつがちゃんとした父だったなら、ここにいなかったのかもしれない。ちゃんと誕生日を祝ってもらって、友達ができたかもしれない。もっと、真っ当な人生を歩んでいたかもしれない。「普通」になれていたのかもしれない。

「ごちそうさま」

 こんな日にあいつを思い出すなんて、ついてない。そう思いながら、口に残った甘さの余韻を楽しんでいると、浅野が口をひらく。

「お前だけに言うけど……竹田は、あいつに似てる」

「誰だよ」

「俺の息子」

「あんた、息子いるのかよ」

 この浅野に息子がいること自体かなり驚きではあった。でもそれを、今は聞き返すような時ではないと俺の頭が言っている。

「あいつは本当に捻くれててな、性格だけはマジでお前とそっくりなんだよ」

「うるせぇ」

「はは、そういうとこだよ」

 揶揄うように俺の頭を帽子ではたく浅野。腕を後ろに組み、靴下の先をくねくねと動かす彼は、遠い目をしていた。言葉選びに迷っているように見える。

「クソッタレで、勉強はできないし、すぐに喧嘩するしで……まぁ、手のかかる息子だったわ」

「確かに、似てんな」

「そんなあいつは、間違えた」

「間違い?」

「人を殺すって言う間違い。浮気相手と元カノを二人とも、だってよ」

 空気の変わり様に胸がざわついた。今まで、親族から、ほかの人から人殺し! と言われても、何も心は動かなかったのに。今の俺は、そのざわめきに動かされていた。おれもある意味、「間違えた」人だからな。

 浅野の話が本当なら、二人も殺している時点で死刑はほぼ確定だ。それなのに余裕がある浅野。なぜだか全くわからなかった。

「実感はなかったな。俺の息子が人殺しだ! って信じられるか?」

「……信じるかも」

「まぁ、そこは重要じゃない。その知らせを聞いて、妻が死んだよ」

「は?」

「な、あいつも馬鹿なんだよ! 遺書には『もう耐えられなくなりました』だってよ」

 本来愛すべき人を小馬鹿にするような発言が引っかかる。その言葉をまるで気にしていないかのように振る舞う浅野だったが、声が震えている。今までの話を聞いて母を思い出したのだが、母を思い出すよりも、俺が気にかけているのは震えた声の浅野。いつも俺を茶化して、いじりの対象にするこいつが、可笑しいように思えた。

「面白いよな、人を殺すと、死ぬべきじゃない人間がばたりと死んでくんだ」

「家族は、どうなったんだよ。じいちゃんばあちゃんぐらいいるだろ?」

「家族は俺一人だけさ。俺の両親も向こうの両親も死んだ。家帰っても誰もいねぇし、カップラーメン食って寝る生活よ。俺、超不健康だぜ」

 まるで笑い話のように話す浅野。気に入らない。そのぺちゃくちゃと話す口を縫い付けてやりたかった。聞けば聴くほど俺の何かが締め付けられる感覚がしたから。

「なぁ竹田。俺は、間違えたんだろ?」

「……」

「ほらな、否定しない。おかしいよな。俺、頑張って育てて来たつもりだったんだけどな」

 まるで、全部が報われなかったかのような言い方。クソのアイツがこんなことを言ってたら、きっとまた、同じことをしていただろう。何も言わずに、殴り屠っただろう。でも俺は、浅野に何か言ってやらないと気が済まない。

「違う」

「え?」

「正しい、お前は正しかった。俺はバカだけど、それぐらいはわかる」

 浅野の饒舌な口が止まる。足の動きも、手の動きも止まる。動いていたのは、はくはくとしていた口。なんか、あの時のあいつに似てるな。でも浅野はあいつじゃない。似ても似つかない存在だ。

「なんだよ。囚人が看守に説教垂れようってか?」

「黙れ、正しいつったら正しい。俺がお前の息子だったら、そう言う」

「っ……」

 俺は大したことを言えない。でも、言いたいことを伝えるための口をもらった。こいつに文句言う口をもらった。クッキーみたいな美味いと言えるモンを食う口をもらった。

 母に、寄り添うための口をもらった。

「辛かったな」

「畜生……ちくしょう……」

 その日、俺があいつに泣かされた時みたいに、浅野は慟哭を挙げていた。俺は、昔の俺を見せられていたのかもしれない。



 あれから長い年月が経った。あそこで懸命に働いて、それなりの社会復帰の道を歩むことができるようになった。だが、いろいろあった今でも、あのクソの命を奪ったことは悔いていない。それでも、なんとなく生きようと思えるようになった。 

 あの中で生きてくうちに、好きな本ができて、好きな遊びができて、好きな飯ができた。ムショに来る精神科医は俺の精神状態を奇跡なんて言ったが、俺はそう思わない。当たり前だと思っている。強いて言うなら、出会いの運が良かっただけだ。

 そして何よりも大きな変化を言うなら

「行ってきます、親父」

「おう、行ってらっしゃい」


 俺は、浅野になった。


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