66話 『丸い明かりが灯る空、月に光は当たっていない』.74
あれから一週間経ち、約束の日になる。
現在の時刻は夕暮れ。俺たちは0番街にある噴水の前に、俺とノーシュ、アルクス、兄さん、靄然さんが集まっている。エフメリアさんは先んじて艮のところへ行っているらしい。艮を占拠している───もっとも、そんなことをしても特に意味があるわけでは無いのだが───クランを潰しに行っている。PKの集まりらしく、そういう相手にはエフメリアさんが丁度いいらしい。
俺が戦おうとしているダームンラインは夜にならないと出てこないと兄さんが言っていた。そして、艮は日中だと強くなるらしく、夜の方がいいらしい。と言うことで今集まっている。といっても、俺は今来たばっかなのだが。
「で、兄さんがここにいるってことは、できたんだろ?」
「あぁ。お前のことだからオオカミにしといたぞ」
〈械獣・狼〉━━━━━━━━━
機械で作られた獣は敵を穿つ矛となり、主人を守る盾となる。
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いや、別にオオカミ好きなわけではないぞ?たまたまそうなってるだけで。ヴァルヴァイク装備ももうあまり使わないだろうし。
と言うわけで、防具もすでに変更している。現在つけているのは〈白金之似軽鎧〉。〈銀化螺鈿白軽装〉でも良かったんだが、相手がどんな敵かわからない以上は防御力がある程度担保されていた方がいい。いや、別に神樹軽盾で十分っちゃ十分なんだが、備えあれば憂いなし。損することはないだろう。
で、そんなことより⋯⋯
「なんでこれ腕輪なんだ?」
「あぁ、それは実験に付き合わされただけだ」
「は、なんの?」
「形状記憶型金属スライム超高圧縮格納技術。王兎と餓亀のやつはプロトタイプ。あっちも一応形状記憶型金属スライム。MPを糧に成長するスライムと形状記憶の性質を持った金属を吸収させて育てたスライムをいい具合に混ぜてMPを与えることで修復するようになってるらしい。今回のは、そこに超高圧縮格納ができるようにしたらしい」
頼んでもないことを⋯⋯。まぁ、どちらかといえばアリな機能だ。あって損はそこまでないだろう。
「つまり、この状態から装備したり、狼に変えれたりすると?」
「そういうことだ。狼にするときは腕輪の横のボタンを押せばいい。どんな状態からも、そこを押せばオオカミになる。んで、装着したい時は、腕輪の手のひら側にマイクがついてるからそこに向かってとある言葉をいえばいい」
「とある言葉って?」
「それは⋯⋯」
◇◆◇◆
じゃあ行くか。兄さん達と別れた俺らは、ルーベル辺境伯家方面に向かう。
ここを通るのもこの間ぶりだな。前は馬車に乗ってたからよく見えなかったが、こんな景色なんだな。
緑が生い茂り、澄んだ空気が流れている。機械系統⋯⋯特に、蒸気機関や車などのガスを出す乗り物がないお陰と言える。
現実は汚染されまくりだ。汚い空気で溢れている。これでも、電気自動車の使用率は出始めの頃よりも増えた方なんだがな。
しかし、いい速さだな。
俺は現在、械獣・狼に乗って走っている。俺ガスで走るより数倍は速い。戦闘はアルクスが走っている。結構スピードを落としてくれているみたいだが。
そして、それに追いつけることができるノーシュ。お前イカれてるよ。なんか、あれだな。エフメリアさんが瞬間的なスピードと剣速に捧げてるなら、ノーシュは単純なスピードに捧げてるんだな。
確か、フォルティスさんは完全な剣速だっけか?自分のHPが上の場合、VIT無視で攻撃できるのはえげつないよな。まぁ、装備があると通らないらしいが。完全にVSモンスター特化だ。
「いや、にしてもおかしいだろ」
「何が?」
「『何が?』じゃねぇよ。なんで走ってついてこれるんんだよ」
「スキルを大量に使ってるから。これしてたら次のレベルアップ時にスキルが強化されるから。今のうちにしとこうと思って」
「え、今のレベルは?」
「49」
たか⋯⋯って思ってけど、一週間あればそんなもんか。
「そういえば、ディグニって双子の兄弟とかっているのか?」
「え?いないが」
「そうか、ならいいんだ」
どうしたんだ、こいつ。
「二人とも、スピードを上げるぞ」
「「了解」」
アルクスの合図でスピードを上げる。
◇◆◇◆
ルーベル辺境伯領と氷鉄採掘場を通り過ぎ、山を駆け上がる。
道中、ウルヴァイスの群れが襲ったりもしてきたが、難なく倒し、夕日が落ちて完全に暗くなった頃。俺達は頂上へと着く。
山の頂上には、そこそこの大きさの湖とそのそばに立つ大木だけがある。
湖の水面は風で揺れながら、光を反射し輝いている。
「何もいないな」
辺りを警戒しながら、ノーシュがそういう。
「たまたまいなかった。その可能性も加味する必要があるな。それか、まだその時間ではないか。どうにしろ、もう少し待ってみないとわからない」
アルクスのその言葉に同感しながら、俺は湖の方へと向かう。
夜ということもあり、水面下の姿を見せないそれは、鏡となり夜空を写す。
その中に一つ、気になるものがあった。
それは丸い形をしており、夜空に灯る星々の倍の輝きを放っていた。傍の大木から伸びた枝の下から顔を出すそれに、一瞬目を奪われた。
「月か⋯⋯」
改めてその言葉を口にする。その瞬間、俺の体の細胞達がそれを否定した。
おかしい、そんなはずはない。だって今日は新月なのだから。道中まで月なんてものはなかった。この頂上についてからだ、"それ"を月だと認識したのは。
水面で光る⋯⋯いや、俺の上の方で光ってるそれは月ではない。
そして何より、水面の鏡越しのそれと目があった。
「避けろ!」
直後、月だと思っていたそれは煌々たる光を放ち、辺りを焼きながら動き出す。
『ダームンライン Lv⬜︎⬜︎⬜︎』
仮面r⋯⋯正確にいえば、鉄の男が元なのですが。
すみません。自分自身でも何言ってるか分かりません。




