33話 『執行者:グライヒ・ゲヴィヒター・リヒト』.41
「踏み込む直前、近づいている時、殴る時。その瞬間にラウムが出てきている」
リヒトの圧倒差に目を丸くしていると、アルクスがそう答える。
「ラウルが出てきてるって?」
「たとえば、踏み込むときにリヒトの足の影を起点にラウムの足だけが出てきて、ラウムの足で地面を蹴っている。近づいてる時は左足だけで踏み込んだことにより崩したバランスを修正するために」
「あとユニオンってなんだ?」
「ユニオンはテイムモンスターとの合体だよ。従わせた獣と合わせる体で従獣合体。本来は職業がないといけないのだが、リヒトはそれを無理やりしてるみたいだな」
なるほど、頭がおかしいってわけか。
「まだまだぁ!」
手放した剣を拾い上げ、リヒトが叫ぶ。
リヒトの背中の屋根のようなものは影を作るためのようで、そこからラウルの羽を出し飛行する。
飛行している途中にどこからか取り出した小石をリオンの方に投げつける。しかし、それは数メタル届かずに落ちる。
「素の力は大したことないのね」
「あぁ?」
「盾盾盾」
次の瞬間。見えない何かにリヒトの体が衝突する。
「スキルを持っていないとでも思ったのかしら。持ってる気決まってるでしょう。【平短個】」
さらに発動されたスキルによりリヒトの体はゆっくりと押しつぶされる。
そんなリヒトに呼吸を正常に直したリオンが、近づいていく。
「ぺったんこってスキル名ダサくね?」
「見てわかる通り、胸がないんだろ」
アルクスに対して言ったつもりが、辺境伯が答えてくる。
いや、酷いなこの人。ゲーム内アバターで男だからぺったんこなのは仕方ないけど。リアルでもそうだった時失礼な発言だぞ?いや、まぁこの人にリアルって言っても何の話だってなるんだが。
「うるさいわねぇ。小さくて何が悪いのよ」
あっ本当に小さかったんだ。コンプレックスからくるスキルもあるんだな。
てか、まぁあそうだよな。基本的に胸は大きい方が好まれるし。
俺は小さい方が好みだが。
「戦闘中によそ見なんて、有罪有罪。そんなに余裕があるのかぁ?」
地を蹴ってリオンのスキルの効果範囲外に出たリヒトがリオンに対して再び猛攻撃を始める。
次々に放たれるリヒトの攻撃。しかし、そのすべてはラウルの攻撃であり、リオンがジャストガードを当てたとしても動きを止めるのはラウムだけ。さらに、ラウルの羽は判定上盾と同じ扱いを受けるので、必然的にリオンもジャストガードの効果を受けてしまう。
そうなるとラウムがジャストガードの効果を受けている間に動けるリヒトに一方的に攻撃を受けることになる。
「完全にこちらが勝てる状況だね」
「最初の余裕さが消えたのに加え、戦術的有利も無くなった今。逃げる以外は負ける道しかない、か」
⋯⋯だが。
「なぁアルクス。もし、自分がリヒトに勝つことができない状況でリヒトから逃げ切るってできる?」
「無理だろうね。リヒトと出会って数時間だが、話していてわかる。彼は売られたケンカは必ず買うし、決闘から逃げよものなら地の果てまで追いかけてくるタイプだ」
つまり、リオンの死は確定。
◇◇◇◇
⬜︎ アルトヴァ・リオン
みたいなことでもどうせ考えてるんでしょうね。
それは、リオン自身がすでにリヒトに勝てないと思っているからこその妄想。実際、その妄想は本当に思われている。
が、それでも諦めない。諦めれない。
自らの上に立つものがそれを許さない。
盗賊の時点で悪の道の者だ。されど、あの方は逃げるなどしない。
盗賊である前に一人のプレイヤーなのだから。ゲームにおいて、事の発端がどうであれ戦闘から逃げるのはあまり好まれるスタイルではない。
そして、我が上に立つもの。墓荒らしのヒュアイナの創設者。Α・H・Ω。彼が作ったルールがある。
それは───
『我らは常に捕食者であり、被食者を圧倒しなければならない。もし、捕食者から被食者になるようなら命とともに消えること』
───である。
これが意味するのは、リレーベンスにとっては単純な死。そして、プレイヤーにとってはゲームデータの消失を意味する。
このゲームを半年続けてきたリオンにとって何よりも避けるべきこと。故に彼女は戦う決意をし、リヒトを倒すべき構えようとして───
───直後、踵を返し森の方へ逃げ出す
リヒト≒〇ヨネッタ




