28話 『伝説の男』.36
ライオンもどきに喰われそうになったデュークさんが、喰われかける直前に腰に手を当てる。すると、腰に杖と傘が出現する。そして、腰についた杖に手をかけ、ライオンもどきの顔面を切り刻む。
「おぉ、仕込み杖か」
いやそれより、デュークさん戦えたんだな。
顔面を刻まれたライオンもどきは、瞼も切られたのか目を開けることができず、ガリの指示に従ってデュークさんを殺しにかかる。しかし、行動がワンテンポ遅れているためその攻撃はデュークさんに届くことはなく、逆にデュークさんに攻撃を与える隙を作っている。
上から斜め下へと大きく前足をあげ、振り下ろす。それに合わせてデュークさんが、ライオンもどきが出した前足の奥。必然的に攻撃が届かなくなる場所に飛び退けるが、ライオンもどきがまたも大きく口を開けて噛みつこうとする。すると、デュークさんが腰のもう片側についている傘を取り出し、ライオンもどきの開いた口の端に傘の持ち手を引っ掛け、外側に引っ張る。それによりライオンもどきの重心が崩れ、そこそこの勢いで倒れる。
「【影縫い】」
すると、アルクスが倒れかけたライオンもどきの陰に矢を刺し動けなくする。ライオンもどきが止まったことでガリがライオンもどきの背から放り出される。
「強すぎないか、デュークさん」
「まぁな」
思わずでた言葉に対して、辺境伯が反応する。
そこそこ距離があるんだけどな⋯⋯なんで聞こえるんだよ。
「何者なんですか、あのお爺さん」
「あの方は昔の英雄だよ。ギルドの証明証も現役時代はプラチナだ」
「プラチナ?!」
「今はゴールドだけどな」
「あれ、ディグニ知らないっけ?あの人は数少ないプラチナ証明証の保持者の1人であるオールデン・ラグナ・デュークだよ。ルーベル辺境伯が言ったように昔の話だけどね」
アルクスも俺たちの会話に入ってくる。話しながら矢を放つのすげぇな。ガリが必死に避けてるよ。
デュークさんは倒れ掛けの状態で固定されているライオンもどきに高速な剣技をお見舞いする。元だとは言え、さすがはプラチナ。速さに長けた剣技ではあれど一気にライオンもどきを削っていく。
相当な体力を削られたのか、ガリがアルクスの矢を避けながらライオンもどきを回収する。
その一瞬の隙を、デュークさんは見逃さない。
持ち前のスピードでライオンもどきの回収に意識を向けたガリを切り刻む。それにより、ガリの体はHPが無くなり、倒れる。
この世界のNPCはモンスターやプレイヤーみたいにピクセルに変わることがなく、死体が残る。
「あぁそれと、元プラチナであれどそこそこの強さを持っている。ゆえに今の所彼に及ぶものは数人くらいだよ。まぁ他にもいると思うけど」
なんでこのタイミングなんだよ。
「他にもって、例えば?」
「少なくとも、僕よりも強い人かな」
⋯⋯アルクスより強いってのは何と比較してなのだろうか。例えばそれが単純に勝負して勝てるかどうかなのであれば、50レベルに到達している近接ビルドのプレイヤーであれば容易に勝つことができるだろう。
て言うか、基本的に肉薄することが可能であるのなら、遠距離や遠距離よりの中距離を主体とするプレイヤーには特効になる。ピストル等の近接もいける武器なら話は変わるが、基本的にレンジが長いやつは距離を詰めれば勝つことができるし。
「へー」
俺はそのような適当な返事をし、もう一度リヒトの方向を向く。




